見出し画像

Around The World In A Day/Prince & The Revolution-世界を旅する歌①-


世界を旅するみたいな歌詞のついた曲はなんだか好きなものが多い。
このテーマで挙げたい曲が、ぱっと思いついただけでいくつかあるので、早速通し番号をつけてしまった。

大抵は世界のあちこちの地名が歌詞に散らばっているのだけど、この曲はその限りではない。
その代わりにひたすらタイトルの「Around The World In A Day」のフレーズが繰り返し出てくる。
実際に1日で世界を1周するのは物理的に無理なので、想像の世界の旅ということになる。

そして1曲目の表題曲が終わると2曲目は「Paisley Park」。
後にPrinceが「Paisley Park Studio」という自宅兼スタジオを出身地ミネソタ州ミネアポリスに作りはするものの、基本的に架空の地名である。

3曲目の異常にロマンチックなバラード「Condition Of The Heart」でようやくParisだLondonだArabiaだと少し実在の地名が出てくる。
6曲目に「America」というタイトルの曲も入っている。

こんな風に実在の地名は出てくるものの、このアルバムは基本的に架空である事が前提であるかのような独特の世界観のフィルターを通した世界を描いており、且つその濃厚な世界観という装置を通して現実に対する様々な視点、レイヤーを提示している。

このアルバムジャケットは映画『Purple Rain』にも携わっていたアーティスト、Doug Hendersという方にPrinceが描いて欲しいものをきちんとリストにしてオーダーして描いてもらったという事なのだが、アルバムの音の世界とあまりにぴったりのアートワークがとても気に入っており、レコードプレイヤーも無いのに私はこの盤をレコードで持っている。
このアルバムと出会った当時、田舎の中学生の私はこの濃厚な世界観の虜で、音楽の要素のみならずファッションやデザイン的な意味でも非常に惹かれた。以来いまだに大好きである。

だけどそのスタイルや世界観の独自性だけでなく、「世界を見る際にこんな切り口があるよ」と示すように、濃厚な世界観に負けないだけの哲学もさらりと忍ばせてある。
Princeはステージアクトや衣装のイメージとは裏腹にまさに「忍ばせる」と言いたくなるような押し付けがましくないメッセージの含ませ方をする人で、そういう意外に奥ゆかしいところがひときわチャーミングだと思う。

そんな風にあちこちに忍ばせてある世界の切り口、欠片を見て回って、1日で世界をひとまわりしてしまう事もできる、このアルバムはそんな1枚だ。

日々に埋もれて思考を止めてしまっているかも、という時に「Pop Life」を聴くとスッと覚醒させられる気がする。
覚醒といえばこの曲には覚醒剤をやっていると思われる人に問いかけるこんな歌詞もある。

----------------
What are you putting in your nose?
Is that where all your money goes?
The river of addiction flows
You think it's hot, but there won't be any water
When the fire blows
Dig it
鼻の中に何入れているの?
お金全部なくなっちゃった?
中毒になる川が流れている
火が燃え盛ると熱いと思うだろうけど、まわりには少しも水はない
わかるだろ?
----------------

架空の世界観は提示しても現実逃避は推奨しない。
むしろその逆で、あくまでも世界をより解像度高く抽出し、よりクレバーな視点で現実と向き合ってゆく方向に濃密な世界観を使っているのがPrinceなのだった。






よろしければサポートお願いします🌷