いつも心に。

何かを得るには何かを失わなければならない。

映画やアニメ等でよく聞く言葉だ。
物を手に入れるにはお金を払わねばならないし、お金を手に入れるには時間を労働に費やさねばならない。
その逆も然りだと私は考えている。

昨年の九月。落語家の三遊亭円楽師匠が亡くなられた。祖父母と共に「笑点」を観ているうちに、円楽師匠の社会に切り込む答えや、桂歌丸師匠や林家たい平師匠との軽快なやりとりなどに惹かれていき笑点メンバーで一番好きな存在となった。祖母と母親と地元のホールに落語を聴きに行ったこともある。
入院をされて「笑点」や落語の仕事を休まれたときも勿論心配した。テレビやネットニュースでリハビリをしている姿を見て、ゆっくりで構わないので必ず元気になってすみれ色の着物姿を見せてください、そう毎回願っていた。
しかし、私たちの願いや祈りは叶わず円楽師匠は旅立ってしまった。私は訃報を聞いた瞬間、心に穴が空いた。その穴からゆっくりと水が流れるように、涙がこぼれた。その日食べた夕食の味はおろか、献立すら覚えていない程だった。
二日後の日曜日。「笑点」は円楽師匠の特集をしていた。この日は彼の家にいた為、一緒に観ていた。三十分が経ち、ようやく私は死を受け入れることができた。

この日を機に、「笑点」に一切触れることの無かった彼も日曜日の午後五時半は私と一緒に観るようになった。本当は彼にも円楽師匠の活躍している姿を見せたかった。しかし、語弊があるかもしれないが亡くなられたことで、二人の楽しみが増えたのは確かだ。
円楽師匠は私たちの心の中にいる。
今までもこれからも私が一番好きな落語家は円楽師匠である。

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