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『読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」』レビュー

表紙

『読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」』

カート・ヴォネガット (著), スザンヌ・マッコーネル (著), 金原瑞人 (翻訳), 石田文子 (翻訳)

📚

去年って、カート・ヴォネガットの生誕100年だったのですね。この本を見るまでピンときてませんでした。

↑このレビューを書いてから、近所のブック〇フから『猫のゆりかご』がいなくなり、100円で投げ売りされていた『スローターハウス5』や『タイタンの妖女』あたりの古本に650円の値札が付いているのを見つけたもので。てっきりこれはワタシのおかげかと密かに悦に入っていたのですのに、やっぱしそんなわけではなかったようです。ちぇー(ヾノ・∀・`)ナイナイ
普通にキャンペーンしてたみたいですねぇ><

さて、この本は、カート・ヴォネガットの教え子であり、友人であり、自身も作家であるスザンヌ・マッコーネルさんが、ヴォネガットから学んだ「書くこと」についての考えやアドバイス、そして彼独自の見解や哲学などなどを思い出とともにまとめた一冊です。
実際の授業の風景だけでなく、独特なユーモアや風刺で知られる彼のエッセイや講演、著作からのの収録も多く、その都度、カートが(きっと)あの時何を悩み、何を考えて、なぜこのような書き方になったのか、という心象と苦悩の情景が理解できるような構成になっています。
これは、カート・ヴォネガット流の「書き方指南書」だけでなく、カート・ヴォネガットの教え子で大ファンから見た彼の人生の回顧録としても、伝記としても読めるようになっています。

カート・ヴォネガットと言えば、(わたしにとっては)前述の『猫のゆりかご』なんですが、その後書かれた『スローターハウス5』が世間的には傑作とされています。
その『スローターハウス5』は、実際にヴォネガットが第二次世界大戦従軍中に体験した悲劇、ドレスデン大空爆による壊滅がテーマになっています。
当時から物書きであったヴォネガットは、帰国後すぐにその惨劇を本にしようとするのです、が、まったく書くことができなかったそうです。
あの悲劇の体験を、どう文にしていいのか、悩み続け、結局形にするまでに23年という年月と、『猫のゆりかご』を含む幾多の名作の執筆が必要だったのでした。
カート曰く、「書くことは魂を成長させる」そうなので、大作家の魂にもそれだけの成長が必要だったということでしょう。

ちなみに、私があんまり『スローターハウス5』推しじゃなかったのは、戦争ものコワイってのもありますが、小さいころ読んだとき、さっぱりわけがわからずちんぷんかんぷんだったからなのです><
(いったい何だよ「そういうものだ」って!><)
きっと当時はまだ魂が成長できてなかったんでしょうねー><

カート・ヴォネガットまたまた曰く

辛抱

僕が昔、
シティ・カレッジで文芸創作を教えていた女性が、
こんな告白をした。
いかにも恥じ入ったように、
まるでそのせいで本物の作家になれないというように、
私、死んだ人を見たことがないんです。
僕は彼女の肩に手を置いて、
こういった。
「人間、辛抱が肝心だ」

書くことが好きで作家になりたいけれど、
これまであまりたいした出来事を経験したことが無い人への
カートのアドバイス

とのことなので、辛抱が肝心だったのかもかもしれません。(そういうものだ)

※なお「そういうものだ(So it goes.)」は、『スローターハウス5』で、直接的な死や死を連想される言葉にが現れると即座に追記される語句で、スローターハウス5一冊の中にアバウト100回も登場するそうです。

↑何回出てきたか数えた人のブログ(いまならデジタル化でかんたんに数えられそうw)

そして、当時このように表現するしかなかったカート・ヴォネガットの精神を知った今は、改めて読むのがコワイ本だったりします><

本書にはこの、カート・ヴォネガットが歩んだ23年間の苦悩と、作家的な(魂の?)成長、そしてその前段階の子供時代からの出来事たち、『スローターハウス5』以後の晩年の出来事なども、よくまあこれだけあつめたものねと感心するぐらい大量のエピソードがまとめ上げられています。
編集の妙で、まるでカート・ヴォネガット本人が書いているような錯覚にも陥ります。(じっさい多くの部分は本人が書いた文章ではあります)
最初にカート・ヴォネガット「大ファン」が書いたって書きましたけど、「マニア」が書いたと言い換えたほうがよさそうかも?(もちろん褒め言葉ですヨ)

そんな、大ファンでありマニアのスザンヌ・マッコーネルさんの目から見た、愛すべき、皮肉屋で、ユーモアたっぷりのおじいちゃん、カート・ヴォネガットの人生の回顧録。そして、作家を目指すおろかものたちへの大先輩からの愛情こもったアドバイスも多々大量に収録されています。大先輩からのエールを胸に(めちゃくちゃ苦しい茨の道だぞとも書かれてますがw)これからも頑張ろうと、そんな気にさせてくれる一冊でした。

きっとまた何度も読み直すことになる本だと思います。

📚


追記:

版元の、フィルムアート社さんのWebページに

「はじめに」の試し読みがありました

また、円城塔さんによる書評まで!!

コレは必読です!!


#カート・ヴォネガット #スザンヌ・マッコーネル #金原瑞人 #石田文子 #らせんの本棚 #文芸創作

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