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『ライトニング・メアリ 竜を発掘した少女』レビュー

『ライトニング・メアリ 竜を発掘した少女』

アンシア・シモンズ(著/文) 布施 由紀子(訳) カシワイ(絵)

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19世紀初頭、まだ人々は信仰と科学の折り合いがつけられず、ごく一部の科学者以外のほとんどの人は聖書に書かれていることだけが本当で、すべての動物はそのままの姿で神様によって作り出されたと信じられていた時代。
土の中からたまに現れる奇妙な形の石=化石は、あるわけのない異物。または、「神様の失敗作」と言われていました。
イギリス南西部ドーセット州の小さな町、ライム・リージス近くの海岸には巨大な断崖があり、その崖の地層からはそんな奇妙な石が多く出土するため、たまにやってくる金持ちの観光客に石を売ることで、貧しい人々はやっとその糊口をしのいでいました。

その貧しい人々の中に生まれたメアリ・アニングは、ちょっと変わった女の子。赤ちゃんのころに落雷にあい、(抱っこしていた人たちは焼け死んでしまったのに)奇跡的に生還したという強運の持ち主です。
普通の女子が大好きなひらひらした服やおしゃべりにはまったく興味がなく、父に教わった「珍しい石」探しに夢中。宝が埋まっているのに宝探ししないなんてどうかしている。というわけ。
父親いわく(雷に打たれたので)『ライトニング・メアリ』。
その呼び名の通り電光のように正しいことを一瞬に見抜く力や、曲がったことができず、嘘が言えず、頑固で怒りっぽく周りに合わせられない性格のせいで、皆からは女の子らしい心を雷に持っていかれてしまったなんて陰口をたたかれています。

イラストがかわいい☆

なかなかきついストレンジな娘なのですが、好きなこと(化石掘り)以外には興味どころかまったく価値を認めないその生き方はとてもとても好感が持てますw

そんな少女が、数々の不幸と赤貧の境遇の中を生きぬき、わずか12歳にして世界で初めて魚竜=イクチオサウルスの全身骨格化石を発見・発掘するという快挙を成し遂げる物語です。

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彼女が生まれたのは1799年、イクチオサウルスの発見~発掘は1810~1811年、(今から200年以上まえ)まだ科学は上流階級のごく一部の趣味の世界。奴隷は解放されておらず、女性は参政権どころか発言権もろくになかった時代です。

↑詳しくはこちらに。このNATURE誌が刊行されるさらに半世紀前の話ですから、どれだけ女性の地位が低かったのか、科学という考え方が一般化していなかったのかがわかろうというものです。

※ダーウィンの『種の起源』は1859年ですからね!

そんな時代に12歳の女の子が世界初の科学的な大発見をしたなんて! よっぽどセンセーショナルだったのでは? と思ってしまうわけですが、残念ながら、彼女をよく知る一部の人々以外、その名と業績は知られることがなかったそうです。
なにしろ、博物館に展示されたイクチオサウルスの銘は、全身を発掘したメアリではなく、(頭を発見したというだけで)彼女の弟の名にされてしまったのですから……。
その後も数々の発見をした彼女ですが、発見者として名を残したのは彼女から化石を売ってもらった貴族(の男性)たちばかりなのだそうです。

それだけ、貧乏人が、女性が、何かを成し遂げることがありえない時代だったのですね><

けれど、私には、世間の評価や数々の不幸も関係なく、ただひたむきに、決然と、自分の信じた道をひたすらつきすすみ、なぜこんなものが埋まっているのか、理由を知りたい。と、今で言う科学的探究心に突き動かされていく少女の姿はとてもカッコよく見えました。

彼女の発見や知見によって、地球の生き物は「そのままの形で神様に作られた」のではなく、種が生まれては絶滅していったことがわかり、進化論の礎となり、科学の発展に大いに役立ったわけです。

リケジョなんて言葉が生まれる200年以上前の、自然科学界の大大大先輩の少女の物語。もう当時の記録はほとんど残っていないので、語りなどは著者のアンシア・シモンズさんの創作ですが、もちろん史実を元にしていて、きっとこんな女の子だったのだろうなあと、ありありと目の前に浮かんできます。

※イメージを補完してくれるカシワイさんのイラストもすてきにカワイイのです♡

化石や自然科学の歴史に興味ある人はもちろん、そうでない人にもぜひ読んでほしい、科学史の裏側に確かに存在したある少女の戦い物語です。ぐっときますよー☆

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