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違法の冷蔵庫【#note杯】

「ビール飲んでいい?」
 花田が台所に行こうと立ち上がった時、青木はその腕を掴もうとして掴み損ね「おま、ちょい待て開けんな、冷蔵庫ヤバいから」と慌てて花田を追いかけた。
 花田は青木の慌てぶりを全くスルーで冷蔵庫に手をかけた。青木は喚く「マジでヤバいから、マジで、違法だからそれ」
 どうしてもビールが飲みたい花田はそのまま冷蔵庫を開けた。「何だこれビールどこだヤバいこれ青木!青木いいい」
「バカお前ヤバいって言ってんのにマジでおい花田!花田あああ」
「青木いいいい」
「花田ああああ」
 時すでに遅し。花田は冷蔵庫に吸い込まれ、青木がもう一度冷蔵庫を開けた時には姿を消していた。……そう、冷蔵庫は仮の姿。これは違法に改造されたタイムマシンだったのだ。

 江戸の街中。茶屋の店先で団子を頬張る、小汚い着物を着た男は花田だ。花田はゆっくり団子を食べ終わると茶をあおり、溜息をついた。
「はあ……ビール、飲みたかったなぁ」


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