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しゃべるピアノ【410文字小説#note杯】

 ピアノの天才少女、ナナは演奏会に向かう途中で事故に遭い、短い生涯を閉じた。
双子の妹、アナの元にはバケツ百杯分の同情と慰めのメッセージが押し寄せた。そして少しの陰口も。
「本当はホッとしてるんじゃない?もう比べられることないもんね」

 同じ時期にピアノを始めたアナは、全く才能が無かった。ナナと連弾しても腕の差は歴然としていて、ナナは口では何も言わなかったけれど、失望が伝わってきた。

 ナナの死後、アナは再びピアノを弾き出した。ナナそっくりの弾き方で。彼女は言った。
「ピアノを弾くとナナが来てくれるの。私たち、弾きながらおしゃべりするの」
両親は青ざめ、周りの大人は“双子の奇跡”と持て囃した。

 アナはピアノを弾く。
『楽しいね』ナナが横から囁く。
「私たち、ずっと一緒だよ」アナは応える。
『ここは歌うように』ナナはアナの手を導く。
「私たちは2人でひとつだね」アナは笑う。

 アナはナナが大好きだ。もしかすると、生きている頃よりも。


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