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「ふたおもて」

ホールの電源スイッチを押したまま、ソファーに横になってしまった

いいや、起きるの面倒だし
人感知センサーだから一定時間過ぎると消える

今日は人のたくさんいる賑やかな所に行ってしまった
活気がある場所はいいと思う
暖かい湯気や煙、人がワイワイガヤガヤする
あまり耳障りな騒音じゃなければ

人恋しいこともあれば
煩わしい時もある
基本、隠れて暮らしたい

静かな所
自分の体と心が休まる
一人だけの場所があるなら
外界からは伝わってくる
さまざまな音や気配
踏みしだくのは人
そしてわたし

こんな季節だからだろうか

冬は家鳴りが多いな

決まって洗面所のほうから
あまり大きくはないけど
パタパタ、カタカタ系の音がする

日中、パキッ、ゴトッ、コンッコンッ、することもある

湿気のこもる浴室や水回りだし
後ろの土地の真下にある半地下だからだろうか

突然パッとホールの電気がついた

ビクッとした

家で飲み会をした時に言われた

誰も廊下にいないのに突然電気がついたって

幽霊がいるって

お風呂少し窓開けているんだ

 昔聞いたことがある

夜はトイレの窓は閉めたほうがいいって
親戚が神主に言われたって
うちはトイレも夜、少し開けたままだ

まあ、確かに風呂場の柵切られて誰か入って来たら怖いな
そんな馬鹿いるのかな、って思うけど
冬でも馬鹿はいるもんね
わたしは万年アホだけど

少しじっとホールのほう見る
また今夜に限って戸を開けっ放し
たまにやってるね
意識して閉めるようにしてるけど、がさつだからかな

誰か入って来る気配はない

しょっちゅう風呂場のスリッパが、片方床に落ちるけど

そのうちまた眠ってしまった

予感があった
具合が悪くなる予感
グワグワグワグワ頭の中が揺れて来た
脳梗塞?脳卒中?
また金縛り?
今日は肉食したからかな
なんか障ったのか
人に遭遇し過ぎた
スラスラ般若心経が出る
前ほどの苦しさではない

また意識が飛んだの

ふと見上げる
真っ黒い人が見下ろしている
真っ黒だけど頭髪や顔の輪郭
うちの人だ
手を伸ばして来て
わたしの左腕を引いてる
キスされるかと思ったけどちがうか
腕を引っ張って手に口づけられたのか
どうされたのか覚えていない

また記憶飛んだの

今度は浴槽に水が溜まる、それも激しい音がする

ホールの明かりがついている

ここからが夢なんだと思う


うちの人が横に立っていた
ホールのところ
ああ、勝手口の鍵開けて来たんだ
それにしてもすごい水音だった

わたしは風呂場を覗きにいく
濡れた長い髪の女
後ろ姿で両サイド
風呂に浸かっている
二人いた
二人?

顔は見えないし
年齢も変わってるけど
夢の中だから
変幻自在

あの女だってわかっていた
自分の息子が死んだの
わたしのせいだと逆怨みしてる
うちから曰く付きのシロモノを持ち出したりするからだ

うちの人
まさかあのババアとなにもなかったでしょうね
夢の中でかなり美化してやったから

そしてまた記憶飛んだの

やけに明るい賑やかな場所
知らない町
知らない人々
わたしはいつの間にか車に寝かされて
これからどうするのだろう

白い白衣の人がたくさんいた
カラフルな服の人もたくさんいた
なぜかみな、楽しそうだった
わたしは一人町に出た

後ろから来た子ども二人
横断歩道はあそこだよ
教えると笑って走り出した

車、一台もない道路
わたしは歩道を歩いて店を眺めていた

また記憶飛んだの

さっきの長い髪の女だ
可哀想にわたしの妹が番をしている
女は分裂しているから
二人いた
白いノースリーブのワンピース
黒いハイウエストのリボンベルト
ウェーブのロングヘア
前の女は不安定に揺れている
後ろの女はすっくりと立っていた
こんなにも
はっきりと分身が現れるものなの

白衣の男がわたしの前に立つ
親しみのある穏やかな笑顔だ

「一度で死にきれなかったあなたも、アレと同じですよ」

存在しないはずの双子を
演じて生きているってこと?

朝が来て
目覚めた
夢の中でわたしはまだその町にいるはず


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