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つかれてヘッドスパ

「ヘッドスパで予約していた村崎です。」
「はい、お待ちしておりました。準備いたしますのでこちらにかけて少々お待ちください。」

年度始めの忙しさがようやく一段落したため、自分へのご褒美として行きつけの美容室でヘッドスパをしに来た。

「では、準備ができましたのでシャンプー台の方へどうぞ。」
「はぁい。」

顔にガーゼのようなものがかけられる。まずはシャンプー。何で美容師にやってもらうシャンプーってこんなにも気持ち良いのだろう。

「お湯加減はどうですか?」
「丁度良いでーす。あれ、何かいつもと…」
「今日のシャンプーはちょっと香りが違いますよね?リラックス効果のあるラベンダー系の香りにしてみました。あと少しスースーする成分も入ってます。」
「なるほど。いやぁ最近まで仕事がすごく忙しくて、その上新人教育も任されたんですよ。その子めちゃくちゃ物覚えが悪く…」

ベチン!

ん?今頭を叩かれた?

「佐々木さん、今叩きましたか?」
「え!?手が当たったのならすみません!」
「あ、やっぱり気のせいだと思います。すみません。疲れてるのかな…」

あれは確かに誰かに叩かれたような感覚。単に手が当たっただけの衝撃ではなかった。

「では専用のオイルで頭皮マッサージをしますね。これもラベンダーとカモミールなどを混ぜた香りでリラックス効果抜群ですよ。大変お疲れのようなのでごゆっくりしてください。何なら寝ちゃってもいいので。」
「あはは。寝不足も続いてたから寝ちゃうかも。」

至福の時間が始まる。頭皮までオイルが行き渡っていき、丁度良い力加減で疲れに効くツボを揉みほぐされる。あぁこのまま永遠に終わらないでほしい。

「うわぁ頭皮だいぶ硬いですね。これは血流が悪い証拠ですよ。頭痛とかなかったですか?」
「はい。しょっちゅう鎮痛剤飲んでました。んもーほんっと上司や新人の事で頭を悩ます毎日で…」

ベチン!

「ん?」
「ん?どうされました?」
「…いえ、まぁとにかく忙しかったですよ。ちょっとだけ痩せたかも。」
「ははは。ではでは村崎さん、相当なので時間を少しサービスしちゃいます。じっくりマッサージしますので痛かったら言ってください。」
「わぁーありがとう!はーい。」

やっぱり気のせい?

「それにしても村崎さん入社3年目にしてもう新人教育任されたんですかー。」
「ですねぇ。でも何だかなぁって…」
「僕も店を出す前にいた美容室では新人の子に指導する機会がありましたが、やっぱりどう教えたらいいのか悩んだりしましたね。下手にキツく言ったら折れちゃうし、逆に甘々だと今度は僕が上に怒られますしね。」
「そうなんですよ!それこそ今度入った新人メンタル弱くてちょっと強く言うとすーぐ泣いちゃって。もうどうしたら良いのか。この間とか…」

私のいじめが原因で辞めるとか言い出して部長が何とか引き止めたらしい。見てるだけでストレスなので辞めさせれば良かったのに。被害妄想も甚だしい…。


ベチン!
ベチン!
ベチン!
ベチン!
ベチン!
ベチン!


痛っ!痛い!


「では最後に温かいタオルで…」
「いっった!痛い!」
「村崎さん!?どうされました!?」 
「あ、あの、ここのヘッドスパってベチンベチン叩いたりしますか?」
「は、えっ!?ないない!そんなのないです!」
「佐々木さん、私に恨みとかありますか?」
「ないに決まってるじゃないですか!むしろ開店当時から通って頂いて感謝しまくってます!というか村崎さん先ほどまで爆睡でしたよ。かなり疲れてたようで、大丈夫ですか?」

本当だ。若干ヨダレが垂れている。

「す、すみません…はは、本当に疲れてたのかも。」

疲れ過ぎて現実と夢の区別がつかなくなりかけていたのか。恥ずかしさで顔が熱くなってくる。

「ではあちらの方に移動して頂いて仕上げをしますね。足元にお気をつけください。」

『先輩、ここからは私がしますね。』


聞き覚えのある声がする。佐々木さんがガーゼのようなものを取り、彼の方を見ると隣に『新人』が立っていた。

青白く目の焦点が合っていない彼女はにやにやしながら脳内に語りかけてきた。

『気付いてるんですよ。私に聞こえるように悪口言ったりデスクにゴミを置いたり。あとわざと自分のミスを擦り付けたりした事もありましたっけ。あれ?かなりお疲れのようで。これからはどこでもマッサージしてあげますね。』


ベチン!
ベチン!
ベチン!
ベチン!
ベチン!
ベチン!



「はい、ありがとうこざいます。くれぐれも無理せずに。またお待ちしております。」
「…はい。またお願いします。ありがとうございました。」

次の瞬間、肩がズシンと重くなった。

「はぁ…つかれた…。チッ…」

ベチン!

―END―

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