見出し画像

なぜScrapbox推しなのか/FastDropの改造/トップダウンとボトムアップは同時に可能か/ゴルディロックス・タスク量

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/12/21 第532号

○「はじめに」

12月14日に発表された「まぐまぐ大賞2020」において、当メルマガがキャリアアップ部門第四位を受賞しました。

ぱちぱちぱちぱち〜〜〜。

10年続けてきて、初めての受賞ということでよろこびもひとしおです。

とは言え、このメルマガが読者さんのキャリアアップにどんな形で貢献できているのかは謎ではあります。役に立っていると良いのですが。

なんにせよ、引き続き当メルマガをよろしくお願いいたします。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャストが配信されております。

どちらも楽しく話しておりますので、よければお聴きください。それにしても、私が話す番組はどれも1時間サイズですね。

〜〜〜1writer〜〜〜

iPhoneでテキストファイルを操作するために、1writerというアプリを購入しました。

単純にDropboxのテキストファイルを編集するだけならば、Dropboxアプリでも十分なのですが、マークダウン記法の補助などもなく、ファイルブラウザとしても特段使いやすいわけではないので、とりあえずお試しとしてエディタアプリを導入したしだいです。

で、使い心地などはこれから確かめていくのですが、このアプリ一点だけ気になることがあります。それはアイコンが赤いのです。

私のiPhoneのホーム画面には青いアイコンのアプリばかりが並んでいるので目立ちます。悪目立ちしているくらいです。

とは言え、それくらい目を引くほうが、ちょっとした時間に──Twitterではなく──原稿ファイルを開こうという気持ちになるかもしれないので、その辺は運用して確かめていきましょう。

〜〜〜シン・Evernoteアカウント〜〜〜

バージョン10になったEvernote for Macの動作があまりにも重いので、「もう、Webブラウザ版でいいじゃん」と思い、しばらくMacからデスクトップのクライアントツールを消していたのですが、ふと思い立ってまっさらなアカウントを作り、そのアカウント用に再びEvernote for Macをインストールしました。

そうしたら、これがもう、びっくりするくらいにきびきび動いてくれます。私が使っていない間にアプリケーションの改善がものすごいスピードで行われた、というのでないかぎり、おそらくは新しいアカウントのノート数が少ないことが理由なのでしょう。かたや7万ノート、かたや7ノートですからね。

このことを逆から見れば、Evernoteを使い続けて7万にまで到達したら、どうしても動作のもたつきが出てきてしまう、ということになります。それは「すべてを保存する」ツールとしてはいただけない特徴です。

パソコンのメモリをがん積みすれば動作のもたつきは解消されるのかもしれませんが、それは汎用的な解決方法とはとても言えません。だったら、せいぜい1万程度に収めるEvernoteの運用法を考えていく方が現実的でしょう。来年はそれを考えていくことになりそうです。

〜〜〜かわせみ3〜〜〜

使用していた「かわせみ2」を「かわせみ3」にアップデートしました。

アップデートというか、「かわせみ3」を購入してインストールし、「かわせみ2」をアンインストールした、と表現するのが正しいでしょう。「かわせみ2」のユーザーは通常価格3,300円のところ、2,200円で購入できます。

日本語変換ソフトについてはながらくATOKを使ってきましたが、今年から「かわせみ」に宗旨替えし、そのままずっと続いています。

なんというか、買い切りツールは良いです。その時点での費用を検討すれば良いだけなので、サブスクリプションのようにややこしいことを考えなくても済みます。

もちろん経営的にはサブスクリプションの方が良いのでしょうが、だからこそ買い切りて提供してくれている「かわせみ」に好感を覚えてしまいます。ちなみに、軽くて多様なカスタマイズが可能なよいツールであることは付言しておきましょう。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

『背表紙の社会学』(水無田気流)

「本の背表紙をながめれば、あなたの暮らす社会が見えてくる!」と説明文にはあるのですが、表紙ではなく背表紙というのが面白い着眼点ですね。タイトルと著者名と色。このシンプルな三要素が、しかし本全体を表していることは間違いありません。さまざまな本から、社会に潜む問題を読み取っていく内容なのでしょう。

