領収書ブルース

新社会人として働いていた職場は販売店だった為、領収書を発行することがあった。

それまでろくにバイト経験もなかった甘ったれ人間だったので、その職場で初めて書き方を教わった。
「ここに金額を書いて、宛名と但書を聞いて、それから日付も忘れないようにね」
「分かりました」

ある時、サラリーマン風の男性が商品券を購入した。
「領収ください」
「かしこまりました」
領収書を取り出してペンを構える。
「お宛名は何になさいますか」
「(株)で、〇〇〇」
「かしこまりました」

聞いた通り、ゆっくり丁寧に「まえかぶ」と書いたら、横にいた先輩に領収書を引ったくられた。
私がとぼけた宛名を書く間、男性は無言で「まえかぶ」を見つめていた。

かくして、先輩が書いた領収書を手に、男性は帰って行った。

それから転職すること三回、今の職場もやはり販売店。すっかり手慣れた領収書を書きながら、ふと思い出す若かりし失敗である。

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