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THINK BIGGER with GPT〜最高の発想をAIと生む

最高の発想を生めるのは、天才だけなのか?
それにNoを突きつけて、誰でも最高の発想を生む方法論を紹介する本が登場しました。

誰でも最高の発想を生む方法論があるなら、AIにも出来るのでは?
それにYesと答えるために、方法論をAIと実践する例を紹介します。

はじめに

GoogleやIBMなど、IT企業で大事にされているモットーがあります。

Think Big, Start Small
(大きく考えて、小さく始めよ)

まずは、最高の発想が必要。そして、小さく課題を解決して、段階的に進める。

本田圭佑さんは、Think Biggerによって、投資家や経営者としても多くの人を巻き込んでいます。私も、彼が経営するNowDo社のお手伝いする形で巻き込まれた一人です。日々のコミュニケーションで、Think Biggerの大切さを学ばせてもらっています。

Think Biggerで大事なことは、課題を選び・分析することに、今まで以上に時間をかけることです。課題を考えることを怠り失敗した例が、本で紹介されています。

オハイオ州立大学の経営学者ポール・ナットが、過去20年間に358社の企業が下した事業上の意思決定を調べたところ、そのうちの半数が、間違った課題を解決しようとしたせいで失敗していることがわかった。なかでも多かった間違いは、解決策を押しつけることだった。たとえば、「この新技術をどう活用すべきか?」など。技術は課題を解決するためにあるのだから、課題を定義することが先に来るべきなのに。

企業アドバイザーのトーマス・ウェデル=ウェデルスボルグの研究でも報告されている。106人の経営幹部を対象とする調査で、半数の人が、課題だと思っていたことを解決しようとして多大な時間と労力を費やしたあげく、本当の課題が別にあったことに気づいた経験があった。

つまりナットとウェデル=ウェデルスボルグの結論は同じだ──人は課題を定義するステップを怠り、解決策に飛びつくことが多い。そしてたいていの場合、失敗する

課題から始めることが大事だと述べた本は、今までいくつかありました。例えば、日本で有名なのは「イシューからはじめよ」でしょうか。

2つの本を比べると、以下のような違いを感じました。

  • 主な読者:「イシューからはじめよ」はコンサル、「Think Bigger」は芸術家から起業家やエンジニアなど幅広い挑戦者

  • 主な成果:「イシューからはじめよ」は資料や論文など、「Think Bigger」は戦術としてのアクション

そんなThink Biggerの著者は、前著「選択の科学」において、人間の意思決定を科学的に解き明かしました。

それゆえに、アイデアの発想を、天才による「神秘的な創造」ではなく、誰でもできる「科学的な選択」として捉えたのでしょう。

イノベーションの一般的な定義は、「新規かつ有用なもの」だ。目新しい組み合わせを考えることは、そう難しくない。難しいのは、目新しくかつ役に立つという、質の高い組み合わせを選ぶことだ。

発明とは、無益な組み合わせを排除して、ほんのわずかしかない有用な組み合わせをつくることである。発明とは見抜くことであり、選択することなのだ。

この「選択」の視点を元に、誰でも実践できる方法論を緻密に組み上げています。その方法論のエッセンスを簡単にご紹介します。

方法論〜3つのツール、6つのステップ

方法論は、3つのツールがあり、それらを活用する6つのステップが用意されています。

まず、1つ目のツール「選択マップ」は、課題と解決策を選択します。メイン課題、それを5つほどにブレイクダウンしたサブ課題、それらサブ課題に対して先行事例から探した5つほどの戦術(対象の領域の中と外に分類)で構成されます。戦術を新しく考えのるではなく先行事例から「選択」し、また、対象領域(業界・業種など)の外の事例を重視するのが特徴的です。

2つ目のツール「全体像」は、ステークホルダー全体の視点を整理します。当事者である「あなた」、課題を持つ「ターゲット」、パートナーや競合などの「第三者」で構成されます。それぞれ3者の視点から「望み」をリストアップします。あなたの望み (Will) を重視しているのが特徴的です。


そして、1つ目のツール「選択マップ」の中から各戦術を組み合わせて、解決策の候補をたくさん作り ( $${解決策=戦術_A \times 戦術_B …}$$ )、2つ目のツール「全体像」の3者の視点から評価すると、下記のようなレーダーチャートができます。この中で、合計スコアが高く(=やるべき)、「あなた」のスコアも高い(=やりたい)解決策を選びます。

3つ目のツール「第三の眼」は、選択した解決策が他人の視点からどう見えるか検証します。自分から見えている解決策と、他人から解釈される解決策のギャップを埋めていきます。

