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【短編小説】写真に写らなかった私

高校の卒業式後の教室にて。クラスの女子たちが使い捨てフィルムカメラを持っている。

「写真撮ろうよ!」
「はいチーズ!」

あちこちでジーッジーッと音がする。

「あ!長谷部さん!」

「ん?」

私は前髪の分け目を整えながら呼びかけに答えた。

「写真、撮ってくれない?もう押すだけだから。」

そう言ってカメラを渡してきた。

「うん!じゃあ、はいチーズ!」
カチッ!

よし、次は。

「ありがと〜う!」

次は私も…。

「じゃあね〜。」

…ですよね。運動会や文化祭の時もこんな感じだった。まぁもう二度と会わないだろうし。

ばいばい。お元気で。

――

成人式にて。小中学校時代の友人と再会した。

「はせっちゃん久しぶり!綺麗になったね。」

「有希!沙織!久しぶりだね。」

私たちは9年間友だちだった。2人は高校から別々で、同じ高校に通っていた。

有希がデジタルカメラを持っている。

「じゃあ、写真撮ろうか!」
「うん!」

「はせっちゃん撮ってくれない?ここ押すだけだから。」

そう言ってカメラを渡してきた。

「うん!じゃあ、はいチーズ!」
カシャッ!

髪型が崩れていないか軽く触ってチェックしながら次は3人で写りたいから誰かに頼もうかな、と考えていると

「見せて見せて〜。」
と有希にカメラを取り上げられた。

「うん、バッチリじゃん!ありがとね。」

「よかった。次はさ…」
「あ、奈々いるやん!じゃあねー!」

…まぁ、いいか。高校でより絆が深まったのだろう。

着物苦しいから早く脱ぎたいし。

ばいばい。何かもういいや。

――

短大卒業式後のお別れ会にて。もう1人でいる事に慣れた。

袴姿の同級生がみんな携帯を持ってそれぞれ写真を撮っている。

「えーっと、長谷部さん?だっけ。写真撮ってくれない?ここ押すだけだから。」

そう言われながら携帯を渡された。

「うん。じゃあいくよ、はいチーズ。」
パシャッ!!

「ありがとう!」

はい、さようなら。

――

短大卒業後、就職した旅行代理店にて。

従業員数は自分を入れて4人。全員女性だが平均年齢は34歳。

就職してしばらく経った頃。

「今日は支店長の40歳の誕生日だから。」
「お客さんも電話も来ないし今のうちにお祝いしよう。」

何だか嫌な予感がする。

みんなでバースデーソングを歌ったあと、お祝いの言葉を述べながら拍手をした。

「んもー!ケーキまでいただいちゃって。ありがとうございます!みんなで食べよう。」

支店長はとても喜んでいた。

ふと横を見ると、先輩の笹川さんがいつの間にか手にスマホを持っているのが見えた。

ですよね。

「その前に写真撮りましょうよ。長谷部さんお願いしても良い?」

そう言われながらスマホを渡された。やっぱり。まぁ新入社員だから仕方ないか。

…慣れているはずなのに、この強い孤独感は何だろう。私は一生こんな思いを繰り返すのか。

写真を撮る文化なんかこの世からなくなってしまえばいいのに。

「皆さんいいですか?あ、笹川さん少し左に寄ってください。ではいいですか?はいチーズ!」
カシャッ!

はい、終わ…

「よし!次は皆口さんと長谷部さんチェンジしてください!」

へ?

「い、いえいえ!私はいいです。写るの苦手なので…」
「何言ってるの。」
「私は撮るだけでいいですから。」
「遠慮しないの!美女と一緒に写真撮れるチャンスだよ!せっかくだから長谷部さんセンターね。」

支店長が強引に腕を組んできた。

「支店長と写りたくないんだよ。」
皆口さんがボソッと呟く。

「何だってぇ?いま私の誕生日祝いなんだよね?優しくしてよ。」
「ははは!ほーい、じゃあいくよ!はいチーズ!」
ピシャッ!

「…え、どうしたの?長谷部さん。」

支店長が驚いている。気がつくと熱い物が頬をつたっていた。

「あれ?いえ、何でもないです…。」

「あー!支店長と笹川さんが長谷部さんにパワハラした。社長にチクろー。」
「ごめんね!嫌だったのを無理矢理…。」

笹川さんが謝ってきた。

「違います…嬉しくて…。今まで撮る側ばっかりで…。」

本当はいままで寂しかった。

ちょっとでもいいから、誰かの大切な思い出の1枚に写りたかった。

「…まぁ、これからおばさんたちでよければいっぱい写真撮ろうや!」
「おばさん"たち"!?支店長だけがおばさんですよ!」
「あー…私が泣きそうになってきたわ。あなたたちも若い子から見たらおばさんじゃない!」
「まぁまぁ!早くお客さん来ないうちにケーキ食べよう!」

「ぷっ!」

「あ!長谷部さん笑ったなー!」

――

それから3年後、笹川さんの結婚式にて。

ウェルカムボードには旦那さんとの前撮り写真と私たちとの思い出の写真が可愛くデコレーションされて飾ってあった。

最初に撮ったあの写真も。

支店長と笹川さんがピースしている中、直立不動でぎこちなく笑う私が写っていた。

「あら長谷部さん初々しい。笹川さんね、この写真が特に大好きなんだって。彼女も最初は長谷部さんみたいな子だったんだよ。ほら学生時代の写真ないでしょ?」

そう言われてみれば…ない。ほとんどが社会人になってから。私たち職場関係者との写真ばかりである。

「あなたから今までの話を聞いた時、じゃあ私が長谷部さんにとって楽しい思い出を作ってあげるんだ!って誰よりも意気込んでたんだよ。自分と重なったんだろうね。今日も覚悟しときなさいよ!」

と隣にいた皆口さんがこっそり教えてくれた。私はその話を聞いて涙が止まらなかった。

本当、人生何が起こるのか分からない。


―終わり―








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