読書記録「絶滅の人類史」

【ヒト以外の人類】
世界には過去、25種類以上の人類がいたが、現存する私たちホモ・サピエンス(和名ヒト)を除いて絶滅した

発見されている最古の人類化石は約7000万年前のサヘラントロプス・チャデンシス

【唯一の直立二足歩行する動物】
チンパンジー類から進化した人類の特徴は直立二足歩行と犬歯の縮小。

体感を直立させて歩き、停止時に頭が足の真上にくるのは全動物のなかでヒトだけ

骨格の特徴としては、頭蓋骨の下のほぼ中央に大後頭孔と呼ばれる穴が開いている。
4足歩行する動物は頭蓋骨の下ではなく、後ろに穴が開いている。

【誤っていた定説】
直立二足歩行が進化したのは何故か?
「樹上生活していた類人猿は、森林が減って砂漠化が進んだことで、木から降りて草原で生活するうちに直立二足歩行になった」という説が有名。

しかし、サヘラントロプス・チャデンシスの発見により、この説は否定された。
この化石が発見された時代は、木が十分にあったからである

【直立二足歩行の欠点】
直立二足歩行の欠点は足が遅いこと。4つ足で走る動物に比べて遅いので、自然界で直立二足歩行する動物は進化しなかった

直立二足歩行の利点に、視点が高いのでいち早く敵を発見できて逃げられるという説があるが、これは誤り。少しくらい早く敵を見つけられても、足が遅すぎて逃げられないので意味がない。
そもそも立っていると目立つので、逆に敵に見つかりやすい。

足が遅くて、目立つ直立二足歩行は、草原では進化せず、むしろ木のある環境でしか進化しない。木があれば、登って逃げることができるからである。

【個体数が少ない生物は急速に進化する】
直立二足歩行と四足歩行の中間に位置する人類は発見されていない。その理由として、化石が残る間もなく、四足歩行から直立二足歩行へ急速に進化したからと考えられる

個体数が少ない生物は、自然選択よりも遺伝子の偶然の変化の効果が強くなる。

自然選択は、遺伝子のエラーを起こした個体を除き、進化を止めることの方が多い。ごく稀に遺伝子のエラーが生存に有利に働き、進化を促す。

個体数が少ない生物は、遺伝子のエラーがあっても、オス同士の競争が激しくないので子孫を残すことができるので、遺伝子変化による進化が早い。

初期人類は個体数が少なかったため、直立二足歩行へ急速に進化したと推測できる

・【アルディピテクス・ラミダス】
エチオピアの440年前の地層から発見された初期人類。
脳の大きさは350cc(チンパンジー並)。
土踏まずがないので歩行は得意ではない。
足の親指が大きく開くので、サルほどではないが樹上生活に適している。
脚と腕の長さの比が10:9(ヒトは10:7、チンパンジーは10:10.6)で、サルほどではないが樹上生活に適している。
腸骨の形状はヒトに近く、座骨の形状はチンパンジーに近い。
身長は120センチメートル


化石と共に発見される動植物の化石、および化石の同位体比と歯の形状(奥歯の摩耗が少なく柔らかい物を主に食べていたはず)から予測される食性は、森林の植物がメインであった。
このことより、疎林で暮らしていたと推測されている。基本的には木の上で暮らし、直立二足歩行を始めてはいなかった。

・【犬歯の縮小と一夫一妻制】
ヒトはチンパンジーと比べて犬歯が小さいという特徴がある。
大きな犬歯は強力な武器であり、チンパンジーは同種内でメスをめぐる争いに犬歯を使う。

仮説:類人猿は一夫一妻制の社会を作ることで、オス同士でメスを奪いあう争いが減り、犬歯という武器を縮小させた

化石を調べると、上あごの犬歯が下あごの犬歯より先に小さくなっている。攻撃に有利な上あごの犬歯が最初に小さくなっているので、犬歯縮小を促進した進化要因は、闘争の減少と推測できる

一夫一妻制になった理由は、類人猿に発情期はなく、いつでも交尾できることで、発情期にメスを奪い合うことなく、オスが特定のメスと交尾し続けることが可能になったためと推測される

・【人類が森林生活を止めた理由】
仮説:初期人類は木登りが下手だったので、森林の減少で少なくなった食料を木登り上手な生物が独占し、仕方なく疎林や草原に進出して食料を探すようになった。
生態としては、草原で食料を探し、木の上で敵から身を守る暮らしをしていた。

・【直立二足歩行を始めた理由】
仮説:初期人類は草原に落ちていた食べ物を巣にまで運搬した。食料を運搬するには、それを手で持って直立二足歩行するのが便利だった

一夫一妻制になったことで巣にいるのは、ほぼ確実に自分の子になった。
食料を巣に運搬する個体は、自分の子に食料を多く与えることが可能になり、子の生存率が上がることでより多くの子孫を残せた。
こうして食料運搬をする能力、直立二足歩行が優れた生物ほど進化に有利になり、直立二足歩行が進化した

