【成瀬は天下を取りにいく】変わり者のバイタリティ【小説】

◆成瀬という変わらない変わり者
 6つの短編集で主に描かれているのは、変わった行動をする成瀬という少女。島崎や大貫といった同級生から見た成瀬という少女は、たくさんの突飛な行動をとる人間だ。突然テレビに出たり、漫才したり、はたまた坊主にしたりと周りの目を気にして生きていた思春期の少女からすれば信じられない存在に映る。また、敬太というまったく関係のない男性にとってもテレビに映る姿だけでも印象に残っていた。
 そんな成瀬が周りから見てどんな人物かと描かれると同時に、成瀬によって周りの人物の内面で変わったことが描かれていく。
 成瀬の圧倒的な存在感とその日常は、するすると読みやすくさわやかな物語だった。
 また読み終わったときに、自分の学生時代にも成瀬ほどではないが似たような人物がいたのを思い出した。

◆成瀬の存在感
 成瀬は作中で、地方のテレビにシャボン玉少女として出たり、閉店するデパートに毎日通いつめたり、M-1に出ると言い出したり、坊主にしたり、声をかけてきた他県の生徒にすぐに観光案内をしたりしている。目立った行動以外にも、朝早く起きてランニングをして勉強を苦も無く続けて夜は早くに寝る。地元のイベントにも積極的に参加する。
 それでは成瀬はどれほどおかしな人間かと言えば、気になったことにまっすぐで、打算的な面もある。バイタリティが高くぶれない精神はかなり優秀な人間だが、何よりも周囲から変わり者だと思われている原因は、周りの目を気にしない点だろう。最後の短編で初めて島崎に対して迷惑だったのではないかと考えている。高校三年生になって初めてだ。
 島崎は初めのほうに距離が開いていたが、特に顕著なのは大貫の視点だ。島崎はちょっと距離を開けてしまったと自分が反省するかのような心境だったが、大貫はむしろ嫌っていた。ただしそれは、大貫が常に周りの目を気にしていたからで、周りから浮かないこと、いじめられないことを主軸にしていて主体性を持たない生き方を選んでいたからだ。ある意味嫉妬のような感情を抱えていたが、結局自分の小ささを知ることになった。
 成瀬自身は何かしてあげたということは何一つないし、とりあえずやってみたいことをやってみてるだけに過ぎない。それでも変わることのない変わり者の存在は、何かしらの影響を与えるし、何かしら返してあげたくなる魅力も持っている。他者から褒められたりすることが自覚はなくても成瀬を支える一つとなって、成瀬の行動と存在感はどんどん力を増して言っているように見えた。

◆近所のI君
 成瀬を見て思い出したのは、私の小中高と一緒で家も近かったI君。
 彼は小学生のころに漢検1級に合格して地元のテレビにスーパー小学生として出演したことがある。昔から祖父の影響で将棋をやっていて県大会で何度も優勝していた。
 中学生の時には将棋の団体戦に出たいということでチームメンバーになって出たこともある。彼は中学生で知的好奇心を発揮してか下ネタキャラを手に入れて一部男子の人気者になり、生徒会長に立候補して「朝読書の時間を廃止して学業に当てます」というぶっ飛んだ公約を掲げて、人当たりのいいイケメンに敗れた。
 大学は東京大学に進学して、そのころに現役東大生軍団として『Qさま!』に出演している。
 今名前を検索するとマイナビの記事が出てきて、地方の遊園地で会計の仕事をしているらしい。
 成瀬のようなつっけんどんな人間ではないが、小さいころから頭が良く、いろんなことにチャレンジするところ、興味にまっすぐなところが似ているように感じていた。やったことのある人なら分かると思うが、名前を検索して本人が出てくるのは正直珍しい。たぶん成瀬も名前を検索したらすぐにいろんな記事が出てくるんだろうなぁと思ってしまった。

◆バイタリティの高さ
 成瀬とI君に共通することでもあり、最近私が感じていることでもあるのだが、優秀な人は何よりバイタリティがあるなということ。
 たくさんのことに興味を持ってすぐに行動に移す。関心のあるところに動いて交流を持ち、関係が広がっていく。
 私のような人間は何をするにも体力を消費して休日にも横になっていることが多い。もっと気軽にフットワークが軽く動ければなぁと、ネガティブで出不精でインドアな自分を省みる。
 クイズノックの人たちは、ただ頭がいいだけではない。勉強や学習を面白いものととらえている。それ以外にも興味関心を持ったものに関して調べたり、足を運ぶということができる。行動力が勉強にも紐づいているから賢いのだ。
 勉強をさせるにはどうしたらいいか、子どもの才能を引き出すにはどうしたらいいか、という議題はよく聞くが、私はバイタリティを上げる方法はないか、というのを最近の研究としている。上げる生き方を知っている方は教えてください。

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