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美容室と映画館

この前の休日に、やろうと思っていたことを2つやりました。
1つは美容室で散髪して髪を明るくすること。
もう1つは、ずっと公開を楽しみにしていた映画を観にいくことです。
両方達成できたので良かったのですが、どうも両方に心残りがあるので、それを日記として書いていきます。

その日は朝7時半に目覚めました。
美容室の予約は12時に取ってあったので、午前中は掃除をしたりのんびり本を読んだりYoutubeでお笑いの動画を見たりして過ごしました。
いま読んでいる本は深木章子さんの『殺意の構図』というミステリーです。
まだ4分の1ぐらいなんですけど、とっても面白いです。
元弁護士であるという経歴を生かして、法律に特化したミステリーを書くのが得意な作家さんです。
みきあきこ、と読みます。ふかきしょうこ、ではありません。

その日は午前中からお昼すぎまで小雨が降っていました。
出かける時までにやんだらいいなと思っていたんですけど、願いは届かず傘をさして出かけました。
僕はわりと人に自慢できるくらい晴れ男なんですけど、今日はその効果は発揮されませんでした。
自宅から歩いて20分ぐらいのところにある、初めて行く美容室に向かいました。

美容室って苦手です。特にスタッフさんとのやりとりが。
完全な偏見ですけど、美容師さんには僕と合わない性格の人が多いと思っています。
いや、今まで行ったところのスタッフさんが結構そうだったので、ちゃんとデータに基づいた上での偏見です。

ちょっとチャラい感じだったり、逆に無愛想だったり、上から目線だったりするスタッフさんに当たることが多くて、その度に、もうあそこには行かない、と決めてお店を転々としてきました。
あんまりちゃんと話せないし、でも話さないとちゃんとオーダーを伝えられないしで、コミュニケーションに困ってしまいがちなのです。

今日のところはどうかなとドキドキしながら傘を畳んでお店に入りました。
店内は綺麗で良いけど、スタッフさんもお客さんもやや多い印象で、ちょっとやだなと思いました。
他のお客さんと距離が近いのも嫌なんですよね。
髪を切ってもらっている間の、自分とスタッフさんの会話のやりとりを他のお客さんに聞かれちゃう感じが苦手です。
向いてないですよね、美容室が。

担当してくれる方に案内されて鏡の前の椅子に座りました。
右隣のお客さんはスタッフさんと楽しそうに大きな声で喋っています。
居心地の悪さを感じながらも、担当してくれる男性スタッフさんは良さそうな方だったので安心しました。
物腰が柔らかく、説明が丁寧な方でした。
今までの美容師さんで一番印象良いかもと思いました。

髪を今より結構明るくしたいというオーダーを伝えて、施術が始まりました。
こちらが人見知りであることも察してくれてるのか、そんなにペラペラ喋らず、でも髪型に関することは質問してきて、施術方法などをわかりやすく説明しながらチョキチョキ切っていってもらいました。
そのうち趣味とかプライベートな話までしていって、僕もそれに自然に受け答えして、心地よい時間を過ごせました。

途中、「このあとのご予定は?」と聞かれて「一人で映画を観にいきます」と答えました。
続けて「普段から映画よく観るんですか?」と聞かれて「そうですね、結構観ます」と答えました。
続けて「どこに観にいかれるんですか?」と聞かれて「今日は違うところなんですけど、一番よく行くのは〇〇(地名)の映画館です」と答えました。

さらに続けて「今日は何を観るんですか?」と聞かれて「たぶんご存知ないと思うんですけど、『ホモサピエンスの涙』っていうやつです」と答えると、「へ〜。僕こないだ『鬼滅の刃』を観ましたよ」と言われ、そこから鬼滅の刃の話をしばらくしました。
そんなに熱心なアニメファンではないけど、評判になってるし話のネタになるからと思って観たら泣けた、とのことでした。

僕は鬼滅は観ていないし、観るつもりもないけど「へ〜」とか「はぁ〜」とか相槌を打ちながら話を聞いていました。
とても感じのいいスタッフさんで、話してて心地よかったんですけど、それでもやっぱり美容師さんとの会話は、表面上だけの当たり障りのない内容になります。

