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ゲリラロウリュは突然に

8時半起床。
9時仕事。
夕方に終える。

最近の身体の不調は、パソコン作業による腱鞘炎と、肩や背中の痛みである。
パソコンを使っての仕事中は常に保冷剤で両手を冷やしている。
ケーキなどを買った時に付けてくれる保冷剤だ。
冷やすと痛みがやわらぐ、というか誤魔化せる。
本当は湿布とか貼った方がいいのかな。
数日パソコンを触らなければ自然と治りそうだけど、いつもパソコンは触るので治りにくい。

肩や背中の痛みはまあ、ずっとである。
慢性的な凝りで、それを治そうとストレッチをすると、次の日別の痛みになって現れる。
凝りの痛みにするか筋肉痛の痛みにするかの二択である。
筋肉痛の方が不快感は減るので毎日ストレッチや筋トレをする方が良い。
でもあまりしていない。
だから治らない。
しても治らない。

そんなこともあり(まったく関係ないけど)、先日お友達3人と埼玉の草加健康センターに行ってきた。
関東でも有名なところらしく、電車で片道90分ぐらいかけて行った。
最寄駅から無料の送迎バスが出ており、遠足気分で楽しく向かった。

夕方前ぐらいに到着したのだが、休日ということもあり館内は混んでいた。
下駄箱が満杯で、入り口の受付のスペースで少し待つことになった。
そのぶん期待も膨らむというものだ。

10分ぐらい待って受付を済ませ、ロッカーの鍵と館内着をもらっていざ浴場へ。
お友達は3人とも女性なので、待ち合わせ時間と場所を決めて、一人で男湯に入った。

事前の情報で、なにやらサウナのロウリュが有名らしいというのはわかっていた。
でもロウリュが行われる時間は決まっていて、その時間を狙って入ったわけではないので、まあ偶然その時間が重なればいいなと思っていた。

私はサウナは中級者ぐらいのノリである。
でもロウリュは未体験だ。
でも映像は何度か見たことがある。
タオルで熱風を送るアレだ。
熱波師という肩書きの人種が存在するらしい。

脱衣所で生まれたままの姿となりいざ浴場へ。
掛け湯をしながら見渡すと、屋内には色んな種類のお湯があり、シャワースペースも広く取られていてわくわくした。
奥の開け放しになった扉の向こうは露天風呂のスペースだった。

ジャグジー風呂とか電気風呂とか漢方の湯とかを横目に見ながらシャワースペースへと向かい、髪と身体を洗いながらサウナはどこだろうと探した。
屋内には見当たらず、他のお客さんの動きから、屋外のスペースにあるのだなとわかった。
身体を洗い終えて早速、露天に出る扉へと向かった。

露天スペース自体はそんなに広くなかった。
高い壁と塀に囲われた空間なので、それほど開放感もない。
壁沿いの椅子には、外気浴を楽しむ人の脱力した表情と肉体が所狭しと並んでいて少し滑稽だった。
やはり混雑はしている。

サウナは露天への扉を出てすぐ左手にあった。
早速入ってみる。
満員で入れない可能性もあるかなと思ったけど、大丈夫だった。
人はかなり多かったけど、それ以上にスペースが広い。
50人ぐらいは入れるんじゃないだろうか。
こんなに広いサウナは初めてだ。

そして、かなり暑い。(サウナは「熱い」と書くのだろうか)
利用人数が多いため回転率を上げる処置なのか、温度をかなり高めに設定してあるようだった。
こりゃあいいね、と思う。
好きですよそういう方が。

最低でも6分は居ようかなと決める。
そういえば水風呂はどこだっけ、屋内になかったから露天のどこかかなと考える。
前面のモニターにはTV番組が映っている。
芸人さんがロケをしている情報バラエティ番組だったが、なんの番組だったか、芸人さんが誰だったか覚えていない。

サウナのあと水風呂に30秒ぐらい入るのに、ちょうどいい自分の体温の具合を感覚で把握している。
やはり6分ぐらいでそれがやってきた。
結構限界に近い。
立ち上がり、分厚い木の扉を押して外に出る。

水風呂はやはり露天のスペースの奥にあった。
16度と表示されている。
いいね。かなり冷たい方ですよ。
桶で汗を流してから、全身浸かる。
一人じゃなかったら「ひゃはーっ!」と言って顔をしわくちゃにして耐えていたと思うけど、なにせ一人なもので、他にもお客さんが近くにいるので、全くの無表情でせいぜい「ふぅ」ぐらい言って内心で強く冷たさを我慢していた。

それから外気浴。
露天スペースの椅子は満席状態だったので、屋内に並べられている椅子に腰掛ける。
そして何も考えず、身体のどこにも力を入れずボーッとする。
体内を巡る血液を感じ、肌の表面と外気の温度差を感じる。
眠気は全くないのに、眠りにつく直前の気持ちよさが長く続いているような感覚。

