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BWD:死を紡ぐ虚構・本編

【このエントリは死を紡ぐ虚構・序文のつづきとなります】

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朝、都心の高級マンションの一角にてスマートフォンの呼び鈴が響く。
天蓋ベッドでまどろんでいた白い探偵ことセージはすぐさまスマホをひっつかんで着信に出た。

「はい、もしもし?」
「よう、駄探偵。健勝か」
「ウェー、センセイこんな朝っぱらから何の御用で?」

電話の相手はいつものパートナー、黒ボンズのカリューではなく、彼の師匠である男だった。金払いはいいがセージは彼にいい思い出がないのだ。

「仕事の依頼だ」
「俺っち今日オフなんですけど」
「割増料金にしてやる、うれしいだろう。どうせゴロゴロ惰眠をむさぼっていただけだろうからな」
「千里眼でもついてんなら自分でやったらどうですかね?」
「大体目星はつけてるが、確たる情報が欲しい」

ピポーン!セージのスマホに振り込みを知らせる電子音が鳴る。破格の金額だ。金遣いの荒いセージには断りがたい内容である。

「はいはい、やりますよ。約束あるんで手短にしてもらえます?」
「ああ」

センスの良い家具とそれをぶち壊しにする乱雑さ、それも調査書類などではなく漫画やゲーム、CORONAといった趣味の品が散乱してる中自分のデスクに向かうとパソコンを立ち上げる。

「今から話す件の裏が欲しい」
「へいへい」

雑多な部屋とは裏腹に整理されたデータライブラリを検索すれば依頼主の望む情報はすぐに表示された。

「どうだ」
「ビンゴですよセンセイ、アンタが看取った自殺者は目星をつけてるデマサイトのでっちあげ、そのとばっちりを喰らって破滅してんぜ」
「実際のつながりはあるか」
「そりゃもう、なーんにも、まったくないね。ヒドイ話っすわ、連続殺人事件の犯人ってネタかと思いきや、犯人として挙げられてるヤツは全くの無実、その上センセイが看取った相手は同姓同名ってだけでつるし上げられて人生オワッテル。完全完璧なとばっちりですよ」
「そうか。データがそろったらこちらに送ってくれ。それで俺からのオーダーは終わりだ」
「へーい」

パソコン内のデータライブラリから必要な情報をラインナップするとクライアントのスマホに転送する。もって1時間内に収まったのだから割のいい仕事と言えるだろう。

「今日会うベイヴとのデートに色付けてあげますかねぇ」

臨時収入を迷わず今日使うと決めた探偵のスマホにピンポロロンとメッセージが届いた。

『そういうところだぞ』

「アンタ本当に探偵の協力必要なんですかねぇ!」

セージは頭を抱えてスマホをベッドに放りだした。

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都内某所、不夜城のごとく深夜にも関わらず煌々と輝く高層オフィスビルの前に赤黒の男は立っていた。ビルの入り口には朝方の死の残滓がまざまざと残っていた。

ターゲットとなる企業はこのビルの最上階にある。
鋼鉄の機械めいた感情の感じられない足音を響かせ乾いた血色の男は決断的に既にロックされた正面玄関のガラスをけり破った。二重に閉じていたはずの自動ドアは一撃で粉々に砕けて侵入者を野放しにする。けたたましくなる警報を意に介さず、男はビル内に歩みを進める。

「止まりなさい!あなたを不法侵入でがっ」

制止に警備室より現れた警備員が銃を向けるも、男が宙に向けたデコピンの衝撃波で悲鳴すら上げられずに宙に舞った。
地に転がって悶絶する警備員にバニッシャー認可の証となるIDカードを掲げる。

「御用改めだ。邪魔立てするなら容赦せんぞ」

威力調査を宣告する男に同僚の危機を察して警備室から民事アサルトライフルを掲げ追加の警備員が現れる。ただちに隊列が組まれ銃撃が始まった。

5.66ミリの殺傷性の高いライフル弾の嵐へと日光浴めいた足取りで男は歩みを進める。回避する様子すら見せぬ男に警備員たちは狂ったように銃を撃ち続けた。大理石の床に薬莢が無数に落ちて甲高い即興曲を奏でる。

