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年越しにんじゃスペシャル:ディープテラー・イン・ツキジダンジョン

「マグロが足りない……!後少しだけ、いや、全然足りない!」

ラオモトによるラオモトの為の邪悪ニンジャ犯罪組織、「ソウカイヤ」。
その本拠地たるは、重金属酸性雨をもたらす汚染雲を突き抜けるほど高いトコロザワピラー。トコロザワピラーの中層階において、構成員向けスシカウンター内で一人のニンジャが銀に輝く業務用冷蔵庫の前で苦悩していた。

「こんな在庫じゃ新年会にお出しする量にはとても……!」

七色のフードに食品衛生マスクを模したメンポを着けた彼の名はレインボーフード。スシに命を懸けるソウカイヤ所属のスシ職人ニンジャである。

ライバル店からの妨害工作爆破テロにより消し飛んだスシ職人にニンジャソウルが憑依、その結果誕生したのがニンジャ狂気性をスシに全振りしてしまった残念なスシ職人ニンジャ、レインボーフードだ。

彼はソウカイヤによって服従か死を選ぶよう恫喝され、スシを握り続けるために邪悪犯罪組織に与することを選んだ筋金入りのスシクレイジー。そんな彼にとって新春のメデタイ年明けに充分な量のスシネタを用意できない事は、セルフセプクに値する責任問題だ。

「そもそも市場在庫が無いんじゃ買いようがない……」

仮に市場流通在庫さえあれば、ソウカイヤのコネとマネーで優先的に仕入れる事も可能であっただろう。だが近年のマグロ漁獲量は年々減り続けており、タイミングによっては買えるだけ仕入れても雀の涙程度しか在庫がないという有り様であった。

「ここはやはり、行くしかないのか……あのツキジダンジョンに、再び!」

ここでネオサイタマを熟知していない方に、ツキジダンジョンについてご説明しよう。ツキジダンジョンとは、ツキジの地下に存在する都市遺構である。過去に建造されてよりただでさえ複雑であった地下都市が、何者かの手によって改装が続けられてより複雑化、深層化が進んでいる魔の迷宮となっていた。

ツキジダンジョンの地下深くには、前時代の遺産である埋蔵マグロ資源が今も前時代ハイテック冷凍保存機構によって保管されていると、まことしやかに噂されており、ソウカイヤもまた首魁であるラオモト・カンにマグロを遇するためにかの迷宮へとニンジャを度々派遣していた。その結果マグロを持ち帰った者も居るので埋蔵マグロが存在するのは確かだ。

苦悩するレインボーフードへ、カウンター向かいに立った紫装束を身にまとったシナのあるオネエニンジャが気づかわし気に声をかけた。

「モー、レインボーフード=サン、またスシの事考えてるの?」
「アッハイ、スミマセン。ポイズンバタフライ=サン。ナンニシマショ?」
「いいのいいの、ちょっと通り掛けにあなたが悩んでるとこ見かけただけだから」
「ハハハ……お恥ずかしい。その、話は変わるのですがツキジダンジョンに埋蔵マグロはまだ残ってそうでしょうか」
「あら、マグロで悩んでたのね。そうねぇ、まだまだ、ツキジには埋蔵マグロ資源は残ってると思うわ。あそこからニンジャが運び出せたマグロは本のごく僅かだもの」
「あるんですね!わかりました!」

ポイズンバタフライが続きを話す隙も有らばこそ、レインボーフードはサンシタニンジャとは思えないニンジャ敏捷性でカウンターより飛び出し一目散にツキジへと駆け抜けていった。

「あら……スシの事になると本当に一直線なんだから。でも、ちょっと心配ね」

◆バメンテンカンナ◆

「ふ、深い……」

所変わって、明かりの乏しい人工都市遺構ツキジダンジョンの奥深く。
浅い層であればまだヨタモノ、ダンジョンエクスプローラー、野良スモトリや野良ベンダーミミックなどが闊歩しているが、深い階層になっていくとそのような胡乱徘徊者の姿も少なくなり、生命の痕跡が少なくなっていく。

薄汚れた通路の壁は冷気を放っており、ニンジャであるレインボーフードさえ得体のしれない底冷えする感覚を放っていた。

「皆さんが教えてくれた情報からすると、多分この辺のはずなんだが……」

レインボーフードとて、無策でここを訪れた訳ではない。大体彼は既に一回ツキジ探索を失敗しているのだ。二度も三度も空振りするのは無益という物であろう。事前にマグロ発掘に成功した同僚のニンジャ達、プレートメイルやデッドレインと言った面々に情報を求めた所、マグロスシが食べられるのならという事で快く提供してもらえたのであった。

「皆さん、ここを一人で探索してるのスゴスギル……アイエッ」

ニンジャ第六感に、異質なニンジャ存在感が入り込んでくる。修行時代に腐らせてしまったネタのような、哀愁と不快感がまざった感覚だ。生きているニンジャの物ではない。

(アイエエエ……ズンビーニンジャ……実在したんだ)

通路から分岐した道の先に、分厚い金庫扉めいたゲートを護るがごとく一体のズンビーニンジャが立っている。ズンビーニンジャとは肉体の死を超越したものの、その身を腐敗するに任せて活動する死人であった。

(避けよう)

サンシタニンジャなりに、多少の修羅場をくぐらざるを得なかったレインボーフードには流石に危地を避ける程度の経験が備わっていた。ズンビーニンジャは並大抵の打撃では滅ぼすことが出来ず、相手はその腐敗する身体が損壊するにも関わらず生者以上の怪力を振るうネクロカラテを得意としている。レインボーフードの技量には余る相手だ。

