BWD:死を紡ぐ虚構・序文
硬い岩にたたきつけられた柘榴の様に、コンクリートに紅が広がった。
かつて人間だったモノは今や物言わぬ肉塊になり、かの詩聖が遺したように苦悶や後悔を訴える事もない。
身を投げた男が数刻前まで居た高層ビルの屋上に迅雷めいて赤黒の外套の男がその身を現す。屋上に残されていたのは靴、そして遺書。
「無念の意を感じて来たが、手遅れだったか」
赤黒の男は念仏を唱え、手に取った遺書を広げる。
そこには自殺した男の訴えが記されていた。いわく、全くの無関係のデマの煽りを受け、職を失ったこと。長く連れ添った家族と離散したこと。社会に絶望し、死を選んだこと。そして、
「自分を貶めた輩を罰してほしいと。いいだろう、おまえの無念、しかとこの俺がはらしてやる。迷わず成仏せよ」
数瞬の後、現場改めに現れた警察が見たのは靴と元通りにたたまれた遺書だけが残っていた。
【死を紡ぐ虚構・本編へ続く】
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