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ハロウィンについて思うこと

世の中には2種類の人間が存在する。

「落し物をしない人間」と「落し物をする人間」の2種類だ。

僕は間違いなく後者だ。
後者の中でもひと際頻度の高い、言わば重症レベルの後者。

最近、この症状を少しでも緩和すべく、とあるアイテムを生活に取り入れた。
『MAMORIO(マモリオ)』という製品だ。
「お守り→おまもり→OMAMORI→MAMORIO」というアナグラムだろうが、これが中々に優れている。

このMAMORIO(以下、『タグ』と呼称する)、本体である札の形状をしたタグを財布や鍵などに取り付け、自分のスマートフォンと距離が離れて一定時間が経過すると通知をしてくれるという便利アイテム。
通知を見落としたとしても最後にスマホが検知した場所を地図上で確認出来るため、僕のような落し物が多い人間にとって画期的なシステムだ。

現在、僕はこのタグを財布とキーケースに取り付けている。
心配事が減ったという考え方も出来るが、僕の場合、厄介事がひとつ増えたという思考になるから困ったものである。


恐らく、現在取り付けている財布とキーケースを今後紛失する可能性は格段に低くなるだろう。
置き忘れの通知により紛失状態を未然に防ぐことも出来るし、実際に紛失したとしても救出できる確率は高くなるはずだ。

高頻度で落し物をする間抜けな人間性と相反するが、残念なことに僕は「中途半端が苦手な心配性」という性質も持ち合わせている。

財布と鍵はクリア。
だが、普段よく持ち歩くノートPCは?
お気に入りのマウスは?
加熱式タバコは?
こう考えると、タグが幾つあっても足りないように思えてくる。

この程度ならば、上述した物品全てにタグをつけることは出来ないでもない。

問題はここからだ。

電池が切れた場合、その瞬間からこのタグは単なるプラスチック片と化す。
また、これ自体にGPSが搭載されているわけではないので、タグ自体を紛失してしまうとこれまた厄介である。

これらを防ぐには…

財布に付けたタグを無くさないためのタグ。
その無くさないためのタグを無くさないためのタグ
その無くさないためのタグを無くさないためのタグを無くさないためのタグ
その無くさないためのタグを無くさないためのタグを無くさないためのタグを無くさないためのタグ



という具合に、タグが無限にあっても到底足りない事態に陥りかねないのだ。
マトリョーシカどころの騒ぎではない。
数ミリの厚さではあるが、仮に積み上げたとすれば恐らくオゾン層くらいは軽く突き破る高さになるだろう。
今となっては冷媒としての使用が禁止になった、フロンガス以来の脅威の再臨である。

いずれ僕はこのタグに支配され、車や靴、バッグにまでタグを取り付け、一台のスマホでは管理しきれなくなりるだろう。
財布を監視するためのスマホ、鍵を監視するためのスマホ、さらにはそのスマホを無くさないためのタグ、それらを監視するためのスマホを購入し、置き場所を占拠された我が家は倒壊し、僕自身もその重量に耐えきれなくなり押しつぶされるのだ。

無数のタグを購入する費用とそれを監視するためのスマホ利用料により生活は困窮を極め、いずれ痩せ細り廃人のようになっていく。

そんな極限状態にあっても紛失の恐怖から逃れることは出来ず、腕時計や靴、果ては眼鏡や下着にまでタグを付け、最終的には自分自身を見失わない為のタグを身体中に貼付け、歩くタグの妖怪の様相を呈するようになる。
タグゾンビの誕生である。

そしてきっとこの辺りで僕の甘さや運の悪さが露呈するのだ。
あろうことか、耳にだけタグを貼付け忘れる。
その夜たまたま現れた平家一門の邪悪な武士の怨霊に両耳をもぎ取られ、明け方になって法事から帰ってきた住職にタグの貼り忘れを詫びられるのだ。

それから少し経ち、鍛錬に鍛錬を重ねた琵琶法師としての腕前が評価される。
メジャーデビューを果たした末に大ヒットを飛ばし高額な印税収入を手にして、その後は何不自由なくタグを買える暮らしに身を置くことになる。
タグゾンビからタグ人間に昇格した格好だ。

この一連の怪奇譚は小泉八雲あたりの耳に入り、『怪談』の中に所収され、広く知られるところとなったという。

やがて奇妙なエピソードは「HOUICHI」というタイトルを冠し海を渡りシルクロードを越え、遠くヨーロッパの古代ケルト人の耳目に触れた。
いつしかそれは世界的な祭へと変化していった。

「財布を差し出さないと耳をもぎ取るぞ」

子ども達は秋になると、由来も知らずに口々にこう唱え、町じゅうを練り歩いたという。


というような時系列も場所も適当な文章を書き上げたせいで、僕は皆から大嘘付きのレッテルを貼られるのだろう。
そんな自分の姿を想像すると無性に悲しくなり、腹が減ってくる。
誰か僕にお菓子でも恵んではくれないだろうか。
そうでなければ、僕は何をしでかすか分かったものではない。

Trick or Treat.

よきハロウィンを。


(2,000字)


いろいろと思うところがあり、この1年程度、リレーやバトン、企画や無茶ぶりといった類のものを避けている。
個人の趣向や得手不得手があるのでそれらを否定する気は一切無いが、受動的スタンスで記事を書くことが「僕は」苦手になってきている。
とはいえ能動的なスタンスで向き合える場合はこの限りではない。
今回はたまたま合致しそうなテーマが頭の中にあったので、喜んで参加させて頂くことにした。

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というわけで、当記事は企画参加記事です。
詳細はページ下記のリンクから。

無論、本文中の荒唐無稽な内容はフィクションが多く含まれます。
が、前回の僕の記事の【外伝】も兼ねて書いています。
よろしければ、そちらも是非。

当記事に書いた「ハロウィンの由来」はもちろん大嘘です。
間違っても職場や合コンで自慢気に披露しないように。
大恥をかいて恥ずかしさのあまり大あばれして懲戒解雇になったとしても当方は責任を負いかねます。

企画盛況の一助となれば幸いです。

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