ヴァイオレット・エヴァーガーデンから見ることばの獲得

※注意!ネタバレあります!

最近Netflixでヴァイオレット・エヴァーガーデンのアニメを観ました。感動して号泣しっぱなしだったのですが、このアニメからことばの獲得について考えてみたいと思います。

※以下ネタバレあります!

このアニメの主人公は孤児で小さいころから軍人として道具のように使われてきたヴァイオレット・エヴァーガーデンです。この少女が、戦争が終わったあと「ドール」(代筆屋)として働き、たくさんの人々とかかわっていく中で、新しい感情を獲得していくという話です。

もっと大雑把に言えば、ヴァイオレットが、軍人時代にかわいがってくれた少佐が死に間際に彼女に残した「愛している」ということばの意味を獲得する、という話です。

彼女は小さいころ親などから愛情をそそがれず教育も受けていなかったため、「愛」に経験することがありませんでした。そして15歳くらいになって初めて「愛」ということばを耳にします。少佐から「愛している」と言われたときは理解できず、少佐から愛されていることも感じることができませんでした。

しかし、戦争後にドールとして働く中で、同僚や友人から愛をもらい、そしてお客さんと会う中で愛し愛されている関係を目の当たりにします。その経験から徐々に「愛している」という感情がわかり始めてきます。しかし、まだ腑に落ちません。

最終話でヴァイオレットは少佐の母親に会います。母親が少佐のことを「愛している」という言葉で表現したとき、ヴァイオレットは「愛している」の意味に気づきました。すなわち、次のような段階で「愛している」を獲得したといえます。

まず、「愛」ということばを獲得するためには、「愛す」や「愛される」といった経験が必要です。幼少期に愛し愛されたことがないヴァイオレットは、少佐から「愛している」ということばを言われただけでは、全く理解できなかったことが証拠です。

次に、ことばのインプットが必要です。愛の経験をいくつかしてきたヴァイオレットは、少佐の母の「愛している」ということばを聞いたとき、その言葉を自分の今までの経験と結びつけることによって、ヴァイオレットの「愛している」の意味を自分の中で形成することができました。

この作品では、少佐と少佐の母、それからヴァイオレットの3つの「愛している」が登場しますが、それぞれの意味はバラバラです。たとえば少佐の「愛している」には、ヴァイオレットを守りたいというような少し恋愛感情も入っている一方、少佐の母のは子供に対する母性のような感情でしょう。意味はバラバラだけど、同じ「愛している」という言葉で表されて、だからこそ相手の感情を想像することができます。でもそれは自分が愛し愛された経験があるからこそなのです。といった、言葉のすばらしさがこの作品に美しく描かれていますね。

そういえば、わたしはまだ一度も誰かに「愛している」と言ったことがないです。私の中では「愛している」という感情は持っているはずですが、その感情を誰かに伝えたことはありません。たしかにヴァイオレット・エヴァーガーデンでも、「愛している」という言葉がテーマの作品なのに、たくさん「愛している」が現れてもおかしくない場面があったのに、その言葉が誰かに伝えられた場面は3回だけでした。アメリカではバイバイの代わりに "love you!" が使われるほどですが、日本語の「愛している」は英語の "love" とは違うもっと特別な感情なのかもしれません。(なんか、英語版が出て「愛している」を "love" と訳されたらイヤですね。)そう考えると、「愛している」の意味を探している人はヴァイオレット以外にもたくさんいそうですね。そのうちの一人がきっと私です。

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