「職務意識が高いのも考えもんだな、命は大事にしておけ」

しかして見よ。男が宙にまとう墨字のイニシエートカンジワードがことごとくライフル弾を噛みとめていた。警備員たちの空撃ちの音にライフル弾が床に落ちる音が重なる。唖然とする警備員の間を男は悠然と通り過ぎて最上階へとつながるエレベーターを求めた。

「おい、最上階行きの奴はどれだ」
「お、奥の30階行きと目印がついている物です」
「ドーモ」

警備員が答えたエレベーターを呼び出すとそのまま消えていく男。
顔を見合わせる警備員たち。

「どうしよう……」
「警報止めて、見なかった振りしようぜ。あんなのパンピーじゃ勝てるわけないって」
「ですよねー」

未だに地に転がって失神している最初の警備員を抱きかかえ、警備員たちはすごすごと警備室に籠城した。

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ピンポーン。最上階に着いたことを知らせるベルが鳴り、ドアが開く。歩み出た赤黒の男の前に疲労が死相に達したサラリマンが立っていた。

「あ……」
「ここの社員か。さっさと帰れ、この会社は今日で閉店廃業だ」
「あ」
「あ?」
「ありがとうございますぅ……」

へたり込むように縋りつくサラリマンを押しとどめ、訳を聞く男。

「早く、早くこのとんでもない会社を何とかしてください。こんなところに来るんじゃなかった……!」
「ふん、大方察しはつくぞ。貴様今朝方このビルで自殺した犠牲者が破滅した引き金を引いた奴だろう」
「ひっ」

地獄のともしびめいた眼光で詰問されるサラリマンはヤマ・キングの前に引き出された罪人の様に縮こまった。

「おっしゃる通りです……ニュースサイトの記事書きだって、そういう物言いで入社したのに毎日毎日嘘っぱちの煽り記事ばかり、その上僕の書いた記事で自殺する人まで出るなんて、こんな、こんな……」
「安心しろ、首謀者はこの後地獄を経験する」

男の言葉に涙ぐんで鼻水まみれの顔を上げるサラリマン。

「僕はどうしたら……」
「好きにしろ。だが罪滅ぼしがしたいなら生きてやれ。お前も死んだところで死体が増えるだけだからな」

かけられた男の言葉にうなだれるサラリマンを置いて、男はセキュリティーロックがかかった分厚い鋼鉄のドアへと向き合う。その身に無数に括り付けた武器の中からマシェーテを引き抜くとおもむろに振り下ろした。

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「おや、まだ帰っていなかったんですか。辞表の提出はいりませんよ」
「社員の動向などお前が気にする必要はもはやない。なぜなら」

社長室で窓辺を見下ろしていた社長、否人間の姿を偽ったアクマは聞きなれぬ声に振りむいた。そこには月光を受けどす黒い赤黒の男が立っていた。清らかな月光を受けなおその男は地の底より現れた迎えの如き佇まいだった。

「この俺がお前をちのそこに連れて行くからだ」
「ケヒッ、ケヒヒヒ、これはこれは、バニッシャーという生き物ですか。はじめてみましたよ、ええ」
「そうとも、そしてお前が見る最後のバニッシャーとなる」

ぎょろりと人間のカワをゆがめてレンズめいた眼を見開くアクマ。

「いいですねぇ!こうして直に人間の苦しむところが見れるのは!デマをばらまくのは効率はいいですがやはりリアルにはリアルの醍醐味というものがありますのでね!」

合図として柏手を叩くアクマ!直後に男が振り下ろされた巨大な金棒に叩き潰される!四散し飛び散る床の破片!

「いいですよぅセンセイ!地獄の沙汰も金次第とはこのことですな!」

姿を見せたのは最上階の高い天井をもってなお窮屈にさえ見える恐るべき地獄の悪鬼である!成人ほどもある金棒はこの悪鬼羅刹によって振るわれたのだ!対比で小人のように見える社長アクマに牙を剥きだしにして笑う悪鬼!

