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UE:トイ・ドミネイター

木色の甲冑巨人に十字星めいて刺突が撃ち込まれる!
対物大口径銃を撃ち込まれたが如くバラバラに四散した木甲冑は晴れ渡る青空の中で光となって消えた。

それを成したのは白銀の全身鎧めいた形状の巨人、「ソウルアバター」と呼ばれる機動兵器であった。
手にした刺突剣を鞘に納め白銀の騎士は陽光を受けて輝く。

「素晴らしい」

コクピット中にて満足げにうなずくブロンドの美男子。

「この機体なら私のデビュー戦は華々しい物と決まったような物だ!ハーッハッハッハ…ング、げほっごほっ、き、気管が……」

乗り手の咳き込みなど気にも止めないかのごとく騎士は青空の下に直立していた。

ーーーーー

「大変ですマスター!おかねがたりません!」
「んなこたーわかってる」

デスクに放られたスマホから姑めいた突っ込みをいれてくる支援AI、タタラに投げ槍に返す青年、ハガネ。

時は夕暮れ、自宅であるアパートメントで愛機のパーツを買い換えようとネットを物色していた時の結論であった。

「なけなしのストックはこの前のジェネレータで吹き飛んだしな」
「アレ自体は悪くない選択でした、ボトルネックになってましたし。だから今の構成で金策としてミッションとか受けるのが一番ですね」
「メンドクセー」
「急がば回れ、いえこの場合は木を切るならば斧を研げ、でしょうか」
「言いたいことはわかるけどな」

安物の椅子をぎしぎし鳴らして背を伸ばす。作家であれば椅子にカネをかけるべきだが、彼は作家ではなく、戦士であった。いや、戦士でも腰は大事ではある。

「どっかに新進気鋭のパーツデザイナーとか転がってねーかなー」
「何夢見る乙女ちゃんみたいな事をいってんですか。というか今時じょしこーせーの方がまだ現実みてますよ」
「呟くくらいいーだろ、別に」

サイトを回ったところで懐が暖まる訳でもなし、早々に切り上げようとしたタイミングでSNSの通知がなる。

「『助けて下さい』…?マスター、これ怪しくないですか?」
「まあな、だが話してみないことにはわからん」

SNSの通知に返信を返すハガネ。

『正式な依頼か?』
『はい、あなたしか頼れません』
『そういう人情論はいい、お前は代価を用意出来るのか』
『お金は用意出来ません、ですが市販品を超える性能のパーツをあなたに提供出来ます』

タタラと視線を合わせるハガネ。ウソからでたまことになりうるだろうか。

「タタラ、通信ログ確保。後発信地逆探」
「イエッサー」

引き続き交渉を続ける。

『信用し難いぞ、何故仲介業者を避けた』
『自分は監禁、監視されています、警察も動いてくれません』
『警察も見ないふりする鉄火場に来いと』
『その通りです』
『良いだろう、受けてやる』
『ありがとうございます』

相談無しに決めた主人に悲鳴をあげるタタラ。

「マスター!?」
「狂気の沙汰ほど面白れぇってヤツだ」
「もーっ!どうなっても知りませんよ!」
「お前も俺の相方なんだからいい加減慣れとけ」

タタラをなだめながらレスを返す。

『で、何をしてほしい』
『自分を救出してください。必要な情報はこの後送ります』

ファイルがハガネのスマホに送付される。途切れる連絡。

「タタラ、ミッションの目的地と依頼人の送信元を対比」
「一致しています、この点ではブラフではないようですけどこれ」
「白鳳財閥の本宅か」
「です。案外ビンゴ、かも」
「ワナならワナでいい、迷惑料きっちりふんだくってやる」
「どうしてこーマイマスターはバトルクレイジーなんでしょーねぇ」
「生まれつきだっての」

