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君に贈る火星の【#note杯】

 火星が地球に接近する年がきた。
 雲のない夜空には一面の星。千もの冷たい目が地上を見下ろしている。僕は丘の上に登り、墓の前に立った。
「2年2ヶ月ぶりだね」
 白い十字架に向かって話しかけた。抱えていた花束をその下に置く。

 だんだんと、この場所まで登るのがしんどくなっている。昔は軽々とここまで来ていたのに、今は時々、立ち止まって休む必要があった。自分だけが歳をとってゆく。

「やっと見つけたよ。ずっと見たがってただろ」
 僕はポケットから小さな包みを取り出した。包装紙を剥がすと、中から薄赤い光が溢れて、僕の手と顔を照らした。内に燃える火がチロチロ透かして見えるような美しい赤。小さな薔薇の花束をぎゅっと集めたような形をした石だ。

“火星の薔薇”

 希少な鉱石。彼女は『いつかはリスト』の筆頭に、火星の薔薇の実物を見ること、を挙げていた。
『いつか』が二度と来なくなる日が、すぐ傍に近づいているとも知らず。

「君に贈る、火星の……」


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