『読売新聞「シングルスタイル」編集長は、独身・ひとり暮らしのページをつくっています。』(森川暁子)

讀売新聞で連載されている「シングルスタイル」が書籍化されたもの。タイトル通り、独身やひとり暮らしについて綴ったエッセイのようです。

『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(宮崎伸治)

すごくネガティブな感情が喚起されるタイトルですが(私の職業のせいでしょう)、超売れっ子だった出版翻訳家が業界に失望し、足を洗うまでの軌跡が続かれたドキュメントのようです。「出版界の暗部に斬りこむ天国と地獄のドキュメント」というのがこわいものみたさを刺激しますね。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. Evernoteの総ノート数はどれくらいでしょうか?

ではメルマガ本編をスタートしましょう。

画像1

○「なぜScrapbox推しなのか」 #知的生産エッセイ

近年、リンクベースで情報を扱えるツールの数が増えています。Scrapboxを筆頭とし、Roam ResearchやObsidianも人気を獲得しつつあります。

私もそれらのツールは一通り試してみました。とても良いツールばかりです。ただし現状はScrapbox推しであり、もしScrapboxが消失してしまったらObsidianに移動するかな、という程度の移行の気持ちしかありません。

機能的に大きな差があるわけではなく、場合によってはObsidianの方が良いこともあります。たとえば、Obsidianはローカルベースなので、オフラインでも使えるといったメリットです。最近の私の「テキストファイル原理主義」な傾向を考えれば、むしろObsidian推しになってもおかしくありません。しかし、やっぱりScrapboxを使い続けています。

それはなぜなのでしょうか。

ごく小さい点でいえば、ブラケットの数に違いがあります。ObsidianやRoam Researchは内部リンクを作るためのブラケットが二つ必要ですが、Scrapboxはそれが一つで済みます。些細な違いではありますが、もし1万個の内部リンクを作るなら、1万回キーを打つ回数が違ってきます。馬鹿にならない違いです。

他にもScrapboxでは、リンクを書き足すだけで関連するページが下にずらっと表示されます。「関連するページを表示させる」というユーザー側の操作がまったく必要ありません。これも数千、数万のページを操作していくことを考えれば大きな違いとなります。

上記の二点は、「Scrapboxでは内部リンクが大切なのだ」という思想の実装的表れだと言えるでしょう。リンクを増やすことを重視していて、実際にその考えが実装上に現れているのです。

この点は存外に重要で、単に機能が便利なのではなく、ある使い方にフィットするように機能が調整されているので、今後新しく搭載される機能においても同じような期待を持つことができます。長く使い続けていく上では無視できない要素です。

■便利ではあるが

一方で、Obsidianならではの便利さもあります。たとえば、ウィンドウを分割して複数並べられるのは大きな魅力でしょう。デイリーページを表示させ、アウトラインを表示させ、メモを表示させる。そんな使い方ができます。

実際、これまでScrapboxを使っていて、「ええい、ページを分割表示できないものか」と願ったことが少なからずあります。Webブラウザを変えたり、拡張機能を使ったりして、その願いを疑似的に実現してきたこともあります。

ただ、そうした分割をどれくらい積極的に使ってきたかというと、実はそれほど多くありません。なんというか「わざわざ」感があるのです。ツールがそうした分割を前提に設計されていないので、ページを分割したところで新しく、便利な使い方ができるわけではありません。「やりたいこと」を実現するために、無理なことをやっている感じが強いのです。

もう一つ、Obsidianならではの強みは、情報がデータベースではなくmdファイルに保存されるので、プログラミングを用いた全体(ないしいは一部を抽出した集合)に対する自動的な操作が可能な点です。ファイル名を変更したり、全体に対して置換をかけたりできるのです。

ただ、そうした操作を自分のScrapboxに対して施したいかというと、そのような欲望はいまのところありません。できたら便利でしょうが、できなければ困るとまでは言えないのです。

そう考えると、Obsidianでなければならない理由は特に見つかりません。Scrapboxでいいならば、Scrapboxでも別に良いのです。

■でなければならない理由

とは言え、以上は消極的な理由に過ぎません。「Scrapboxでなければならない」と言えるほどの理由的強度を持っていないのです。しかし、私の心理的な状態は、「Scrapboxでなければならない」と評せるものです。この狭間を埋めるものはなんでしょうか。