悪態つきつつもハガネはファイルを検分する。指定の時刻は今夜12時。

「怪盗ごっこは趣味じゃないが、まあいいさ」

ーーーーー

朧月が薄明かりをもたらす深夜、広大なる邸宅の外周部にて二機の都市迷彩巨人が警護徘徊していた。

「ふぁ~あー……」
「おい、あくびなんかしてたら主任にどやされるぞ」
「仕方ないだろ、なんせ今どき強盗なんて来るわけ」

途切れる通信。不信に思った警備巨人の騎手が相方を振り返るもその時には真っ二つに両断され光に還る相方の姿。

「タ、タナベーッ!!!」

犠牲になった相手の名前を悠長に叫んでいる間に続いて横薙ぎに切り裂かれるもう一体。またもなすすべなく光となって溶けきえる。

「タタラ、このままステルスモード維持」
「アイアイサー」

闇の中わずかに閃いた刀身を鞘に納めると黒橙の騎士は身をひるがえす。おそらく監視システムが警備機の撃破を検知しているはず、ゆえに時間はない。目的が察知されれば依頼人を救助するのは難しくなる。

巨体にも関わらず音もなく敷地を駆け抜ける黒の騎士。

「タタラ、依頼人と連絡は?」
「返事がありませんがこちらのメッセージは既読がついています」
「床に伏せるように言っとけ、派手にやる」

言うが早いか邸宅の一画、周囲の豪奢さに似合わぬ窓も飾りもない殺風景な箇所に向かうとハガネは迷わず居合を放った。切り裂かれ斜めにずり落ちる建物。

「は、派手にって依頼人ごと斬っちゃってたらどうするんですか!」
「ちゃんと避けて斬ってるっての!」

即座に納刀すると黒橙の騎士はその手を切断面に差し出す。元は部屋だった吹きっ晒しの場所に確かに人影がある。コクピットを開けて呼びかけるハガネ。

「急げ!悠長にしている暇はないぞ!」

しかし小柄な人影はうずくまったまま動かない。

(ショック死してないよな……)

流石に無茶したことを反省しつつコクピットハッチから自身の愛機の手を伝って部屋に侵入する。人影にマジマジ近寄ってみるとその正体は華奢な体つきの少年だった。

「おい、生きてるか?」
「い、いちおう」
「そいつはなにより」

決断的に少年を担ぎあげて自身の愛機へと舞い戻る。お姫様抱っこしたままシートにどっかり座り込んでハッチを閉鎖。

「今更だが依頼人であってるよな?」
「はい、本当に来てくれたんですね」
「おうとも!詐欺じゃなくて上々だな!」

その場から離れるべく振り返った黒橙の騎士を昼めいた明るさのサーチライトが照らす!その数10!

「その子は私の大事なゲスト、返していただこうか」
「白鳳の新型か、ガキ一人に大げさだな」

敷地が荒れる事もいとわず立ちはだかる白銀の騎士!ハガネは油断なく太刀を構える!応じるように吸血鬼を穿つが如き細い杭の剣を構える白銀の騎士!フルメタルドーンのコクピットに「ランスロット」と機体名が表示される!

「あの浮気者か!縁起でもねぇ!」

ハガネの一喝に先手を取って銀騎士が踏み込んでくる!深い踏み込みから刺突剣の切っ先を黒騎士に突き付ける!太刀の切っ先で逸らすも二度三度、と刺突が続く!大きくステップを踏んで回り込み様に太刀を振るうも相手もさる者、バックステップで距離を取り太刀の間合いから離れる!

「ちっ……そこらのサンシタとは訳が違うか」
「当然です、ボクが作ったんですから」
「何か弱点とかないんですか?」
「ありません!でも貴方なら勝てるでしょう?ハガネさん」
「簡単に言いやがって!」

途切れなく繰り出される銀騎士の刺突撃が黒騎士の装甲を削り火花を散らす!太刀で致命となる一撃こそ逸らし続けているもののこのままではジリ貧である!

