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【ショートショート】キューカンバー・ブルース

大きな音を立てて開くドア。

また1人いなくなった。

私はいつ出られるのかね。

前に並んでいる老人がボソッと呟いた。

もうすぐ出られるんじゃないんですか。

そうかい。

互いに励まし合う。

君、シワが増えたなと言われた。

痩せたのよ。

大きな音を立てて開くドア。

差し伸べられたささくれだらけの手。

でもそれは私ではない。

前に並んでいた老人だった。

どうせ私は限られた存在。

いつになったら出られるのだろう。

それでもわずかな期待を抱きながら待つ。


6時間後。

大きな音を立てて開くドア。

ほうれん草。

トマト。

茄子。

オクラ

パプリカ。

ズッキーニ。


新たな仲間が増えた。

夏野菜カレーでも作るのかしら。

更に私は奥に追いやられた。

どうやら私は完全に忘れられているようだ。


1週間後。

大きな音を立てて開くドア。

白くふわふわの毛をまとった私。

少しオシャレになったでしょう。

それを見たあなたは目を細めた。

やっと手を差し伸べてくれた。

私ったらうっかりさん、と言いながら

今度は真っ暗な部屋に投げられた。

狭い、臭い、ここはどこ。


―終わり―




大量に貰って使うのをうっかり忘れてしまったきゅうりの気持ちになってみました。

きゅうりのみならず、冷蔵庫を開けた瞬間しおしおになっている野菜を見るとショックですよね。



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