人類以外は一夫一妻制を取らないので、直立二足歩行が進化しなかったと推測できる

・【ヒトとチンパンジー】
現在でも生存している類人猿も道具を使うので、人類とチンパンジーの共通祖先も道具を使用していたと推測される

社会性のある類人猿は、性別に関係なく仲間に食料を分け与えるので、人類とチンパンジーの共通祖先も同じことをしていたと推測される

チンパンジーは木にぶら下がって移動するが、初期人類は骨の構造から樹上を四足歩行で移動していたと推測される

チンパンジーから直立二足歩行が進化しないことから、初期人類はチンパンジーから進化したのではないと推測される

・【アウストラロピテクス】
280万年前から230万年前の地層から発見された初期人類。
脳は小さいが、頭蓋骨の下の大後頭孔はヒトと同じ構造を持つ。これは共通祖先からヒトにつながる派生形質なので、アウストラロピテクスがヒトの祖先であると考えられる。
脳の大きさは450cc(チンパンジーより少し大きい)。
土踏まずがあり歩行に適した足を持つ。

化石の同位体比と歯の形状(奥歯が摩耗がしており硬い物を食べていた)から予測される食性は、草原の硬い稲や砂まみれの食べ物がメインであった。

330万年前の石器が多く見つかっているので、草原の草食動物を解体して食べていたと推測される

化石が多く見つかるので、行動範囲が広かったと推測される。森林から出て草原で生活するようになったので、生存範囲が広くなった。

タンザニアのラエトリで数人分の足跡の化石が見つかっている。それより二足歩行で上手く歩いていたことが分かっている

・【ヒトの多産化】
直立二足歩行の欠点は逃げるのが遅くなり敵に捕食されやすくなることだが、多産で子を増やすことで食われるより増える速度の方が大きくなったと推測される

ヒトの子供の授乳期間は2、3年と短いので、多くの子供を産める

ヒトは共同で子育てするので、より多くの子供を育てることができる

・【頑丈型猿人とホモ属】
アウストラロピテクスは2つの系統、頑丈型猿人とホモ属に進化した。

頑丈型猿人は歯とアゴが大きく、アゴの側頭筋が頭頂部まで伸びている。そのため、頭蓋骨の上の部分が壁になって、まるでウルトラマンのように突き出している(復元図を見れば頭頂部が明確に尖っているので、ホモ属との違いは一目瞭然である)

頑丈型猿人はホモ属よりも多くの種類の植物を食べることができた。

・【アルディピテクスの絶滅理由
アルディピテクスが何故、絶滅したのかは不明である

疎林の減少による生存圏の縮小など原因は色々と推測できるが、データ不足で結論は出せない

進化では子供を多く残した生物が生き残るのであり、個体として優れていても絶滅することはある。
アウストラロピテクスがアルディピテクスより多くの子孫を残せたのならば、いずれアルディピテクスはアウストラロピテクスに取って代わられて絶滅したと推測できる

・【石器文明】
石器には石を砕いて作る打製石器と砕いた石を更に磨いて作る磨製石器の2種類がある。
打製石器は、石を砕いただけのオルドワン石器と両面加工したアシュール石器に分類できる。

最初期の石器は260万年前から250万年前の地層から発見されている

エチオピアの250万年前の地層から、石器で大型動物を解体していた人類、アウストラロピテクス・ガルヒの化石が発見されている

・【初期ホモ属の脳】
初期ホモ属は、250万年前から130万年前にかけて、石器を使い始めてから脳が大きくなるように進化していった

人類は二足歩行を始めてからも、石器を使い始める450万年間、脳が大きくなることはなかった。

脳はカロリーを大量に消費する器官なので、石器を使って肉食を始めてから脳を大きくできるようになった。

他の肉食動物は、肉のカロリーを身体や牙を大きくするために使用し、脳を大きくする方向には進化しなかった。


【個人的感想】
面白くて分かりやすく、かつ説得力に満ちた本でしたが、論理的で整合性が取れていることと正しさは別のことでもあります。
この本の後半部は仮説を裏付ける事実や証拠の話が不足しているとも感じました。

様々な仮説を紹介した本として楽しむ一方で、鵜呑みにはできないところがありました。それらの仮説が今後どのように立証されるか、もしくは否定されるかを追いかけていきたいです。

私はこの分野の知識が圧倒的に不足しているので、話の真偽を見抜くことはできず、他の専門家の本も参照してみようと思います。

未知の分野の本を1冊読んで、それをまるごと信じると、思わぬトンデモ学説にはまりかねないですから。




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