過去に一度、サウナにも水風呂にも長く居すぎて、そのあとの外気浴で頭がグワングワンになった経験がある。
視界が勝手にぐるぐる回転して、目が回るほどだった。
それはそれで気持ちよかったのだが、それはもうギリギリ合法なだけの別の気持ちよさだなと思って、そうなる直前ぐらいまでの状態がベストだなと思った。
その状態に、この時なれた。
さすがは有名なサウナ施設である。

お客さんが増えてきた。
シャワースペースもほとんど満杯で、湯船も混み合っている。
サウナは何回か入ろうと思っていたが、まあ人も多いし、もういいかな、と思った。
あとは漢方の湯が気になるのでちょっと入って出ようと思った。

お湯の色も匂いも、おじいさんを連想させる漢方の湯に入って、なんか身体に良さそうと感じつつ、さてもう上がるかと思ったその時、威勢の良い声が聞こえてきた。
「ゲリラロウリュを行いまーす」と言っている。
施設のスタッフさんが声を張り上げている。
浴場内の高い天井によく響く声であった。

ゲリラロウリュ。
それは、本来予定したスケジュールとは外れた時間帯に、予告なしに突発的に行われるサプライズロウリュイベントである。
たぶん。
知らないけど。
休日で混んでる時とかに開催されるのだろう。

その声を聞いて裸の男たちがワラワラとサウナの扉の前に集まっていっている。
常連のお客さんからしたら、お、始まるか、という感じなのだろう。
初めてで何が何やらわからないのに、私も平静な態度を装いながら、内心ドキドキしながら男たちの群れに近づいてみた。
その間もスタッフさんの、「ゲリラロウリュを行いまーす」という呼びかけは続いている。
「3周行いまーす。まず1巡目、参加されたい方はサウナにお入りくださーい」と言っている。

ここでロウリュ初体験をするかどうか、一瞬迷った。
でもせっかくここまで来たし、女性陣との待ち合わせにもまだ時間はある。
私はそのままの勢いで、ワラワラとサウナのドアを潜っていく人たちについていくことにした。
50人ぐらい入るサウナ室が満杯の状態だった。

ちょうど一番奥の一番上、3段目の端っこが空いていたのでそこに座る。
室内全体を見渡せた。
薄暗くて茶色い室内に肌色の肉体が並んでいて、異様な光景だ。
ほとんどが20代から40代ぐらいの人で、お年寄りや子供はほぼいなかった。

全員が着席し、ドアが閉められる。
言葉を交わす人はおらず、静寂が訪れる。
もちろん室内はかなりの高温だ。
熱波師、と呼ばれる人が前面のTVモニターの前、サウナストーンの横に立って説明を始めた。
TV画面は消されている。

彼はまず、お客さんに対して来店の礼を述べ、自分の名を名乗って一礼した。
自然と拍手が湧き起こり、裸の男たちの間に一体感が生まれた。
それがなんか面白かった。
舞台とかライブを見に来たような感覚だ。
熱波師さんの名前はもう忘れてしまったが。

そしてこの施設でのロウリュの説明を始めたのだが、先ほどから熱波師さんの姿におかしな点があった。
何か緑色の機械を両手に抱えているのだ。
先端が円筒形に伸びている、大きなドライヤーのような機械だ。
まさかと思ったが、彼の説明によればやはり、この機械を使ってお客さんに熱風を送るようだった。

ブロワー、という機械だ。
たまに道路に散乱した落ち葉を吹き飛ばして隅に寄せる作業をしている清掃員の姿を目にする。
あの強風を起こす機械。
あれをここで使うのか。
思ってたロウリュじゃない。

その説明を聞いて、きっと私以外にも驚愕していた人はいたと思うが、誰もそんなリアクションは起こさない。
当たり前のように受け入れている人と、そのふりをしている人たち。
私はドキドキしてきて、暑さも相まって、自分の鼓動が早くなっていくのを感じた。

熱波師さんは説明をしながらサウナストーンに水をたっぷりかけて、室温を高めていく。
そしてブロワーのスイッチを入れて、まずは天井に向かって風を送る。
ブオーという大きな音がする。
上に溜まった高温がかき混ぜられて、もうこの段階で、今まで体感したことのない暑さになっていた。

一度ブロワーのスイッチ切り、熱波師さんは「これからお一人お一人に3秒間ずつこの風を当てていきます。かなり熱いので、本当に無理そうでしたら胸の前でバツ印をつくってください」と説明した。

おお、そんなに危険があるくらいのものなのか。
いや確かに、もうすでに限界ぐらい暑いのだ。
その中であんな強風を当てられたら、耐えられないかもしれない。
などと考えていたら、「では始めます」とすぐに1段目の端の人から爆風ロウリュが始まった。
熱波師さんは慣れている様子で、説明も態度も淡々としていて、なんだか不思議な頼もしさがある。

