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『風の靴』レビュー

表紙

『風の靴』
朽木 祥 (著)

⛵⛵

ワタクシ的に夏休みに少年少女に読んでほしい児童文学の金字塔と言えばアーサー・ランサムのランサム・サーガなのですが、けっこう前の話だしイングランド湖水地方にあんまり馴染みがなさそうな日本の子供たちには(ワタクシの場合はランサム読んであこがれたクチですが)なかなか縁遠いのも事実。
夏休みに読んで読んでーって暑苦しくすすめても無理強いはよくないし、嫌がられて印象悪くなっちゃってもなあ。なんて思いつつ廻りを見回してみたら、あった! ありましたよ!
現代の、日本の、国産のお話が!!

それがこの、『風の靴』です。

生まれたころから出来すぎの兄と比較され、胸にもやもやと重いものを抱えている少年が主人公。
彼の学校の成績はイマイチでも、野鳥の観察や海でヨットを操るのは得意。(そう! ヨットのお話です!)、操船や海のイロハを教えてくれたおじいさんと海に出るのはいつもサイコーの気分なのでした。
しかし、苦手な勉強に集中できなかった少年は大事な中学受験に失敗してしまいます。
兄と同じ高校へ通うためには、これから中学の三年間をまるまる勉強づけにする必要があり、もちろん夏休みは海よりも勉強を優先しなくてはなりません。そんなサイテーの気分になっていた時に、あの、大好きだったおじいさんの突然の訃報が。
サイテーよりサイアクな日々の到来。これからの人生に絶望しか感じられなくなった少年は、とうとう『家出』を決意します。
愛犬と、親友と、親友の妹とともに、おじいさんとの思い出のA級ディンギー(小型のヨットね)ウィンド・シーカー号を駆って……。

という感じのお話。

まあ言っちゃえば普通のひと夏の少年の冒険譚なのですが、この「普通感」がとても良いです。舞台は鎌倉から三浦半島の海。当然異世界も魔法もでてこない普通の舞台で、ごく普通の中学一年生が立ち向かう冒険。この「ありそうな現実感」はファンタジー物を受け付けない現実的な子でもするっと読めそう。

家出のために装備をそろえるところにサングラスや日焼け止め(SPF50)が入っているところがとっても今風リアリティ!
もちろん天気だけでなく風や潮のチェックもわすれません。
もうこのあたりから、たんに子供っぽい衝動ではなく、危険をちゃんと理解して冒険に挑む姿勢がワタクシなんぞにはグッときちゃいますw
最初にあげたランサムはもちろん、『十五少年漂流記』や『冒険手帳』を読み込んでるらしい子どもたちの冒険に、もう残念ながら大人になっちゃったワタクシもドキドキしっぱなしなのです。

これは海辺に住んでる子どもたちはもちろん、そうでない地方の子たちにも絶対読んでほしいなあ。このワクドキを、少年少女時代に味わってほしいわー。なんてのは大人のエゴかもなのですがー。
(ちなみにワタクシは海のない地方で育ったもので、読んでてずっと「いいなあぁあ~」ってうらやましくてたまりませんでしたw)

そして、物語の余韻を味わいながら本を閉じるところ。なんと解説にランサムサーガの翻訳者であらせられる神宮輝夫さんが登場しちゃうなんて、スレた大人向けのサプライズもあり!w
これは子供だけじゃなくて、大人も! 海洋国家(だったはずの!)日本人すべてに読んでほしい冒険物語です!!
(もちろん、ランサムを和訳して読んでいるように、他の国語に翻訳して他国の子供たちのリアリティある冒険物語として全人類で共有してもいいんじゃないかな!?)



 

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