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ノースシ・ノーライフ(6-5)

モータルの罪過たる重金属酸性雨をもたらす、淀んだ雲を越えてなお満月の輝きは冷え切ったネオサイタマの高層ビル群を照らしていた。

いつ止むともしれない、錆色の雫が、ビル屋上に立つレインボーフードのけばけばしい七色PVCニンジャ装束を濡らしていく。彼の身には厳重に封されたスシ材料のターポリンバックパックに、ウエストにはワサビ、ショーユ、ガリを詰めた小型のバイオタッパーがマウントされている。その姿はまるで、移動要塞型スシ販売戦車のようだ。けして、汚濁の嵐の中を突っ走ってもスシ提供に支障をきたすことはない。

これが、彼のイクサ装束である。

「よし……イクゾーッ!」

掛け声をあげて、レインボーフードは自身の頬を張手し気合を充填。そしてビル屋上の縁より……跳躍!眼下にそびえ立つ高層ビル群へ順に飛び渡り、バッタめいて駆け抜けていく!彼のニンジャ跳躍速度によって、重金属酸性雨が霧めいて吹き散らされ、他の雨粒と合流しては大地へと降り注いでいった。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

急げ!レインボーフード!急げ!ケモ動物がまつ安アパートへ!

―――――

重金属酸性雨のしずくを十分にニンジャ身体能力によって払うと、レインボーフードは改めて目的である安アパートへと侵入した。無論、鍵のかかった正面玄関などありはしない、各部屋の玄関がむき出しとなった佇まいは今やネオサイタマでも希少といえるほどの古めかしさである。

「ええと、202、202と……」

さして大きな建造物でもなく、レインボーフードの目的の部屋はすんなりと見つかった。表札には、部屋主の名前はなく……空欄だけが寂しく据わっている。

「落ち着け……落ち着けよ俺……ニンジャだってピンきり、話せばわかってくれる人もいるはず……」

体操後のモータルめいて大きく深呼吸、そして意を決すると……奥ゆかしく呼び鈴を鳴らした。容赦のない雨風が、レインボーフードを叩く。

しばし、雨音だけがすべてを支配する時間が流れた後に、ドアの裏からこれ以上無いほどめんどくさそうな、ハスキーな女の声が響いた。

「なーんの御用ですかぁ」
「アッハイ、ソノ、わたくしはデスネ」
「ニンジャだろ?ドーモ、エーリアスです」
「ド、ドーモ、レインボーフードです」

如何に言葉に詰まっていても、アイサツをされれば返さねばならぬ。
レインボーフードの名を聞いたエーリアスは、警戒感バリバリにチェーンがかかりっぱなしのままの玄関を開けた。あの画像の、荊棘眉入れ墨にボブカットの華奢な女ニンジャが隙間から顔を覗かせる。

「で、ナニ?アンブッシュしてこなかったって事は、多少はまともなヤツなんだろうけど、ウチにはなんもないぜ」
「あー、その、実はケモ動物の行方を探しておりまして……」

ケモ動物、その言葉を聞いたエーリアスの荊棘眉が、ピクリと跳ね上がった。レインボーフードのカラテ緊迫感が、全身にニンジャアドレナリンを噴出させる。

【ノースシ・ノーライフ(6-5):終わり:(6-6)に続く第一話リンク

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