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らせんの本棚

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SF、ファンタジー、実用書からマンガ、画集、絵本などなど、アトランダムに紹介するレビュー集。神楽坂らせんが読んで「グッ!」と来た本を不定期に紹介していきます。もちろんネタバレはな… もっと読む
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#SF

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』レビュー

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 長谷敏司 (著/文)◇ 身体表現の限界を追及するコンテンポラリーダンスの若手ダンサー護堂恒明は、不慮の事故で右足を失ってしまいます。 一命をとりとめたと言え、人生のすべてをダンスに打ち込んできた人間にとって、足を失くし、踊れなくなることはもう死んだも同然。 これでは生きている意味がないと絶望してしまう恒明。 しかし、そんな失意の中で、AIで制御されるロボット義足の存在を知った彼は、そこにかすかな光明を見いだすのでした。 「ロボット義足

『われらはレギオン4』レビュー

『われらはレギオン4』上・下 驚異のシリンダー世界 デニス・E・テイラー(著)/金子浩(訳)📚 ↑の1・2・3の続き、第四巻。です。今回は上下巻の二冊構成! 📚 宇宙探査機集合体としてよみがえり、光電子コア・マトリクスのコンピュータ頭脳に生まれ変わったボブたち(複数形)。 タイトルの『われらはレギオン』の通り、彼らは集合体。もともとのオリジナル・ボブの複製たちです。 銀河に広がっていくボブのネットワークは半径100光年におよび、その集合体を指してボブの宇宙と自称していま

『あけましておめでとう計画』レビュー

『あけましておめでとう計画』/ 『キャベツ畑でつかまえて』 ―実録・日本テレワーク物語―野田昌弘(著 ――― 元旦なので、なにかおめでたいお話を~、とおもって本棚から引っ張り出した古い本がこちら。 もとは1985年元旦(というから37年前!!)に発行された本で、その後、1990年に『キャベツ畑でつかまえて』に改題されて再発行されました。 その表紙はこちら どちらも加藤直之さんの絵で、なんだか目つきの悪いガチャピンと、三角眉毛のふくよかなおじさんが描かれています。この、ち

『荒潮』レビュー

『荒潮』 陳 楸帆 (著), 中原 尚哉 (翻訳) ◇ 米米と書いてミー・ミーと読みます。彼女は中国本土南東部沿岸にある珪島、英語読みでシリコン島と通称される島で、電子ゴミから資源を探し出して暮らす最下層の人々である「ゴミ人」の一人。 彼女たちは毎日危険で苦しい労働を強いられ、健康を害しつつも低賃金のまま。そんなわずかな稼ぎすら、何代にもわたって島に君臨してきた、御三家と呼ばれる支配層に吸い上げられていました。 ある日、国際的なリサイクル業者の米テラグリーン・リサイ

『人之彼岸』レビュー

『人之彼岸』(ひとのひがん)郝 景芳(ハオ・ジンファン)(著)/ 立原透耶・浅田雅美(訳) ◇ 『折りたたみ北京』で、『三体』に続いてヒューゴー賞を中国SF界にもたらした郝 景芳(ハオ・ジンファン)さんの短編集です。 彼女は1984年に天津市で生まれ、清華大学で天体物理を学び、その後、経営学と経済学の博士号を取得。なるほど『折りたたみ北京』の著者らしいプロフィールです。けしてどっちつかずではなく、理系と文系の両方を専門にしている作風が素晴らしい。 境界線があいまいで、

『海王星市から来た男/縹渺譚』レビュー

『海王星市(ポセイドニア)から来た男 / 縹渺譚(へをべをたむ)』今日泊亜蘭(著)/日下三蔵(編) ◇ 最近ハマっている。とっても古くてとっても新しい、今日泊亜蘭さんの中・短編集です。やたら厚い本だとおもったら、もともと二冊だった本を合体させて一冊にしたとのこと。中編はもちろん、短編にしてもさすがに内容が濃い濃いw どのお話もとっても浸れる読み応え十分な本でした。 兎に角、これまたさすがに在野(野良)の言語学者だったという今日泊先生の博覧強記ッぷり。その言ノ葉の数々

『いさましいちびのトースター』&『いさましいちびのトースター火星へ行く』レビュー

『いさましいちびのトースター』 『いさましいちびのトースター火星へ行く』 トーマス・M. ディッシュ (著) / 浅倉 久志 (翻訳) / 吾妻ひでお(イラスト) ◇ 今回は2本立てのレビューです。 タイトル通り続き物。 そもそもタイトルで出オチ感満載なのですがw (もちろんグリム童話『いさましいちびの仕立て屋さん』がタイトル元ですね) グリム童話になぞらえていますが、これがまたしっかりした童話になっています。いちおう、子供向けなのですが、十分オトナが読んでも楽

