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試し読みサンプル:『はしょれメロス』

第88話『はしょれメロス』


メロスは激怒した。
メロスは全裸であった。

…。
……。

やばい。

メロスは後悔した。さすがにはしょりすぎたと感じた。
これではただの怪しい人物ではないか。

愛と友情と信義のため、なんとしてもはしょらねばならぬと、竹馬の友セリヌンティウスに、かの暴君ディオニスに誓った約束であったが、ここまではしょって良いものか。

メロスには文法がわからぬ。
メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。

話は得意でなくとも、誠意をこめ言葉をつくせば通ずると信じて今まで生きてきた。
そんなメロスに対してはしょれとは、神も太宰もないものか。
いくらなんでもこれはないと、異議申すべくメロスは王の元へ走った。

「なにごとだ、遅れて来いとは言ったが、こんなにすぐに戻ってくるとは。まだはりつけの準備もできておらぬぞ」
友も不思議そうに問うた「妹の結婚式はどうしたのだ。もう終わったのか?」

メロスは愕然とした。

「しまった、そこをはしょってしまった。私はやはり省略は苦手だ」

「何を言うのだ」

王と善き友は声を合わせて言った。

「服まで見事に省略しているではないか」

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マストドン・500文字劇場より

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