見出し画像

UE:ランチタイム・アサルト

「ナニコレ」

昼下がりの荒野道路、その脇にポツンと立つステーキハウスの一角で軍人風のゴツイ男はテーブルに映し出されたスマホの映像に唖然とした。

「おい、貴様これが俺が負けた相手の機体とぬかすつもりか?」
「ウソついてどうすんだって」

対面に座るジャケットを羽織る精悍な男の回答にマジマジとテーブルの映像……すなわち自分が先ほど戦った機動兵器の設定図を観察。

「はっきり言うぞ、コレはヒドイ」
「だから相談してるんじゃんか、サキモリ」

男の返しに深く深くため息をつくサキモリと呼ばれた軍人風の男。
彼らは先ほどまで試合として死闘を繰り広げた二人であった。
殲滅者こと「アナイアレイター」の騎手がサキモリ、宵闇色の騎士「フルメタルドーン」の方の騎手がハガネである。彼らは実際戦う以前からの知己であった。

「コレで一体どうやってここまで勝ち上がってきたんだ、全然っわからん」
「致命打全部避けてぶった切った。早く斬ったもん勝ちだからな戦いは」

ハガネの言葉に考え込んでしまうサキモリ。

「確かに機動力と火力に全振りして、致命傷を受ける前に相手を落とす。理論上は可能だがだからってそんなことするバカ初めてみたが」
「うるへー、実際勝ち上がってるんだからいいだろ、今までは。問題はこれから先だ」

言葉を切ると自身も設定図を読むハガネ。

「アンタと戦って確かに機体構成の見直しは避けられないと痛感したぜ……」
「そいつは結構。俺に勝った勢いでこのまま上位に突貫してたら俺の立つ瀬も吹き飛ぶってもんだ」
「ええ、その通りですサキモリ様。もっとマイマスターに釘をバンバン刺してください」

ここぞとばかりに煽るハガネの相方AI、「タタラ」。彼女もまたスマホの中から不平をぶちまけていた。

「もー毎回毎回底辺機体に毛が生えたようなレベルの機体で勝てるようにサポートする私の心労は限界です、よよよ……」
「AIのどこに心労がかさむんだどこに」
「失礼ですね!演算負荷でSoCチップが痛むんですよ!毎回毎回オーバークロックする身にもなってください!」
「おい、そこは相方いたわってやれよ貴様」
「むむむ」

二人に挟み撃ちされ立つ瀬なくテーブルに視線を落とすハガネ。
テーブルにはポンコツ一歩手前の洗練されていない愛機。

「サキモリ、まずどこから変えるのがいい?」
「よろこべバカ野郎、おまえの機体はどこもかしこも極端すぎて少しメインパーツ変えるだけでもマシになるわっ。だがまず変えるなら」

サキモリが指差したのは人型機動兵器、その胸部。

「まずジェネレータだ。お前も知ってるだろうが俺達の駆る『ソウルアバター』、通称SAはその名称の通り俺達の精神力を物質転換、固定する事で形成されてる」

サキモリの説明にはじめてききましたみたいな顔で向き合うハガネ。

「貴様、説明書読まないタイプか」
「まあ、その、なんだ。オッシャルトオリデス」

突っ込むのにも時間の無駄と判断したのかそのまま続けるサキモリ。

「だが、人間の精神力をそのまま活用したところでその量はたかがしれてる。精神力を増幅して補うのがジェネレータの役割だ」
「つまり?」
「お前の機体はジェネレータの性能が低すぎて機体性能全般に足枷がかかっている、だからまずここを入れ換えるべきだ」
「りょーかいだ」

ハガネはサキモリの説明を理解するとすぐさまスマホでデータショップにアクセスし、より高性能なジェネレータを購入、機体設定図から既存のジェネレータと交換する。現時点では彼らの有する機体はデータに変換されているため、データ上で設定を書き換えれば物質変換した際に反映されるという仕組み、だ。

「よし、切り替えたぞ」
「では次は……」

次の提案を切り出そうとした直後、ステーキハウスが振動で揺さぶられる!鼻歌を歌っていた太っちょの店主は慌てて奥に引っ込む!
二人は顔を見合わせ、

「これは多分アレだ、試合前にちょっかい出してきた奴等」
「軽く消し飛んだ癖にリベンジ早いなおい」
「で、どうする」
「もちろん潰す。デルフィ」

自らのスマホに向かって呼びかけるサキモリ。応答する機械的な反応のAI。

「イエス、マスター。私達のSAの修復状態は辛うじて立てる程度、です」
「俺に負荷をかけてもかまわん、修復を急げ」
「了解しました」
「そっちはどうだ」

ライバルの確認にスマホチェックするハガネ。

「こっちは機体の骨格フレームを優先すれば十全に戦える」
「ならお前は前衛だ、やれるな?」
「おうとも!」

ーーーーー

荒野にぽつんと建つステーキハウス、それを取り囲む色とりどりの巨人、SA達。その数、十機。その中央に立つのは四脚四腕異形の多脚戦機。

「アニキィ……ホントにやるんですかい?」
「バッカおまえ今こそチャンスだろうが!あれほど大破してりゃ勝てる!」

そうかなぁ……と内心ではぼやくサンシタも黙って目標が出てくるまで待った。非武装状態の騎手を直接攻撃することは重大なタブーであり、勝った扱いにはならないためサンシタのアニキ分も流石にそれはしない。

「おい、来たぞ!ハッハ、ボロボロじゃねえか!」

サンシタ共の視界繭めいた新球の黒と橙の光の球体が生じ、その中からそれぞれSAが現出する!辛うじて胴部が修復されたアナイアレイターと一部骨格がむき出しのフルメタルドーン!共通帯域通信でサンシタ共を煽るハガネ!

