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『海王星市から来た男/縹渺譚』レビュー

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『海王星市(ポセイドニア)から来た男 / 縹渺譚(へをべをたむ)』

今日泊亜蘭(著)/日下三蔵(編)

最近ハマっている。とっても古くてとっても新しい、今日泊亜蘭さんの中・短編集です。やたら厚い本だとおもったら、もともと二冊だった本を合体させて一冊にしたとのこと。中編はもちろん、短編にしてもさすがに内容が濃い濃いw
どのお話もとっても浸れる読み応え十分な本でした。

兎に角、これまたさすがに在野(野良)の言語学者だったという今日泊先生の博覧強記ッぷり。その言ノ葉の数々がもうすごいのなんの。

まずは、ざざっと収録作順に一言紹介してみます。
(140文字にまとめるの難しそうだから個別ポストはやめましたw)

『ムムシュ王の墓』
クフ王よりも千年ほど前のエジプト王朝揺籃期に建立されたムムシュ王の陵墓。その墓、何人たりとも暴くこと能わず。墓荒らしだろうが調査隊だろうが近づく者は謎の呪いによってすべて亡き者にされてしまうという。そんな恐ろしいエジプト古代の亡霊王に、なんと日本の宮様が科学で挑むお話。もしやホラーかとおもったらガンガンSFしてきますw

『奇妙な戦争』
『光の塔』のショートバージョン? かと思いきや、自己パロディ風のとても奇妙な戦争。セルフパロに今日泊さんご自身らしきSF作家も、考えようによってはとても重大な役で出てきますw

『海王星市(ポセイドニア)から来た男』
表題作、「水」そのものがモンスター化して人類を襲う。あらゆる有機物・動物・人々はその敵性の水に同化されてしまうし、物理攻撃も効かない。そんな相手とどう戦争をするのか。という、これまた『光の塔』を思わせる戦争パニック物。

『綺幻燈玻璃繪噺(きねおらまびいどろゑばなし)』
これはすごい。全編にわたる今日泊節! 江戸弁の嵐!!
時は日清戦争の直後、急速に文明化がすすむ東京の日本橋、洋行帰りの伯爵さまがメリケン国はエヂスン氏新発明たる活動写真を総天然パノラマ化し、しかも動画内の登場人物を自在に動かす超科学な興行を興したいという野望を果たすため、当節一流の技師、興行師を集めて会合を開く。とまあそんなお話。
当時の最新技術と伝統的な芸とがせめぎ合う文明開化テクノ・ルネッサンス。よいわー。こういうの大好き! めちゃくちゃおもしろい!

『縹渺譚(へをべをたむ)――大利根絮二郎の奇妙な身ノ上話――』
そしてもう一つの表題作、この字の選びがもう素敵。(ルビがないと読めませんw)
運命の女性を探し求めてさすらいの旅をする男のファンタジー。
前世と現世のクロスオーバー加減がまるで少女漫画なのだけれど、今日泊節で描かれるともうたまりません。超絶的日本語、江戸弁今日泊節に溺れる快感。

『深森譚(しむしむたむ)――流山霧太郎の妖しき伝説――』
縹渺譚(へをべをたむ)のつづきです。前回のキーキャラクターの一人、銀次郎側の話、だけれども直接銀次郎視点にするのではなく、銀次郎を追う刑吏の視点で描かれているところが秀逸
やっぱり日本語がすんごい。今回の舞台は北海道なのでアイヌ語もばりばり。北海道の地図広げながら読むといいかんじにじっくり浸れる和風ファンタジー。読み終えた時の余韻と感動がすばらしい~。

実はこの二編、さらに続きがあって三部作の予定だったそうです。二編ともしっかり終わっているので単品でも楽しめますが、三部作が完成していたらと思うとすこし残念><
先生、天国で続き書いててくれるかなァ?

『浮間の桜 怪賊緋の鷹物語』
復員後に警察官となり、警部「補」にまでなったオジサンと、軽業師まがいの女怪盗との丁々発止がおもしろい。ルパン三世の銭形警部vsキャッツアイ(ただし田舎者w)を今日泊節でくるんだような人情話。これまた超絶日本語の名調子が味わい深いです。

『笑わぬ目』
なんと「鉄腕アトムクラブ」という虫プロダクション友の会の会誌に乗った子供向けショートショート。子供は見てはいけないと言われている工場の秘密の部屋に忍び込んだ少年が見たものとは?

いやー、よかった。お腹いっぱい。たっぷり堪能。文庫のくせにお高いけれど(まあ二冊分なので)お代以上に楽しめました。

何度も書いていますが、本当に日本語がすごい。
初めてだとちょっとというかかなりクセがあるので読みにくいかな? って思われるかもですが、なんのなんの、さすがは言語学者さん、実はこれとっても読みやすいのです。旧仮名づかいの雰囲気そのまま、音の通りすらすら頭にはいってくる。これ意外と快感です。
難しい語にはちゃんとルビはいっていますしね。
そして、ルビがないと読めないタイトルの数々w これがまたそれぞれとっても雰囲気よくっていいんですよー。まじクセになりそうw

日本語の奥深さと江戸弁に興味のあるSFファン(なんているのかしら?w)には絶対おすすめ。そうでなくてもこの快活な節回しや言葉遣いをぜひ一度味わってほしい、古典のようで古典でない、きっと今まで読んだことのないタイプの新しいニッポンのSFです。おすすめ!(二度目)

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