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駅のホーム。アスファルトの隙間。屋根の間の朝日。

「BUMP OF CHICKEN TOUR2022 Silver Jubilee」がライブ配信された。
ライブに行けない状況で、こうやって配信してくれることはなによりうれしい。どの曲も4人の届けたい想いとやさしさで溢れていた。どの曲も音も優しくて強い。

アンコールの後、一人ステージに残って藤くんが話始める。
歌い終わって息も落ち着かないまま、少し早口で。
言いたいこと、思っていることがちゃんと伝わらないことがもどかしい、ちゃんと伝わっているか不安だと。ちゃんと伝えたいから早口になるのだと。

そしておもむろにギターを持ち弾き始める。ここ最近のライブで時折見かける光景だ。アンコールが終わっても、まだ私たちに伝えようと歌を届けてくれる。今回はなんだろう。彼の伝えたい気持ちが嬉しくて、思わず頬がゆるむ。イントロが始まるのを待つ。
「人間という仕事を与えられてどれくらいだ」
唐突に歌い始めたこの曲に、いつも聞いている曲とは違うもののようで一瞬頭の中が真っ白になった。
…ギルド
そう思っているうちに3人が出てきて、ギター、ドラム、ベースの音が重なる。

4人の音と声が頭の中にあふれると同時に、あのころの景色が思い浮かぶ。

古びた駅のホーム。屋根なんて真ん中に少しあるだけ。両端は野ざらしになっている。アスファルトの割れ目から出た雑草が枯れてカサカサと揺れている。家と家の間から少し朝日が見えている。まだ日差しは暖かくない。
うつむきながらウォークマンの電源を入れ、イヤホンを耳に押し込む。

悲しいんじゃなくて疲れただけ 休みをください 誰に言うつもりだろう

電車が来るまでの数分間、このフレーズを繰り返し聞いていた。このフレーズを聞いて、「よし、今日も1日頑張ろう」なんて前向きな気持ちにはなれないけど、なぜかこの言葉たちが離れなかった。
“悲しいんじゃなくて疲れただけ” なんて精いっぱいの強がりなんだろう。どうしようもなく悲しいんだろうな。でも悲しいと認めたら、もっとつらくなりそうだから、こう言うしかなかったんだろうな。
私も同じだ。
つらいこと、大変なこと、気持ちが沈むこと、「今、私は悲しいんだ」って主張してもどうにもならないことが目の前にあるとき、その感情を認めてしまったらそこから一歩も動けなくなってしまいそうで怖かった。だって悲しいことから立ち直る過程はあまりにも力が必要だから。ただ「疲れてるだけ」って思いこんで、目をそらさなきゃ毎日を歩いていけなかった。

「休み」なんてどこにもなかったし、どこへ行けば休まるのかさえわからなかった。もう、できることならこの人生ごと休みになっちゃえばいいのに。
そんなことを考えながらゆっくりとホームへ入ってくる電車の先頭を眺めていた。ドアが開く。端っこの席にうずくまるように座る。
今日も一日が始まってしまう。


気が付けばあれからギルドを聞く機会も随分減った。同じことの繰り返しだと思ってたあの日から、少しづつ生活も変わった。見える景色も違う。

ギルドを聞いてあのころの景色を思い出すのは、今があのころよりも少しだけ明るいから。悲しいことを押し込めて、人生休みになっちゃえばいいなんて思わなくてもいい。この歌を聞いて流れる涙は、辛くて痛い涙じゃない。やわらかくあたたかい。
そんな風に思える今の景色は、あの頃よりもあたたかく色づいているはずだ。

構わないから その姿で生き延びてくれ

途中、藤くんはこう歌詞を変えて歌ってくれた。
どんな形でも生き延びていくこと。
これから先もこの言葉をお守りにして。


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