そのあと本の話になって、僕が「ミステリーが好きです」と言うと好きな作家さんを聞かれました。
この質問に正直に答えるなら、貫井徳郎さんや野沢尚さん、綾辻行人さん、米澤穂信さん、道尾秀介さん、雫井脩介さん、などになるんですが、僕はちょっと考えて、「伊坂幸太郎さんですかね」と答えました。
好きな作家さんの中で一番有名かなと思ってそう答えたのですが、美容師さんは知っていたのか知らなかったのか、「あ〜」と頷いた後、また違う話をしました。

こういう時あまりマニアックなものは答えずに、相手も知っているものの名前を出したほうが良いと思って、自分の正直な答えを少し曲げちゃったりしちゃうんですけど、要らない気遣いなんですかね。
一番好きな映画を聞かれると、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』やジャック・タチの『ぼくの叔父さん』を答えたくなるところを「『ニュー・シネマ・パラダイス』ですかねぇ」などと答えてしまいます。
それも通じなかったりしますが。

伊坂幸太郎さんも大好きなので、別に曲げてるわけじゃないんですけどね。
『ニュー・シネマ・パラダイス』も最高に好きだし。

「ふかきしょうこさんです」とか言ってみたらどうなってたんですかね。
同じように「あ〜」と頷かれてたんでしょうか。

散髪が終わっていい感じに頭が軽くなり、シャンプーして流した後カラー剤を塗られました。
塗られながら、このあと観にいく映画は何時からか聞かれました。
「3時半からです」と答えてから、あ、時間を気にしてくれてるのかと思い、「あ、別に、間に合うと思うんで大丈夫ですよ」と笑って言いました。
そうしたら向こうも笑って、「いやいや、なるべく早く終わらせて、映画観る前に〇〇(地名)でブラブラできるようにしますよ」と得意げに言ってくださいました。

それはありがたかったのですが、僕がこのあと行くのはその地名の場所ではないんだよなぁと思いました。
さっきその地名を出したのは、自分が普段よく行く映画館がある場所であって、今日のところとは別なのです。
それを言う時「今日は違うところなんですけど、」って言ったはずなんですけど、聞いてなかったのか聞こえてなかったのか忘れちゃったのか、勘違いされたみたいです。
相手の勘違いを訂正するかどうか、迷いもせず僕は「あはは、それは助かります」みたいに返しました。
訂正しませんでした。
本当に会話を当たり障りない方向に流してしまいがちです。
気遣いではあるけど、少し心に、嘘をついたみたいな罪悪感が残りました。

このnoteの最初に書いた、「心残り」がそれなのかというと、違います。
ヘアカラーがあんまり明るくならなかったのです。
もっと明るくしたかったのに、これまでとあんまり変わってなくて、それが不満でした。
やっぱブリーチしないとダメなんだなぁ。
また近々染めに行こうと思います。

会計を終えてスタッフさんに見送られながら美容室を出ると、雨がやんでいました。
心の中で「ほらな」「何がほらななんだ」と言って、傘を畳んだまま半晴れ男は駅へと歩きました。

電車で15分ほどで映画館のある駅につきました。
上映時間まで余裕があったので近くの大きな本屋さんで時間を潰しました。
平日の雨上がりの昼下がり。
あまりお客さんの多くない静かで広い本屋さん。
良い休日だなぁ、って感じがして気分が穏やかになりました。
店内の鏡で新しい髪型の自分の姿を見て、ふむふむと唸ったりしました。

本屋さんでは何も買わず、そのまま時間が来て映画館に向かい、待望の『ホモサピエンスの涙』を観たのですが、心配していたことが起こりました。
上映中、少し寝てしまったのです。
なんてことでしょうか。

なんだか久々に平和で穏やかな休日を過ごせているなぁ、と本屋さんで感じてしまって、それと同時に眠気を覚え、これは上映中に寝ないようにしなきゃな、と思っていたのに、そのまんま予期していたことが起きてしまいました。

たしかに映画の内容自体が、眠気を誘うような内容なのです。
常にクラシック音楽が流れ、セリフも少なく、激しいアクションも全く起こらないような映画で、それが素晴らしいんですけど、それはやはり睡魔を呼び起こします。

期待していた映画だし、全ての要素をいっさい取りこぼさず集中して観ようと思っていたのに、中盤でたぶん10分ぐらい寝てしまいました。
なんてことでしょうか。
80分ぐらいの作品だったのに。
8分の1目蓋の裏を観てました。

これが2つ目の心残りです。
これはもう一度観に行くしかありません。
穏やかで気持ちの良い休日を過ごせたはずなのに、美容室も映画館も近日中にもう一度行くことになりそうです。

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