「ハイエナはどこまでもハイエナの様だなサンシタ共」
「うるっせぇ!勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあ!おまえら、ヤレ!」

思い思いに手にした武装、その引き金を引くサンシタ巨人達!ロケットランチャー、マシンガン、火炎放射器、ミサイルランチャーと多種多様だ!
だがしかし集中砲火を受けた宵闇色の騎士はサンシタに回り込むように射線をずらし回避!そこから反転跳躍で宙がえりしながら明後日の方向に着地!サンシタの照準はAIの補助を受けてなお騎士の後追いに終始する!

「うっひょーい!今までと桁違いに余裕があるぜ!負ける気がしねぇな!」

騎士は地を這うがごとく身を低く突貫!その勢いのまま手近なサンシタ巨人を胴薙ぎ!さらに跳躍して翻弄しながらにもう一体を両断!残り8機!

「おまえら!ひるむんじゃねぇ!相手は手負いだ!」
「まーな、だが消し飛ぶのは貴様らだ」
「な、にぃ!?」

体操選手を超えニンジャめいて複雑な機動で騎士に翻弄されていたサンシタ達はようやく気付く!胴部肩部の装甲を展開し強力な三連装レーザーキャノンを殲滅者が見せた事を!回避に意識が及ぶ前に破滅的な閃光が放たれる!

「ちょっ、まっ」

殲滅者が放つ閃光は幾重の光の帯となり蛇竜めいて適格にサンシタ巨人達に食らいつく!陽に晒された吸血鬼めいて灰塵と化すサンシタ巨人!閃光が消えた後にただ一騎残される四脚四腕のサンシタ親分機!

「おい、一機残ってるぞ」
「わざと外したんだ、後は貴様がやれ。俺は疲れた」
「あいよ」

意図的に通信が共有され歯牙にもかけぬ扱いに目をむいて怒り狂うサンシタ親分!四腕の異形機にゆらりと歩み寄る宵闇色の騎士!

「チクショウ……なめやがって」
「舐めてたのはアンタらの方だろうが」
「だまれぇぇぇぇぇっ!」

異形巨人は下左腕のクローで掴みかかり下右腕のドリルで騎士を粉砕せんと突撃!自らをつかみかからんとする鉄爪を騎士は構えた太刀で切り裂きながら異形と衝突する!超近接密着距離では異形巨人のドリルは騎士へととどかぬ!

なおも騎士を貫かんともがく異形巨人の下右腕を掴むと半ばで太刀が斬り落とす!そこからさらに身をかがめてハイキック!何ら抵抗できず吹き飛ぶ異形巨人!

宙に吹き飛びつつも異形巨人は上両腕の火器を騎士に向ける!放たれるロケットとミサイル!これを前方に踏み込んで回避!騎士の背後で幾つもの爆発が起こるがダメージにはいたらない!騎士の太刀が閃く!地に落ちる異形巨人の四肢が斬り飛ばされて再び宙を舞う!

轟音をたてダルマとなって地に墜ちる異形巨人!そこへ介錯人めいた地獄の雰囲気そのままに騎士が見下ろす!

「待った、待ってくれ!もう勝負ついただろ!俺の負けだ!だから許してくれ!」
「そーだな、勝負はついてる。だがしかし」

振り上げられる太刀!

「俺はおまえみたいなクソヤロウは徹底的につぶすと決めてるのだ」

太刀が閃いて異形巨人の首が宙を舞う!致命打となって異形巨人の物理結合が崩壊!光が拡散するように溶けて消える!後には何もなかったかのように戦闘の痕跡だけが残った。

「終わったぜ」
「ふん、調整の結果は上々のようだな」
「まーな、感謝するぜサキモリ」
「礼はいらん、この先お前がホイホイ負けたら俺の立場がないからな」
「勝つさ、これからも」
「その意気やヨシ」

カメラの端で巻き込んでしまったステーキハウスが無事なことを確かめると身を翻す騎士。

「よっし、帰ろうぜ。また今度レクチャー頼むわ」
「いいが、今度はもっと高い店でおごれよ」
「うひー、なんかミッションやらねーと払えねえ。ランキング戦ばっかだったからな」
「貴様は本当に勝ち上がる事しか頭にないな!?」

軽口叩きあいながら夕日傾く荒野を二機の巨人は地平線へと向かうのであった。

【UE:ランチタイム・アサルト:終わり】

#小説 #逆噴射プラクティス #アンブレイカブルエゴ #パルプ #ロボット物

ドネートは基本おれのせいかつに使われる。 生計以上のドネートはほかのパルプ・スリンガーにドネートされたり恵まれぬ人々に寄付したりする、つもりだ。 amazonのドネートまどぐちはこちらから。 https://bit.ly/2ULpdyL