読書感想文「生き物の死にざま」生きるべきか、増えるべきか、それが問題だ


「生き物の死にざま」は様々な動物がどのように死ぬかを面白おかしく解説した本です。


この本で解説される生物の多くは、子孫を残すために死んでいきます。

ですから、「生き物の死にざま」を語ることは、同時に「生き物の生まれるさま」を語ることでもあります。


子供の栄養になる為に我が身を食わせるハサミムシ。
口のない成虫になって餌を食べずに卵を産むためだけに短い生を散らすカゲロウ。
男性ホルモン異常で免疫系を崩壊させ、ボロボロになって死ぬまで交尾を続けるアンテキヌス。
2度と戻ることのない川上りの果て、生殖行動直後に死ぬようにプログラムされている鮭。
何も食べずに卵を守り、その孵化を見送り死ぬタコ。
卵を産むために、深海の凍死するほど寒い場所に自ら進むイエティクラブ。


この本に出てくる動物たちの多くは死を賭して増えることを選んでいますが、中にはひたすら生きることを選択した生物もいます。

ベニクラゲは老いると幼体のポリプに若返り、捕食されない限り永遠に生きます。
5億年以上生きている個体もいると言われています。

ハダカデバネズミのほとんどは子供を生まず、不老です。しかし生物は進化により「老化」という機能を獲得したので、不老になった生き物は「退化」したとも言えます。

例えば、老化しない単細胞生物には、そもそも生物学的な死が存在しません。分裂して増えるだけの生物には、死んでいく「個体」がないからです。
生物は進化の過程で、老化して死ぬ機能を得たのです。

ただし、進化と進歩は別であり、進化は状況に適応するだけのことなので、機能を失う退化も進化であると言えます。


生物は「生存年数×繁殖数」を最大化するように進化してきました。

つまり全ての生き物は、自分の遺伝子をより長持ちさせ、より増やそうとしているわけです。

強く大きな肉食獣は長生きする代わりに、身体を維持するために餌を多く必要とするので数はそんなに増やせません。

小さく弱い虫はすぐに食われて死んでしまう代わりに、莫大な数の卵を産みます。


「生存年数」を延ばす方向に進化するか、「繁殖数」を増やす方向に進化するか、生物は様々な戦略を採用しています。

「生きるべきか、増えるべきか、それが問題だ」というわけです。

中にはこの自己保存の法則に反しているように見える生物もいます。
アブラムシの中には成体にならず、子孫を残さず、兵隊として生涯を終える個体が多くいます。
これは自己の遺伝子を犠牲にして他者を守っているように見えます。
しかし、実はこれらのアブラムシは女王のクローンであり、女王を守ることが自分の遺伝子を守ることにもなるのです。


この本は生物の生存戦略の多様性を、文学的な比喩と擬人化を交えて解説してくれます。
これはこの本の長所でもあると同時に、危険だとも思います。

話がずれますが、私は昔の動物番組が嫌いです。
動物行動を過度に擬人化して解説するからです。

子を失った象の映像に「お母さん象が子供をなくして泣いています」というナレーションをつけたり、
獲物を逃がしたライオンを「激しい怒りに燃えています」と表現したりします。


過度の擬人化は、動物の生態系を理解するのにジャマであると私は批判します。

この本の擬人化については、話を分かりやすくする比喩の段階で留まっているので問題ないとは思いますが、アカイエカの行動を
「この一瞬の喜びが、彼女に一瞬の油断をもたらしたのだろうか」
と説明したりするときに、比喩からの逸脱を感じます。


最後に少し批判的なことを言いましたが、私はこの本を「生物の生存戦略の多様性を分かりやすく教えてくれる良書」と評価します。

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