どうやら三つ理由がありそうです。

まず一つは、オープン性です。Scrapboxは、オープンを歓迎しています。個人ユースならプライベートでもパブリックでも無料で使えますが、個人ユース外でもパブリックならば無料なのです。言い換えれば、パブリックでの公開が促進されています。

私もプライベートとパブリックの二つの個人プロジェクトを持っていますが、積極的に更新しているのはパブリックの方です。そちらの方がいろいろ楽しいのです。たとえば、「表示順」にページをソートしておけば、自分以外の人がページを「くって」くれる話は以前のメルマガにも書きました。ページへの反応がもらえるのも、当然パブリックな方だけです。

一方で、Obsidianは公開することはできますが、Obsidian Publicという有料のサービスを使う必要があります。Hugoなどの静的サイトジェネレーターを使えば無料での公開も可能ですが、それもまた「わざわざ」感があります。はじめからパブリックなScrapboxとはそもそもの出発点が違っています。

■微妙な検索の違い

二つ目の理由は、曖昧検索の許容です。

Obsidianでも、前方完全一致ではない形でページを検索してくれますが、Scrapboxは1文字くらいの誤字なら許容される検索が提供されています。つまり、許される曖昧さの度合いがScrapboxの方が大きいのです。

この機能の差によって、見つけられるノートの数は「多少」変わってくるでしょう。しかし。その多少の内訳は、片方の検索ではまず見つけられなかったものを見つけられる、という点で大きく異なっています。

人間そんなに正確にファイル名・ページ名を覚えているわけではありません。時間が経てば経つほどうろ覚え率は高まっていきます。その意味で、長く使うほど影響は大きく出てくると言えるでしょう。

これはObsidian以外を含めた他のデジタルツール全般とScrapboxとの差だとも言えます。

■VS Codeとの競合

最後の理由は、かなり個人的なものです。

Obsidianが持つ特徴の多くは、VS Codeで実現可能です。mdファイルの扱いも、ウィンドウの分割も、難なくこなせます。ターミナルが併設されているので、スクリプトの実行も容易です。そう考えると、VS Codeをメインで使っている私にとって、Obsidianを利用したくなる理由は特にありません。機能の多くが重複するからです。

一方で、ScrapboxはVS Codeにはない機能を提供してくれています。特に、小さい情報単位を扱い、パブリックに公開する、といった点ははるかに優れています。言い換えれば、VS Codeと機能的分担をこなすのは、ObsidianではなくScrapboxなのです。

たとえば、Scrapboxで新規ページを作成してみてください。ページの高さは、情報カードというよりもむしろ付箋に近いくらいの幅になっています。いかにも「記入する量は少なくて大丈夫です」というアフォーダンスを生んでいます。だからこそ、ちょっとしたことを書きやすいのです。

しかし、ObsidianやVS Codeは「ファイル」を開くので、ウィンドウサイズいっぱいが入力スペースとして待機しています。メモ帳ではなく、コピー用紙のような感じです。

もちろん、それぞれ役割と特徴がありどちらが優れているとは言えませんが、だからこそ両方を手にしておきたいものです。一方、VS CodeとObsidianでは、共に同じものになってしまうので、片方しか手に入らないのです。

だからこそ、ObsidianではなくScrapboxを使いたいのです。

■さいごに

Scrapboxは、非目的な情報を断片的に記述し、それらの内容と個々のネットワークを常に作り替えていくことに適したツールです。Roam Researchはもっと目的的になりますし、Obsidianではサイズが少し大きくなりがちです。その辺が、私の中で「微妙に違う」と感じてしまう理由なのでしょう。

Scrapboxを使い始めたときは「あれもできたらいい、これもできたらいい」と機能的な欲求がたくさんありましたが、最近ではほどんど消失しました。最低限必要なものは、もう十分実装されています。あとは、このツール上で私がどんな知的営為を行っていくか。それが真なる課題でしょう。

ここから先は

7,776字 / 4画像 / 1ファイル

¥ 180

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?