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【ネタバレ】『pet』のオチが予想外ですごく良かった…!

『pet』をアニメから知って、原作漫画を読みました! アニメで興味を持った人は是非原作も読んでほしいと思います。アニメもOP•EDと第1話と声優さんの演技は予想以上に良かったですけどね。

記憶を操作して人を操る能力を活かして、会社と呼ばれる裏社会の組織で働く主人公たち。この作品では、“記憶”というものが人間を個人として成り立たせるとても大事な要素として描かれています。中でも、決して汚されてはならない良い記憶である“ヤマ”と、トラウマや弱点となり得る悪い記憶の“タニ”。この2つを壊されれば、人は簡単に廃人になってしまうのです。

私はずっと三宅乱丈さんを男性だと思っていました。でも、『pet』を観て、なんか違うぞと。アニメでいえば第2話からですが、女性が選びがちな要素が多いなときづいたんですね。

「2人きり」「ずっと一緒」「唯一特別な存在」…等々。2人の人間の強い繋がりを示すこういった語句は、主に女性が好んで用います。お互いさえいればそれでいいという、甘美な言葉ですよね。で、この辺で私はてっきり、この甘美さに読者を酔わせつつ裏切って、破滅型の物語が展開するのかと思ったわけです。

しかし、裏切りがあまりに予想以上すぎました

最初の犠牲は、会社の使いっ走りだった健治の“ヤマ”の書き換えでした。最悪だった出会いから、時間を重ねて親友とも呼べる腐れ縁になった横田との大事な記憶。それをよりによって、横田の仇である桂木で上書きしてしまうのです。大事な人との幸せな記憶も、仇への恨みすらも思い出すことができないという悲劇。

それを皮切りに、主要人物たちの記憶も弄られていきます。中でも、最強のはずの林がさっさと潰されたにはショックでした…。彼は司と悟という2人の主要人物にとって、唯一無二で特別な存在であり、物語の最大の切り札の筈だったからです。

そのように、大事な存在や関係を丁寧に構築しておいて、次々と壊していくというのが私にとっての最初の予想外でした。もっと甘美だと思ったのに…大事な唯一無二の相手となら破滅も怖くないーーくらいのバッドエンドかと思ったのに…!

しかし最大の予想外は、最後の最後にありました。

クライマックスまで、特別な関係の片方だけが徹底的に潰されます。何故こうなったのか、何が間違いだったのか。全てをなかったことにしたいと願う主人公ヒロキ。共に逃げ延びた悟に、今では苦しいだけの大事な記憶を何故消してくれなかったのかと詰め寄ります。

しかしそこで悟は、「それは助けにはならない」とヒロキに言い聞かせます。間違いは消すのではなく、償わなければならないと。これまでの全てがタニだったわけではなく、幸せなヤマだってあったのだから、安易になかったことにするのはそのヤマさえも否定する行為なのだからとーー…。

もうね、ここまで何もかも奪われておいて、何て前向きな結論を出すのかとね! 償うことと過去を肯定すること、どちらも疎かにせずに前に向かおうとする2人は、これまで間違いにされてしまった全ての人間を救おうとまで決意するのですよ! そうなると、若くて行動力もある2人が逃げ切ったというのはこれ以上ないラストです。

罪に対して死や消滅で許したりしないシビアさがあって、それを乗り越えて未来を繋ぐ希望もある。こんな全肯定のやり方があるとは思っていませんでした…。ここまで描ききるってとんでもないな! 三宅乱丈!

このテーマとアプローチの深さは、手塚治虫とか萩尾望都のレベルじゃないでしょうか(比べるって失礼かもしれませんが)。2000年以降でもこんな作品を描く人っているんだなあ。予想外!

リマスターエディションの後書きによると、ここまでで3部作の第2部にあたるとのこと。となると先がとても気になりますが、同作者の『イムリ』もどうやら同じテーマをさらに深く細密に描いているようです。こちらも既に話がまとめに入ってますね。

人間の尊厳はいともたやすく踏みにじられるし、それはあまりに当たり前すぎて多くの人は気づいてすらいないけれど、それでもそれは間違いなく償うべき大罪なのだ。というのが、三宅乱丈という漫画家の一生のテーマなのかなと思いました。

あとは、「おいていかれる」というのが何らかのトラウマなのかなあ…とも。これは他の作品も読むとわかるのかもしれません。

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