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『ひとの気持ちが聴こえたら』レビュー

表紙

『ひとの気持ちが聴こえたら』
  私のアスペルガー治療記

ジョン・エルダー・ロビンソン(著)
高橋知子(訳)

📚

アスペルガー症候群のジョン・ロビンソンさんは他人の表情、感情が読めない人でした。
もちろん、自分自身には感情があるし、他人にもあるのだろう、とは思っていても、はっきりと「言葉」で語られていない他人ひとの感情は読み取ることができず、いつも他人からは人の気持ちがわからないやつ、無神経なやつと思われていました。
それでも、他人にそう思われていることが本人にはわからないのでノー問題。悩むことはあっても社会生活をちゃんと行っています。
若いころは楽器の音を細かく聞き分けることのできるオーディオ・エンジニアとして、その後は、(人の気持ちはわからなくても)機械の気持ち(状態?)を一目で見抜く腕利きのエンジニアとして自動車整備の専門家として成功します。

そんな彼の元に、脳の表層の一部に電磁パルスを与えて刺激するという、新しいアスペルガーの治療法、経頭蓋電磁気刺激TМSの治験のお誘いがやって来ます。

脳に電気刺激!? というと脳全体に電気ショックを与える野蛮なアレを想像して怖くなってしまいますが、何しろエンジニアなジョンさんは、理屈で考え、狙ったところにピンポイントで刺激を与えられるこの治療法は、へたな精神治療薬を飲むよりも効果的であろうと判断し、治験に参加することにしました。

私からすれば、精神治療薬の服用は、オイル警告灯が点灯している車の車体にオイルをあびせるようなものだ。いくらかはエンジンの中に流れ込むだろうが、車が手に負えない状態になるだけだ。

本文より。とっても自動車エンジニアっぽい考え

な、なるほど、たしかに。
(最近はドラッグ・デリバリー・システムとかいって体内患部に直接とどく仕組みのお薬も開発されてきてはいますが、脳みその中に薬効成分を届けるのはまだまだ難しいようです)

そして、実際にそのTМS治療を受けた結果、劇的な変化が彼に訪れます。

実験をおこなった研究室からの帰り道、カーステレオを再生すると、低音質なその音から、何の前触れもなく突然に、エンジニアとして立ち会っていた録音当時のスタジオの風景やミュージシャンの息遣いなどが鮮明に呼び起されます。当時は音の波形や楽器の調子などを聞き分けていただけ(というのもすごいけど)のハズなのに、メロディや歌詞の意味、そこに乗る感情の深さなどが一気に彼の心の押し寄せ、生まれて初めて、音楽を感じ、思わず滂沱していたそうです。

※そういう可能性のある人に車を運転させて返すのはどうかとおもいますがw

もう、まじでこれ、リアル『アルジャーノンに花束を』です。

いままで読み取れなかった人の感情を読み取り、感じることができるように突然なってしまったジョンさん。ただの文字の並びだった文章(新聞の記事とか)からも書き手や登場人物の感情をつぶさに感じ取れるようになってしまい、生活は当然のように変化していきます。彼の回りの環境は当初そのままでしたが、受け方が変われば当然、周りも変わっていこうというものです。

さて、ダニエル・キイスの書いたSFの名作『アルジャーノンに花束を』同様、彼に起こった奇跡は、悲劇的な結末を迎えてしまうのでしょうか。
そのあたり、とっても気になるところですが、ここではネタバレになるのでやめておきます。気になる方はぜひ本書を読んでみてくださいまし。

アルジャーノンはSFでしたけど、驚くべきこことにこれ、現実のお話なんですよねぇ。



追記:

↑の文中にある「野蛮なアレ」は supa さんのレビュー

をご参照のこと。
この、『ひとの気持ちが聴こえたら』も、supa さんのおすすめで読んで見ましたです。おもしろ興味深かった!!



#ジョン・エルダー・ロビンソン #高橋知子 #らせんの本棚

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