見出し画像

BWD:永久殺戮機関

ばしゃり、と闇夜の薄明かりの中青い血だまりを靴が踏みしめる。
朧月夜の僅かな光が窓辺から差し込み、高層マンションの一室を照らし出す。

その場に居るのは目のあるべき場所に口が付いた異形の人型と赤黒い外套をまとった一人の男。辺りには酸鼻極まるほどに肉片が飛びちり、ぬぐおうと落ちないほどに青の血痕が一面に広がっていた。

「キヒッ、キヒヒヒヒヒ……とうとうオレサマもオワリって訳だ」
「助けてください!後生ですから!」
「おいてめえっ、こんな事しても死んだ奴はよろこばないぞ!」

複数空いた虚ろな唇から口々に好き勝手のたまう多口のアクマ。
しかして、対峙する男が手にした斧を振り上げると主張する内容は一変する。

「復讐か?快楽か?」
「何柱アクマを潰したって無駄無駄無駄無駄っ!!!」
「アクマってば人間の『自分たちが悪い事するのはあいつ等のせいなんだ』って願望の産物だからねっ!」
「アクマを滅ぼしたいなら人間を滅ぼせ!」
「煙を断つなら火元からってな、キヒャヒャヒャヒャッ……ッ!」

男が無造作に振り下ろした斧はマキ割りめいて多口アクマを両断、青い血が真っ二つになったアクマの肉体を相互に染めあいながら床に崩れ落ちて絶命。

動く物がなくなった惨事の中で、男は振り返ることなく部屋を出ていく。

ーーーーー

雲海見下ろす高山の寺社、その一角にて男は黙して座禅を組む。
その身には珍しく武器も赤黒の外套もない。それらは男の周囲にあたかも兵器に搭載する前に点検されるがごとし有様で並べられている。

エストック、手斧、くない、カイザーナックル、手裏剣は一方から八方まで、鞭のごとき柔軟な剣、チャクラム、複数のナイフ、多節の槍、折り畳み式の弓矢に大口径のリボルバー、単発のグレネード、そして赤黒い意匠の大太刀。

「久方の来客かと思えば、貴方でしたか」
「邪魔してるぞ」

座禅を崩さず、振り向くこともせずに男は背後の呼びかけに答えた。仏閣の奥から現れたのは整った顔立ちの青年僧であった。その身なりは伝統的な僧衣に包まれているが均整の取れた在り様なのは衣服の上からでも見て取れる。

「事前に知らせていただければお茶請けでも用意したのですが」
「座禅しに来ただけだからな、気は使わなくていい」

身動ぎすらせず答える男の後ろに清廉さを感じさせる穏やかな所作で正座する青年僧。

「またぞろ、迷いでも産まれましたか」
「そんなところだ」

男の言葉に微笑する僧。高い徳を積み重ねたものが見せる「アルカイック・スマイル」である。

「貴方も悩むのですね」
「悩むさ、生きている限りは、何度でもな」
「それを聞いて安心しました。普段の貴方は機械めいて迷いなく行動されるものですから」
「死中での迷いとは即ち死よ。だからこそお前の言う普段は迷わず動く」
「そして迷った時はこうして内観する、ですね」
「その通りだ」

風が吹く。雲の海は流れるも下界を覆い隠したまま、この地を天上のごとく隔離する。

「以前からお聞きしたかったのですが」
「なんだ」
「貴方は何故戦うのですか?」
「理由を聞いてどうする、他宗派の僧として諫めるか」
「いえいえ、単純な好奇心です」

僧の問いかけに、改めて沈思黙考した後、言葉を紡ぐ。

「単純だ、俺はな、誰かが苦しめられているのを見過ごせんのさ」
「さようですか」
「妻子を奪われた、とか、恋人が死んだとか、そういうヤツでなくてすまんな」
「いえ、腑に落ちる答えでした」

風が吹き抜けていく。幾重にも重なっていた雲の海は吹き洗われて下界の紅葉、その紅海が現れる。

男は座禅を解いて立ち上がるとその身に外套をまとう。瞬く間に展開されていた武装群を身に着けると青年僧を振り返る。

「邪魔したな」
「ええ、またいらしてください」

赤雷めいて男が跳躍するとその場には、幽谷の住職ただ一人が遺された。

ーーーーー

闇夜に海面が月光を照り返す埠頭で鋼刃が閃く。
人智を超えたその太刀筋は異形の影を両断すれば伴った衝撃波が割れた果実を砕くように爆砕する。無残に飛び散る青い血。

蒼く染まる事すらなく振りぬかれた太刀はその身を翻し飛び掛からんとする三つの異形を一薙ぎに切り裂き、試し切りされた西瓜の様にその中身をぶちまけた。

ニンテンドーのゲームめいた気安さで埠頭は蒼く染まっていく。作業めいた殺戮によって。

同胞の受ける殺戮に目を細め、得物の大斧を構える牛頭の獄卒。
青い返り血をその身に浴びて獄卒へと対峙する赤黒の男。

「またせたな。じごくがおまえをむかえにきたぞ」
「むぅ……人間よ、なにゆえにかような殺戮に走るというのだ。身内の復讐か?それとも力ある物を踏みにじる悦びゆえか?」
「どちらも外れだ」

納められた刀の柄に男が手をかけると、研ぎ澄まされた殺意で大気が数度その気温を下げる。

「貴様らがこの世において悪逆をなす。理由はそれで充分よ」

その言葉が牛頭の知覚した最後の情報となった。

【BWD:永久殺戮機関・おわり】

#小説 #逆噴射プラクティス #ボンズウィズディテクティブ #パルプ #殺戮者 #怪奇小説

ドネートは基本おれのせいかつに使われる。 生計以上のドネートはほかのパルプ・スリンガーにドネートされたり恵まれぬ人々に寄付したりする、つもりだ。 amazonのドネートまどぐちはこちらから。 https://bit.ly/2ULpdyL