「僕は今日も違うカメラマンの男とデートをする⑨」 special by SHIMONO

僕は会社を辞めた。最後はあっけなくて上司も僕の目を見ないでコクリと頷く。「3chon.さんはそんな根性ない人だったなんてね。見損ないましたよ。」

上司の最後の言葉が心にキツく刻む。

最後の勤務を終え、玄関の扉をひらく。電気もつけずに、母はネットフリックスを見ながら、私の帰りを待っていた。「ただいま。」こっちを見て、すごい顔で私を睨む母親の姿はすごい。「勝手なことをしないでよ！本当に、あなたは恥知らずやわ！もう出て行きなさい！」そう言うと平手打ち２回。私の頬を叩いた。私は何も言わず、ただひたすらに涙を流す。このご時世、就職難なのに甘えだけで辞めてしまった自分を悔やんだ。毎日、一人が怖くて、苦しくて。１週間くらいは友人の家に行ったり、毎晩誰かと通話しないと眠れなかった。ご飯もお茶碗１杯が苦しい。そんな時、気になる男性がいた、そう今回はその男の話だ。

AM10:20

最寄りの深井駅のロータリーで待ち合わせ。

前夜、彼とはLINEを交換し、自分の苦しさを彼に打ち明けた。「初めましてなのにごめんなさいでも、貴方に会いたいです。もう母の顔が見たくなくて。一人がこんなに辛いだなんて。仕事、なんで辞めちゃったんだろう。もう死にたくて。」そう言うと「よっしゃ、会いましょう。僕はいいですよ。3chon.さんに会いたいし。僕と殴り合いしましょう。さぁ、元気出して！」とわざわざ、最寄り駅まで迎えにきてくれる、頼もしき白馬に乗った王子様のようだった。

やめた会社のすぐ近くのラブホテルにつき、スケベスリッパを二人で履いてソファーに座った。「そうそう、見てくださいよ。これ、いいっしょ。」そう言ってスタジャンを脱いで、僕にパーカーを見せてくれた。紛れもなく、僕が初めて作ったパーカーだった。「え、なんで？そんなダサいパーカーえええ・・」「やめてくださいよ！僕、パーカー好きで。これ見た時めっちゃイカすやんって思って買ったんです！もうめっちゃ愛用しててね！仕事場に着ていくんですよ」と彼の目はキラキラしていた。僕は涙を流すくらい嬉しくて、でも素直に「わー！嬉しい」と言えなかった。写真のモデルであるはざまちゃんには多少喜んでもらえたけど、「自分の顔のパーカーを着るのはちょっと恥ずかしいです・・」と少し不評だったし。彼女を責めることもない。「欲しい！」と言ってくれた人なんてない。もちろん、親にも。しかし、そのパーカーは、今目の前にいる大きな王子様が喜んで着てくれるのを見て、驚きだったから。

彼は、僕の王子様。彼はどうだろう？

フジフィルムの大きなカメラを持ったその青年は、僕を大きく見た。僕はカメラで撮られることが苦手だったが、僕は彼のカメラのレンズを見ることができた。彼はそっと僕を見つめてシャッターをきる。「思ってる以上に僕ら相思相愛だよ。もっと見て」と言っているようで。僕はこんなにも思うのに、君はどうだろうか。又あの大きなカメラで僕を撮りたいと思うだろうか。気にしすぎる性格はどんどん気持ちが増すばかり。

お風呂に湯をためて、一緒に湯船に浸かる。私はそっと今の気持ちを彼に伝えた。すると、彼は天井を見て僕に言った。「みんななるようになるんです。手段は自分が決める。自分でするんです。みんななるようにするから、きっとこの苦しいのが今だけなんです。僕だって、辛いことあるけど、もう元に戻らないこともあるけど、僕は僕でなるようにするんですよ。」と言った。彼に触れたかったけど、触れなくてもお湯の温度と彼の行動ですぐ何か大きな悩みがあることがわかった。

お風呂に入ったあと、彼とキスの写真を撮った。僕の中ではキスの写真を撮ることは一種の愛情表現で、それ以上の愛の形である。挿入も前戯も何もしていないただのキスの写真。写真の構図のヒントは僕の大好きな蛇の先生だったけど、先生がWEBでキスの写真を紹介した時、その人と一体化したいから撮っているというヒントで、「愛してる」とまではいかないけど、初対面だし。でも、僕は自分でするように、王子様と僕は一つになりたいと思ったから。きっとこれがセクハラカメラマンの気持ちとよく似ているかもしれないけど、セクハラカメラマンと言われても悔いはなかったかもしれない。でも意外にも彼は、「久々に、女の子とキスをしたような気がする。」その言葉だけが嬉しかった。

帰ったあと、写真をレタッチして写真を送ったら、「俺はこれかなぁ、ねっとりしてる。」とキスの写真がピックされていてびっくりした。彼は本当に粘液フェチなのかわからなかったけど、ピックされたことに喜びを感じ得た。

ねぇ、神様。もし、なるようになれるなら僕の辛い気持ちも、彼の苦しみも全部全部、年末のゴミとして出してもいいですか。いっぱい頑張るし、いっぱい働くし、いっぱい彼の幸せや僕の幸せを願うので。あ、でも神様？恋はしてもいいですよね。甘い恋は女の子の特権なので。ねぇ、いいでしょ？

5月の夜の月はあったかくて、熱い。

special thanks by SHIMONO

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