「白旗あげちゃいます?」
「断じてノーだ!」

ハガネの視線が不安げな依頼人と交わる!不敵に笑うハガネ!

「このボンボンは個人的にもムカつくからな!」

黒騎士は身を獣めいて低め突貫!銀騎士の前へ踏み込む!

「愚かな、自ら負けに……ナニッ!?」

黒騎士は銀騎士の目前で手にした太刀を空高く投げ上げる!動揺するも反射的に刺突剣を突き出す銀騎士!だがしかしその刺突は黒騎士が突き出した左腕にまっすぐ突き刺さり人工筋肉に絡めとられる!

「今だっ!」

おお見よ!黒騎士が繰り出したるは伝説の俳優トシロウ・ミフネが実演した最速最短の居合である!腰の脇差を跳ね上げるように斬りあげ銀騎士の右腕を斬り飛ばせば返す刀で銀騎士の首を刎ねそこからさらに銀騎士の左腕も斬り落とす!

「な……一体何が……いやまだだ!私はまだ負けていない!」
「いいや、もう終わったぜ」

両腕を失ってなお抵抗せんともがく銀騎士にずぶり、と落ちてきた太刀が深々と突き刺さった。ダメージが限界を超え、光へと還る銀騎士。大地にぽつんと残されたのは白鳳の御曹司、その人であった。

「そんな、そんな一瞬で……?」
「いい線いってたぜ、アンタは。だが俺の勝ちだ」

ハガネの宣告に地を叩いて屈辱に震える御曹司。

「この……この私が初陣で敗れ、恋人も奪われるなどという屈辱……!」
「はい?」

御曹司の言葉に真顔で依頼人の顔を見るハガネ。

「違います!彼とボクはビジネスの関係止まりです!」
「……だそうだ、好きだからって監禁は良くないぜボンボン。犯罪だしな」
「くぅ……」

苦悶をこぼす御曹司に背を向け、豪邸から黒い騎士が離れていく。
顔を上げて見送る御曹司。

「必ず、必ず私は貴様を打倒してみせるぞ!」
「おうとも、登って来いよ。上にな。俺が生きてるうちは待っててやる」

黒騎士が宵闇に紛れて姿を消した後も、御曹司は屈辱に打ち震えたままだった。

ーーーーー

夜明け前の一番闇が濃い時間、ハガネの自宅にて。

「ボク、このままハガネさんの所でお世話になりますね?」
「はぁ?」
「だってほら、SAの調整するならチームじゃないですか」
「冗談じゃない、AIならまだしも生きた人間なんぞ……」
「パーツ購入費用に比べたら一人養うくらいはした金ですよ、マスター?」
「ぐぬぬ……おまえはそれでいいのか?」

ハガネの問いかけににこりと笑って答える少年……いや、少女。

「はい、ボクも自分の作ったパーツを使って実績残してくれるパートナーが欲しかったので」
「あのボンボンじゃダメだったのか」
「ダメです。彼の所だと他所への販売許可もらえませんしヤンデレですし……」

しおしおと言葉をつづるほどにトラウマが蘇るのかしおれていく少女。
その様子に根負けするハガネ。

「わかった、わかった。その代わりちゃんと生活費分は働いてもらうぞ!」
「はい!よろしくお願いします!」
「で、名前は?」
「あ、そうでした……カナメ、カナメって呼んでください」
「あいよ」

滞在許可を得るとよろこび勇んでパソコンをいじりだすカナメをよそにソファに横になるハガネ。時間が時間なのでねむいのだ。

「ねーマスター」
「なんだよ」
「冷静に考えたらマスター、女の子と一つ屋根の下暮らしになってません?」
「……せめて二部屋にシェアリングできるとこに移るかぁ……」

どうしてこうなった、と後先考えない自分の行動を反省しつつハガネは寝落ちするのであった。

【トイ・ドミネイター:終わり】

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