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濮水春秋

霧だ

またあの夢

霧に呑み込まれる夢

黄帝の傍龍、応龍は霧を生じる

音もなく
水面を滑りゆく大きなる竜舸

霧に塞がれるが
輪郭は明確
船上の人の影か柱のシミか…
此の世の果ての海へ
何処へともなく…

普の国
施夷の台
平公の饗す歓迎の宴

ですから
あすこへゆきますと
必ずあの曲が聴こえてまいります
師延の迷う魂が歌っては
我が身と同じく聴かせた者の国を滅ぼすのです
亡国の歌と…、
師延は紂王に忠実でありましたゆえ
普の楽長師曠は最後まで弾く事を制したが
師涓は二晩かけて聴き弾き覚えたその曲を
終わりまで弾きたいと思った
普の平公が許したので弾き終えた

その国の者は
男も女も性に乱れ
千年の快楽にも
飽きることはないように思われました
そのような姿態で飲み食う様
つがい痴れたるものもの…
彼らは昼となく夜となく
友でした

人々を堕落させる淫靡な音楽
それは靡靡の楽と言った

師延は琴を抱いて濮水の水底で爪弾く

あるいはほとりに生ゆる水草の陰間で

亡国の歌は清商の調べ


師曠はよく音を聞き分け、吉凶を占うのに長けた
禍き事と諭しながら、平公にねだられるまま
靡靡の音階を披露してしまう
楽士とは修得した曲を奏でたいと思うもの
請われるまま知識をいにしえの引出しから…
それはやむを得ずと琴を弾く為にもうすでに袖口はまくられている

傾国の兆しの歌は清徴の調べ

ひとたびの琴で
黒い鶴が八羽ずつ二列をなし
南方より飛来す
見よ、楼門の上
もうひとたびの琴
鶴は列を組む
さらにひとたびの琴
鶴は頸を伸ばし鳴きる
いつの間にか宮商の楽が囃子となり
鶴の声は天にをも届く

黒鶴も
平公も
宴座の者は興奮していた

平公はさらにねだる

傾国の調べは清角に及ぶことなし

吉凶の果てはすでに…

泰山の頂
鬼神たちの黒だかり
黄帝、象牙の車に坐す
蛟・竜は六頭立て
木の精霊・畢方は車止めを挟みつつ調整
蚩尤は先鋒
風伯は道の塵を除く
雨師は道に水を撒き埃を鎮める
虎や狼は車の前を
鬼神は後方を従う
これまたかつて黄帝に
足のない騰蛇は空を飛ばずに地をのたうつ
鳳凰は空を覆うありさまの中
黄帝は清角の調べを奏でた

師曠は傾国の琴を爪弾く

黄帝には前後左右に顔があったという
地にあり
天にありて
全てを見通すか

普の平公が国の大地を枯らした後
靡靡の楽を進呈した衛の霊公これ如何に


おまけ


黄帝は言った

魃姫を喚べ

蚩尤との戦いが迫りくる


蚩尤
靡靡の楽においては仮にバンドマンとします
なんか太鼓のバチみたいなの持っているので
黄帝の太鼓貰ったんじゃないかな
蚩尤は個人的に再登場させたかったので
黄帝に敗れた後は戦いの神として
象牙で飾られた黄帝の車の先頭を護ったという
同じく共に戦い、黄帝に敗れた風伯は風の神として
道の塵を吹き払い
雨師は雨の神として道に水を撒き進む
鬼神を招ぶ際に泰山の頂きからは清角の曲が聴こえて来るという
徳薄き平公はこれを聴き
風雨に国は飛び
黄帝に追放された魃姫が喜び大旱魃をもたらした



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