そして、これらの3つのツールを活用するために、6つのステップが用意されています。

1. 課題を選ぶ
2. 課題を分解する
3. 望みを比較する
4. 頭の中と外を探す
5. 選択マップ
6. 第三の眼テスト

これらのステップは、一直線ではなく、行ったり来たりします。ウォーターフォール型ではなくアジャイル型と言えそうです。

ただ、「3つのツール、6つのステップ」と本に書かれていますが、実際に本を読み進めていくと、より緻密な「テクニック」も豊富に紹介されています。そこで、見通しを良くするために、テクニックも含めた対応関係を整理しておきます。

$$
\begin{array}{|l|l|l|l|} \hline
ステップ & ツール & テクニック \\ \hline
1.課題を選ぶ & 選択マップ(課題) & ・階層分析 \\  & & ・情熱テスト \\ \hline
2.課題を分解する & 選択マップ(サブ課題) & ・トライアンギュレーション \\  & & ・8割テスト \\ \hline
3.望みを比較する & 全体像 & ・インタビュー \\ \hline
4.頭の中と外を探す & 選択マップ(戦術) & ・汎用/部分/並行検索 \\  & & ・アイデアワーキング \\ \hline
5.選択マップ & 選択マップ(解決策) & ・ランダムに組み合わせる \\  & 全体像(スコア) & ・ミニマップ \\ \hline
6.第三の眼テスト & 第三の眼& ・自分に語って聞かせる \\  & 全体像 & ・どこが良かったのかエクササイズ \\  & & ・プレイバック \\  & & ・第三の眼テスト \\ \hline
\end{array}
$$

(独自の補足)
・本では「選択マップ」とだけ表現されているが、ステップが進むにつれてアップデートされることが分かるように、選択マップ(課題)、選択マップ(サブ課題)のようにカッコ付きでコンテンツを追記
・本では「テクニック」という言葉は使われていないが、分かりやすさのために独自に分類

ステップ、ツール、テクニックの詳細や豊富な実例などは、実際に本を読んでみてください。

さて、これらのステップは、個人ワークとして始めることが必須とされています。チームワークとしての「ブレスト」は、あらゆる研究でアイデア発想に向いてないと証明されているからです。
実際、アイデア発想で有名なデザイン会社のIDEOも、ブレストはアイデア出しに向いてないと認めています。

そんな慣習的に実施しているブレストに代わる手法として、Think Biggerがあります。では、やってみましょう。

実践〜GPTとやってみる

先ほども述べた通り、個人ワークから始めなければなりません。しかし、この個人ワークをやろうとすると、「思考力」が非常に求められ、得意・不得意な人が分かれてしまいます。その「思考力」をGPTに委ねてみましょう。

まず、以前から提唱しているGPT活用の心得を紹介します。Willが人間、CanがAIという役割分担です。

思考を停止し、内なる好奇心を解き放ち、意志を研ぎ澄ませ
1. Will : 人間の好奇心、意志、指示
2. Can : AIによる段階的な思考・創造

それを元に、Think Biggerの各ステップにおける人間とAIの役割分担を考えてみました。

$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
ステップ & 人間 & AI (*自動化率) \\ \hline
1.課題を選ぶ & Willを伝える & 課題を抽象化・具体化 (0.5) \\ \hline
2.課題を分解する &  AIの結果から5つ選ぶ & 課題をできるだけ分解 (0.9) \\ \hline
3.望みを比較する & AIにインタビューする & ターゲット、第三者のロールとして回答 (0.6) \\ \hline
4.頭の中と外を探す & AIに任せる & 過去の事例を探し、戦略を抽出 (0.9) \\ \hline
5.選択マップ & AIに任せる & 戦略をランダムに組み合わせ、全体像スコアを計算 (0.9) \\ \hline
6.第三の眼 & 自分語りエクササイズ & どこが良かったのかエクササイズ、第三の眼テスト (0.5) \\ \hline
\end{array}
$$

※自動化率:人間のみ(0.0)〜完全自動(1.0)

仮に、各ステップの労力が同じなら、ステップ全体で70%をAIで自動化できると試算しました。特に、通常であれば他人が必要なケースで、他人をGPTに置き換えると、日程調整などが不要になり時間削減率は高く、また、個人個人のバイアスを抑えられるので品質の向上も期待できます。
ちなみに、「最高の発想を生む」というAIには難しそうなテーマにおいて、AIの自動化率が高いのは、Think Biggerがシステマチックに組み立てられた方法論であり、誰でも実践できるよう仕組み化されているからこそ、AIでも実現しやすいと言えます。

では、具体的なGPTへのプロンプトを考えてみましょう。ここではステップ「1.課題を選ぶ」をやってみます。

まず、自分がやりたい課題を思い返します。例えば私の場合、先日のOpenAI DevDayの発表を見て、挑戦者がAIにアクセスしやすい時代がやってきたと感じて、この前のnote執筆時にこう考えていました。

ChatGPTは、リスクを好む挑戦者にとって、最大の武器になります。ここで言う挑戦者は、資本の力で急成長するスタートアップから、挑戦する個人事業主や中小企業、大企業でもがく新規事業など、リスクを取ることを好む人たちです。

そして、ChatGPTの登場前は、資金のある大企業だけが投資して各社のAIを開発しており、AIが民主化されていないと感じていました。つまり、「資金のない個人や企業が、AI開発に大規模投資せずに、AIを活用するには?」という問いをぼんやり考えていたようです。それを解決するのが僕のWillだと、Think Biggerによって気付きました。

次に、この課題を抽象化・具体化します。ここでのテクニック「課題の階層分析」をAIで実践してみます。本にある回答例を参考に、次のような少数ショット・プロンプトを作りました。

<課題の階層分析プロンプト>
ユーザーが与える課題を元に、抽象化して階層UPして、具体化して階層DOWNしてください。3パターンの回答をお願いします。

#ユーザーが与える課題
資金のない個人や企業が、AI開発に大規模投資せずに、AIを活用するには?