「ぐっはははははあはっははは!ここまで好きに出来るとは現世は最高だな!」

悪鬼の握る金棒には新鮮な肉と血がこびりついていた。それが犠牲者の存在を如実に語っていた。……だがしかし!

「その血肉、どこぞで哀れな犠牲者を屠ってきたか。ますますもって度し難い奴等よ」

なんたることか!振り下ろされた金棒は男にかすりすらしていなかったのだ!背後からかけられる声に振り替える悪鬼!

「両方まとめて地獄に送ってやる、申し開きは閻魔にするんだな」
「ほざくがいい人間!貴様らが際限なく増えて死ぬほど我ら獄卒の仕事は無間地獄めいて増えるのだ!」
「ふん、獄卒が泣き言などとそこが知れる!」

再び力任せに振り下ろされる金棒!
柳枝めいて男が避けながらその身から引き抜いたのは錐めいたエストックだ!

「おりゃああああああっ、がああああああああ!!!!?」

悪鬼の裂ぱくの気合は途中から苦鳴へと変わる!エストックは金棒を握りしめた悪鬼の手首、その両方を貫き縫い留めていた!地獄の鬼といえど関節部を砕かれれば自慢の獲物は持てぬのだ!

「どうやら殺すばかりで傷つけられた事はないようだな」

悪鬼は己の腕その物を獲物とし男をなぎはらわんとするが遅い!男の手には悪鬼が手放した金棒がある!

「お前が殺した相手に地獄で詫びろ」

己の手にしていた獲物が振り下ろされる様を見届けながら地獄の鬼は金棒で力任せに両断された。びちゃりと蒼い血が社長アクマに降りかかり自分を襲いに来たのはアクマを越える理不尽と暴力の権化であることをいやおうなしに理解させる。

「ケ、ケヒ……」
「どうした、お前の用心棒はもう死んだぞ。代わりが居るなら早く出すがいい。まとめて始末してやる」

もはや人間の姿を取り繕う余裕はなく原体をさらすアクマ。その姿は無数のスピーカーとカメラレンズを無造作に積み重ねたような異形の姿だった。

「マッタ、マッタ!あなたが欲しいのはカネですか!?名誉ですか!?人間ならどちらもほしいでしょう!私にはそれが用意出来る!」
「笑止」

月光の蒼い光の中、男の眼が地獄の釜の様に燃え滾る!振りかぶられる赤い血と蒼い血が入り混じった巨大な金棒!

「俺はお前を殺しに来たのだ。ただ、それだけだ」

作業めいて幾度も振り下ろされる金棒!砕け散る機械まみれのアクマはその身が跡形もなくなるまで丹念に粉砕される!

地上の警備室では、いつ終わるとも知れぬ謎の轟音に警備員たちが身を寄せ合って震え続けていた。

南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……

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ビルの屋上から下を見下ろす。遥か下方に見えるのは未だに残る以前の自殺者の痕跡。散った椿の様にみえ、しかしてその色はどす黒く紅い。
自分もここから同じように飛び降りたら楽になれるだろうか、この地獄のような世界から。

「やめておけ」

背後からかけられた声に地の底を覗いていた少女は振り向いた。そこに立っていたのはさっきまで見ていた紅黒と同じ色の外套を着た男だった。その手には白い花束が握られていた。

「飛び降りで死ぬのは苦しいぞ、きっとな」

考えていたことを見抜かれてすくむ少女を意に介さず、男は屋上に花束をささげ短く念仏を唱えた。念仏を唱え終えたのち、男は外套の内ポケットからメモを取り出す。

「生きるのが辛いならコイツを頼れ。俺の弟子だがそういうのは俺より得意だからな」

迫力に気圧されて思わずメモを受け取る少女。

「あの、あなたは一体」
「俺か、俺は……」

少女の問いかけに視線を蒼穹に向け、しばしのち男は答えた。

「報われぬ者のために抗う、ただの人間よ」

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