『ハケンアニメ』

『ハケンアニメ』を観てきた。
ので今回はその感想である。

公式サイトはこちら。
ちなみになぜかこの映画、それなりに話題になっていたくせにシネコンでほぼ上映していないので見たい方はお早めに。


総合評価

ネタバレの前にまずは簡単な総合点から。

・ストーリー:3.5点
・演出:3.5点
・キャラクター:4点
・総合:3.4点

若干この前の『死刑に至る病』に劣るが、この映画に特に悪い点は無い。
全体として非常に優等生な作品だったといえる。
逆に言えば優等生で突き抜けた点がないからこそのこの点数なのだが……。


良かった点 ※ネタバレあり

本作は新人アニメ監督の吉岡里帆と伝説のアニメ監督中村倫也が、お互いのアニメをぶつけて「覇権」を取るために奮闘する物語だ。

ストーリーは王道も王道。新人の主人公と巨匠のライバルという図式、努力で周囲を巻き込み仲間にしていく展開。分かりづらいところは一つもないし、テンプレートの上にアニメ制作のリアルを載せているから新鮮味もある。

そして吉岡里帆の演技は素晴らしい。自信がなく周囲に舐められ人前に出ると声が震える、小心者の演技が本当に堂に入っている。だがその中に「自分の作品は絶対に面白い」という信念がはっきりとある。
対してライバルの中村倫也は、伝説と称されるほどの傑作を生み出した天才監督であり、「天才アニメ監督」まんまのイメージを提供してくれる。
しかし彼は彼で「天才アニメ監督」というレッテルに縛られており、内心ではその重圧に苦しんでいる。
二人の心理的な対比がバランス良く描かれているのは、演出の腕によるものだろう。

作中の映像も素晴らしい。
吉岡里帆、中村倫也それぞれが制作するアニメは普通に放映されていればまず間違いなくバズるレベルの作画だ。
また「覇権」争いのための視聴率競争はアニメキャラによるデッドヒートで示される。
(多分この視聴率レースの序盤の映像、かなり細田守を意識したんじゃないかと思うのだが、どうだろう?)

視聴率レースに加えてSNSのつぶやきなどがポップアップで生み出され、視聴者の反応が視覚的にわかりやすくなっているのもポイントが高い。

総じて、ちゃんと飽きないように設計されたいい映画だといえる。


悪い点

ただ一点、どうしても言いたいことがある。
これは完全に個人的な主観の問題なので異論はぜひしてほしいのだが……。

作中アニメは両方とも木曜5時の子供向けアニメ。
主人公吉岡里帆が描くのは、少年少女が音の記憶を吸収し変形する巨大ロボットにのり、突如現れた怪獣と戦う『サウンドバック 奏の石』。
売りは毎回違う音から違うロボットが生成されるということ。

一方ライバル中村倫也が描くのは、魔法少女たちがバイクに乗ってレースで戦う『運命戦線リデルライト』。
こちらは1話ごとに1年時間が流れ、6歳から18歳まで主人公が成長する過程を描くという。

正直、この情報から見れば確実に覇権を取るのは『リデルライト』だ。
だって面白そうだし。
魔法少女×バイクという題材も、1話1年という時間経過も新規性がある。
絵柄もトリガーを彷彿とさせるビビッドな感じで現代風だ。
全然現実で放送してもらって構わないレベルの設定だと思う。

それに比べると『サウンドバック』は、子供が乗るロボものという点も、『ぼくらの』を彷彿とさせる設定もそこまで新鮮味はない。
さらに声優はアイドル上がりらしく、最初は声に違和感がある。
(アイドル声優という役柄を演じきった高野麻里佳さんは本当に素晴らしい演技をしていました)

特に覇権を取るために必要なのは大きなお友達の食いつき方だが、それも正直『リデルライト』の方があるだろう。
というかロボものというだけで『サウンドバック』は汎用性が1段落ちる。

つまり完成度云々の前段階で、主人公側の作るアニメが覇権を取れそう、と思わせる内容になっていない。
だから視聴率がガンガン上がっていくことにどうしても違和感を覚えてしまった。

もちろんこの点についてはいろいろな見方ができるだろう。
ロボならとりあえず見る、という人も相当数いるかもしれないし。

でもやっぱり、『リデルライト』のほうが面白そうだよなあ……。


終わりに

ともかく、見て損をする映画ではない。
綺麗にまとまっているいい映画だった。

ぜひ、とまではいかないが、二時間暇になったら見に行くといいと思います。


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