『光の塔』レビュー

『光の塔』今日泊 亜蘭(著) ◇ 読みにくいけれどなんだか洒落た語感のある著者名は(きょうどまり あらん)と読みます。 あの伝説の同人誌「宇宙塵」に設立より参加し、長い間日本のSF界の最長老として知られた御方です。(2008年に97歳で没。南無><)そして、その「宇宙塵」に連載され、1962年(昭和37年)に刊行されたのが本書。 これ、知る人ぞ知る国産本格長編SFの第一号なのです。 もちろん、何をもって日本SF第一号とするかとかいろいろ議論はあるとおもいます。戦前

『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』レビュー

『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』 大原まり子(著) ◇ 大原まり子さんの二本めの短編集です。 1980年代前半というから、ちょうどバブル景気前夜ってぐらいでしょうか。 景気も日本のSFもとても活気づいていたころに書かれたお話たちです。 そのころ、日本SF界では、かの栗本薫御大、新井素子さん、そして、大原まり子さんら女性作家もばりばりと活躍を繰り広げられていたそうです。 (その後、バブル崩壊とともにSF界にも失われた数十年? の間隙があると言われていますが…

『時をとめた少女』レビュー

『時をとめた少女』ロバート・F・ヤング (著) / シライシユウコ (イラスト) / 小尾芙佐・他(訳) ◇ 『たんぽぽ娘』、『ジョナサンと宇宙クジラ』で有名な抒情SFの第一人者、ロバート・F・ヤングの日本オリジナル編集、ほっこり恋愛と一目惚れと純愛と悲哀のSF短編集です。 この、ヤングさんの評価はこれまた日米で大きな差があるようで、バリイ・N・マルツバーグによると、ヤングはSFにおける ”もっとも知られざる作家のひとり” なのだそう。ようは誰も知らない作家であると

『精霊の木』レビュー

『精霊の木』上橋菜穂子(著) ――― 《守り人》シリーズで有名な上橋菜穂子さんのデビュー作、ずっと入手困難でしたが30年ぶりに再販・文庫化されました。 作家生活30周年ということで、この本には、30年前の「初版あとがき」、15年前の「新装版あとがき」、そしてこの本用の「文庫版あとがき」の3本のあとがき、それに加えて《守り人》シリーズの担当編集者である偕成社の別府章子さんによる解説までが付いてきます。上橋菜穂子さんの歴史を知る上でとってもお得な重要資料となっていますw

『惑星カレスの魔女』レビュー

『惑星カレスの魔女』ジェイムズ・H・シュミッツ(著)/鎌田三平 (訳) ◇ 商業宇宙船の船長パウサートが仕事先でうっかり救ってしまった少女奴隷の三姉妹は、謎めいた魔法使い=超能力者ばかりが住むという惑星カレスの生まれ。 いやはや困った娘たちを助けてしまったものだと思いながらも惑星カレスにまで彼女たちを送り届け、その後地元の惑星に帰りついてみれば、なんと船長はすっかりお尋ね者になってしまっていたのでした。 知らなかったこととはいえ、惑星カレスにかかわることは彼の所属する

『テルジーの冒険』レビュー

『テルジーの冒険』ジェイムズ・H・シュミッツ(著)/鎌田三平 (訳) ――― 前回紹介したこちら、 『チックタックとわたし』はこのテルジーの冒険シリーズ(と言っておきましょう)の第一部。 そこから始まる天才少女の冒険物語です。 ◇ 時ははるか未来。人類は銀河に広くいきわたり、さまざまな星域を植民地にして独自の社会形態をつくっています。その星々は〈ハブ連邦〉という大きな枠組みで統治されています。この、〈ハブ連邦〉の政策は基本不干渉であって、よほど大きな(外敵の侵略

『フェッセンデンの宇宙』レビュー

『フェッセンデンの宇宙』〈河出文庫版〉エドモンド・ハミルトン (著) 中村 融(編・訳) ◇ 『反対進化』の紹介でも触れておきながら、そういえばちゃんと紹介していなかったわ~というわけで、あらためて、こちらもレビューしておきますね。 これは、エドモンド・ハミルトンの傑作『フェッセンデンの宇宙』のスペシャルバージョン、いわば完全版ともいうべき短編集です。 実は、早川書房から1973年にも同じ書名『フェッセンデンの宇宙』として短編集がでています。が、いわゆる銀背本で当然