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月氷(げっひょう)

三鰭の月の光の帯が窓に架かっている
月の帯が出ているが暗い夜だ
少し楽だ
深海の蟹のように足が長くなっていく
高く上って行っているのだ
光の帯は四鰭となる
前の夜に
桜の花の枝と枝の間に
三角月が見えた
黒い夜空に嵌め込まれた桜の小窓
硝子と隔たれてなを
手も届かないのに親しみを感ずる
寄る辺なく
夜に交え

数日経つ頃には息苦しく
月が眠らせてくれない
よその烏の声に追い立てられるように
舞い戻る夜
月の光は橙橙色の灯りに見えなくなった
私は寒さに震えている
さみしさに繰り返して聞いている
ただ抱きとめてくれる胸を欲しかった事は
自分にはやはり許されない身の程知らずのこと

渇きを覚える
苛立ちを抑えるために
妬みを横目で踏みつけながら
渇きを認める

夏に聞くはずの氷の音

音だけを聞いて我に返る

渇きはまた放置され
氷角は溶けた

今でも暗い道を歩いている

それでも時々には
氷の乾いた高い音がして
ひとりの道の哀しさを知らせてくれる

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