再びブオーという轟音が起こり、熱波師さんの「1、2、3!」「1、2、3!」という掛け声で、順番に3秒間ずつ熱風が当てられていく。
強い風が出る機械の先端を、裸でじっとしている人の間近に次々と向けていく。
すごい光景だ。
風を浴びる人の中には、ただじっとしている人もいれば、両手を万歳して風を浴びる人も多くいた。
あれが正しい形なのだろうか。
よくわからない。

1段目の人が終わり一度スイッチを切り、「では2段目の方いきまーす」とすぐにまた始める。
徐々に自分の番が近づいてくる緊張感に、胸が高鳴る。
バツ印を作って順番を抜かしてもらう人はいなかった。
自分も、やってもらうしかない。

そもそも、タオルだと思っていた。
よく映像で見るのは、タオルでばさばさ風を起こすやつだ。
それで高温の風に顔をしかめるタレントさんなどの姿を見てきた。
あれでも相当に熱いのだろう。
それがまさか、初めてのロウリュで、あんな機械が登場するなんて。
今の今まで予想だにしなかった。

3段目の端だったから、順番的に一番最後になるかもと思ったけど、一番最初だった。
頼もしい熱波師さんは「はい、では3段目の方いきまーす」と言って私にブロワーを向ける。
1mも無い距離から機械で風を当てられた。

夏場の暑い日に風が吹くと、本来は涼しく感じるはずだ。
ドライヤーのように、ブロワーから出る風が最初から熱いわけではない。
でもなぜか、その風は熱風というのに相応しい、私の肉体を焼くような風だった。
私は万歳はせず、少し姿勢を良くして腿の上の拳を握り、じっとして風を受けた。
「1、2、3!」とカウントされ、あっという間に熱風は私の隣の人に向けられた。

3秒以上は無理だった。
人の限界を熟知した、よくできたシステムだった。
素晴らしい。
素晴らしいのはわかった。
わかったから、早く出たい。

熱風を浴びた後、全員が終わるまでの時間をそのまま過ごさなくてはならない。
いや、そんなルールはなくて、いつサウナ室を出ても良いのだが、1、2段目の人で出ていく人がいないのである。
全員終わったらどうなるのか気になるが、私は早く出て、水風呂に直行したかった。

一人3秒で、私のあとに10人ぐらいいたから、たかだか30秒くらいか。
その30秒が長く感じられるほど暑さが限界だった。
それでもなんとか耐え、熱波師さんは「ではこれで以上になります、ありがとうございました」と短く挨拶して、また拍手が起こる。
サウナでの拍手はなんだか笑っちゃう。

拍手しながら立ち上がる人がいて、そのあとに続いて私も立ち上がって外に出た。
2巡目の人たちが扉の外で待機して並んでいた。
裸の男たちが密集している。

私はそのまま水風呂に直行したが、サウナ室に残っている人も半数ぐらいいたんじゃないかと思う。
そのまま爆風ロウリュの2巡目を浴びようというのか。
凄いメンタリティだ。
メンタルが強いのか、肉体が鈍感なのか、そういった性癖なのか。

まあとても我慢をすれば私もいけなくないと思ったが、とても我慢をする理由はないかと思った。
一度体験できてよかった。
今度タオルの熱波を浴びる機会があった時、どう感じるんだろうか。
ブロワーと比べて物足りない気持ちになるんだろうか。
それはそれで初体験の弊害であるような気もする。

水風呂のあと再び外気浴をしたが、一回目の方が気持ちよかったな、なんか。
なんなんだろうか、ロウリュって。
本当に身体に良いのだろうか。

アトラクションであったり、エンタメとして楽しんだ感じだ。
他のお客さんたちと同じ苦痛を体感して、痛みをみんなで乗り越える達成感みたいなところに価値があるのかもしれない。
あの灼熱の如き空間に響く、野生味あふれる男たちの拍手の音にこそ真価を見出すべきなのかもしれない。
そんなふうに思って、浴場を出た。

そのあと女性陣と合流して、食堂で食事をした。
ビールを飲んで、豚の生姜焼き定食を食べた。
とても美味しかった。
女湯の方ではゲリラロウリュは行われなかったと聞いて、少し優越感を覚えた。

そのあと雑魚寝スペースで雑魚寝をして、漫画コーナーで漫画読んで、みんなで電車に乗って帰った。
とても楽しくて有意義な一日だった。
サウナ室で聞いたあの拍手の音を忘れない。
同じだけど。
拍手の音なんて。

さて今日であるが、
仕事後は夕食を食べて、一人で晩酌して、パソコンを打っている。
noteに日記を書いている。
今だ。
そんな一日。
このあと歯を磨いて布団を敷いて寝る。
明日はお休みで、映画を観にいく予定。

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