#出力形式
パターン1
階層UP:
階層UP:
課題:{ユーザーが与える課題}
階層DOWN:
階層DOWN:

#「プラスチック汚染を減らすには?」の回答例1
階層UP:環境に害をなすあらゆるものを減らすには?
階層UP:あらゆる汚染を減らすには?
課題:プラスチック汚染を減らすには?
階層DOWN:使い捨てレジ袋を減らすには?
階層DOWN:この地域の使い捨てレジ袋を減らすには?

#「プラスチック汚染を減らすには?」の回答例2
階層UP:あらゆる非生分解性物質を置き換えるには?
階層UP:プラスチックを生分解性物質に置き換えるには?
課題:プラスチック汚染を減らすには?
階層DOWN:国内のプラスチック汚染を減らすには?
階層DOWN:この市のプラスチック汚染を減らすには?

(※分かりやすさのため、簡易なプロンプト)

では、GPT-4の回答を見てみましょう。

パターン1
階層UP:技術革新を促進しながら、費用を抑えて業務効率を上げるには?
階層UP:限られたリソースを活用して、革新的なテクノロジーサービスを提供するには?
課題:資金のない個人や企業が、AI開発に大規模投資せずに、AIを活用するには?
階層DOWN:AI開発に特化したクラウドサービスを利用するには?
階層DOWN:既存のオープンソースAIソフトウェアを利用して、業務を最適化するには?

パターン2
階層UP:資金に制約があるとき、先進的なテクノロジーを含むビジネスの成長を促すには?
階層UP:費用対効果の高い技術革新方法を模索するには?
課題:資金のない個人や企業が、AI開発に大規模投資せずに、AIを活用するには?
階層DOWN:パートナーシップを活用して、AI開発を行うには?
階層DOWN:研究機関と共創を通じて、AI開発を行うには?

パターン3
階層UP:コストを最小化しながら、最先端のテクノロジーを取り入れるには?
階層UP:技術的な制約を乗り越えて、AIを活用するには?
課題:資金のない個人や企業が、AI開発に大規模投資せずに、AIを活用するには?
階層DOWN:複数の小規模プロジェクトを組み合わせて、AIを活用するには?
階層DOWN:AIを活用したソリューションを提供している企業からサービスを購入するには?

抽象化・具体化(階層UP・階層DOWN)には、さまざまなパターンがあり、自分が最も情熱を持てるスイートスポットを選ぶことができそうです。そして、Think Biggerの方法論に沿って、次の2つの条件を満たす課題を選びます。

・自分はこの課題を実際に解決できるだろうか?
・自分はこの課題を本気で解決したいのか?

以上、ステップ「1.課題を選ぶ」におけるテクニック「課題の階層分析」をAIと実践してみました。
長文になるため、これ以降のステップの具体的なプロンプトは割愛します。ニーズがあれば、続編を書きますね。

さいごに

この本の価値は、概説した方法論だけではありません。割愛しましたが、Netflix、ピカソ、ガンディー、ポアンカレ、Amazon、Microsoft、コロナワクチン開発などの豊富なエピソードによって、方法論を深く理解し、さらに「方法論を実践すれば最高の発想が自分にもできそう」と思えることにあります。本を手に取って、感じてみてください。(なお、NewsPicks会員は割引で購入可能)

ちなみに、「自分にもできそう」と信じることは「成長マインドセット」と言われており、実は馬鹿にできません。

固定的マインドセットに誘導されたグループより、成長マインドセットに誘導されたグループの方が成績が良かった
・固定的マインドセット:自身の能力は生得的な才能に基づくものであり、知性は生まれながらにして与えられたもので、変えることはできない
・成長マインドセット:自身の能力は時と共に発達し、向上させられる(神経的可塑性や後生的遺伝学の科学的根拠あり)

Dweck, C. S. (2006). Mindset: The new psychology of success.

また、最高の発想を生むという人間の創造性が問われるテーマにおいて、おそらく皆さんが想像している以上に、AIの自動化率を高く見積もりました。その背景には、生成AIの驚くべき現状と進化があります。興味がある方は、下記のnoteもご覧ください。

今回は長文になるため、ステップ「1.課題を選ぶ」のプロンプトだけ紹介し、それ以降のステップは割愛しました。ニーズがあれば、続編を書きますので、興味がある方は「いいね♡」をお願いします。

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