ニンジャ隠密性を発揮してその場から遠ざかっていくと、ズンビーニンジャは反応することなくその場に立ちはだかったままであった。

(多分、皆さんズンビーニンジャに遭遇したって話はしなかったからあっちにはマグロはないはず)

レインボーフードの目的はツキジダンジョンの探査ではなく、あくまでマグロである。マグロ有無が怪しい上に強敵が居る場所に長居する理由はなかった。

足音なくマグロ資材搬送向けに広く天井が取られながらも冷気に満ち溢れた廊下を、より冷え切った領域に向かって進んでいく。前時代ハイテック冷凍保存機構の冷気が、マグロを保管する副産物として流れ出ているのだ。そして、それは見つかった。

「ヤッタ!マグロだ!」

重厚なる冷凍庫扉を開けた先には、所せましとマグロが詰め込まれている。こここそが前時代にて大量の稀少マグロが保管された埋蔵マグロ資源保管庫であった。

「これだけあれば、新年会に足りる!……ん?」

ニンジャ感覚に、謎の振動が伝わってくる。外から、カツン、カツン、というピッケルを床に叩きつける様な硬質の音が、一定のテンポでこちらへと迫ってくる。ニンジャではない、だがまるで海鮮丼めいた感覚がレインボーフードのニンジャ第六感に伝わってきていた。意を決して、外に出る。

「アッ、アイエエエエエエエッ!?」

広い通路を埋め尽くさんほどに巨大な存在が、冷凍庫へと迫ってくる。
それは、マグロであった。いや、正確にはマグロではない。マグロが陸を歩けるわけがない。そのマグロの胴体には、カニの足があり、エラの後ろからはカニのはさみが生えていた。それどころか、マグロの尾はロブスターのそれに置き換えられており、シャコめいてビタビタと廊下を叩いている。

「バイオカニマグロブスターキメラ!?」

さよう、それは海産物の美味い部位だけで構築されたマグロキメラである。
レインボーフードは知る由もなかったが、このバイオキメラはヨロシサンの「海の幸贅沢計画」によって生み出されたバイオ海産物。その試験体の一体が、こうしてツキジダンジョンの奥底に逃げ込んでいたのであった。

マグロキメラはずしずしと冷凍庫まで近づいてきている。マグロがマグロを捕食するかは定かではないが、冷凍保存機構が破壊されればマグロ資源は台無しになってしまう!マグロリアリティショックより自分を奮い立たせ、スリケンを構えるレインボーフード!

「イヤーッ!」

最近の鍛錬によって多少はまともに飛ぶようになったスリケンだが、硬質の跳弾音と共にマグロキメラのカニばさみ甲殻によって弾かれた!敵対生物の存在を、そのマグロその物の空虚な目で視認したマグロキメラは想像を超える速度でレインボーフードへと接近からのカニばさみ打撃を振るう!

「イヤーッ!」

間一髪、ネギトロ待ったなしのキメラ凶器ハサミをバク転回避するレインボーフード!距離を取ってスリケンを連射するが悉くカニばさみに弾かれていく!恐るべきマグロ反射神経である!バイオマグロキメラはそのマグロ成分によってニューロンの性能がブーストされているのだ!

「クッ……!」

何事も命あっての物種、死んでしまってはスシも握れない。断腸の思いでレインボーフードが撤退を選ぼうとしたその時、救いの主は現れてしまった。

「スーザン!もうよせ!私と一緒に海に帰ろう!」

反対側の通路より連続側転からの跳躍でもってマグロキメラの前に立ちはだかったのは、またもやマグロである!

「オーシャンルーラー=サン……!?」

新たに現れたマグロには、雑に人間の手足めいた四肢が生えており、その右手には銀の鉾が握られていた。そう、彼こそはマグロにニンジャソウルが憑依したマグロニンジャフィッシュ、オーシャンルーラーである。

普段はシーライフを護る為に海に潜伏しているオーシャンルーラーが何故この地に現れたのか?それはレインボーフードの知る由もない。

立ちはだかるオーシャンルーラーの呼びかけに対し、キメラマグロは涙を流して大人しくなる。気まずくなって冷凍庫の中に身を潜めたレインボーフードを尻目に、異形マグロ達は頷きあうと冷凍庫を無視して通路を進み始めた。

ちらりと、行き過ぎるオーシャンルーラーの視線が冷凍庫に潜むレインボーフードに突き刺さる。そして背後の埋蔵マグロ資源にも。だが、射る様な鋭いマグロ目が向けられたものの、彼はそのままツキジ遺構の通路から離脱していった。悲しきバイオマグロキメラを連れていったままに。

「た、助かった……」

バイオマグロキメラにすら歯がたたない所に、ただでさえ強敵のオーシャンルーラーまでつけば逃げるのもままならずに爆発四散していただろう。スシの女神は彼に微笑んだようだ。

「こうしちゃいられない……!」

ツキジダンジョンとは、危地である。その事を痛感したレインボーフードは慌ただしく帰還の準備を進めた。その身に積めるだけのクーラーボックスへマグロ資源を納めて。

◆バメンテンカンナ◆

「これでよし、と」

深夜、場所は戻ってトコロザワピラー内のソウカイヤスシショップ。
なんとか無事に帰りついたレインボーフードは、持ち帰った埋蔵マグロ資源を丁重に冷蔵庫へと納めていく。前時代マグロ資源は同量の金塊よりも貴重な資源だ。粗末に扱う訳にはいかない。

新年を迎える年の瀬にあって、ネオサイタマが浮かれた雰囲気で一時の祭りを堪能している中、レインボーフードは黙々と新年会の仕込みを進めるのであった。

【終わり】

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