見出し画像

最新技術と花見について思うこと

本当に便利な時代になってきていると感じる。

ひと昔前までは考えられなかったようなシステムも、今となっては当たり前に使われているケースが数多くある。

経路が分からない場所へも最短ルートで案内してくれることで移動に役立つ「例の装置」についても例外ではない。

誰もが知るこのシステム、方向音痴の僕にとっても夢のような装置だ。

内蔵された記憶域に保存された地図の範囲であれば、滞りなく連れて行ってくれる。
近年の機種では、目的地を音声で入力できるものも増えていると聞く。

基本的には「例の装置」がGPS経由で取得した位置情報を基に管理・制御していると思われるが、保存されたデータと比較して地形が変わってしまった場合はエラーが発生する場合もある。
しかし、学習機能を搭載した機種も多く、移動しながら地形データを記憶させることで使用可能になる場合もあるそうだ。

実際のシステムや機構はブラックボックス化しており、我々のような一般ユーザーがその全てを把握するのは不可能と言えるだろう。
まさにメーカーの企業努力の賜物。

僕の生活にそんな憧れのシステムを導入したいところだが、僕のような一介の会社員が気軽に購入できるほど安価なものではなさそうだ。


話は変わるが、数日前のこと。
例年より一週間ほど早く桜が満開になったので、急遽、花見をして来た。

妻は仕事だった為、実家で暇を持て余している両親を誘い、娘と共に4人で目的地へと向かった。
両親と共に外で弁当を広げるなど、小学生のとき以来かもしれない。

世の中が徐々に落ち着きを取り戻しつつあることを表すかのように、会場に近づくにつれ車の台数は増えていき、本来1時間程度の目的地に辿り着くまでに随分な時間を要した。
車載のカーナビとGoogleマップの2本立てで迂回路を検索したが都合の良い裏道などあるはずもなく、素直に渋滞に巻き込まれながらどうにか満開の桜を見ることが出来た。

宮城県の南に位置する大河原町が誇る「一目千本桜ひとめせんぼんざくら」。





千本の桜が一目で見渡せる、という光景から名付けられた「一目千本桜」。
この手のネーミング、900を1,000といったり、浦安を東京と呼んだり、大抵の場合において「られる」傾向があるが、この「一目千本桜」は実際には約1,200本あるそうだ。
サバを読むようなネーミングは珍しい気もする。
「一目千二百本桜」では語呂が悪いのも確かだが。

弁当を食べ終え、置き引き犯が会場スタッフに取り押さえられているのを横目に歩いていくと、町の人気者、さくらっきーが愛想を振り撒いていた。


娘が興味を示したので近づいていくと、スタッフにカメラを預ければ記念に撮影をしてくれるという。
結局のところ見たこともない巨大生物に恐れをなした娘が撮影中にグズり始めると、優しく可愛らしい巨大生物の首のあたりから「めんこい可愛いお嬢ちゃん、あっづあちらおっちゃんおじさんの方見でみろ見てごらん。カメラの方見ピースしでみさいしてみなさい」と、野太いオッサンのような声が何故か聞こえてきた。

…いいから喋るな。
余計に怖い。
娘はこっちで何とかするから設定を崩さないでくれ。
変な感じになるから。
頼むから職務を全うしてくれ。


巨大生物との撮影をどうにか無事に終えてさらに歩みを進めると、「あれやりたい!あれやりたい!」と娘にせがまれる。

あ…あれは…。


近づくと、冒頭で紹介した「例の装置」がそこにはあった。

控えめに言って、興奮したと言わざるを得ない。

僕のような一介の会社員が気軽に購入できるはずもない、憧れの例のアレがポツンと置かれている。

アレさえあれば僕の人生は一変するはず。
きっと、この先の旅行や通勤もこの上なく楽なものになる。

どうにか自分のものに出来ないか。
きっと手持ちの現金では足りないだろう。
クレジットカードも一発で限度額をオーバーし、使用不能になるかもしれない。

購入するのはやはり厳しい。
かくなる上は…。

これを強奪するとしたら、量刑はどのくらいだろう。
ともすれば、取り押さえられた次の瞬間には別の世界に飛ばされる系の刑罰、というパターンもあるのだろうか。
初犯なので執行猶予はつくとは思うのだが。

これ欲しさに乱暴を働いてしまったら、強盗犯を父に持つ娘の人生は、どうなってしまうのだろうか。
これ欲しさに過ちを犯した場合の僕の行く末は、一体どこになるのだろう。

葛藤の末、僕はひとつの決断をした。

いささか楽観的ではあるが、行きついた先でこれをポケットに収納してしまえば、逮捕されることも恐らくないだろう。
長い逃亡生活にはなるだろうが、きっと難しいものではない。
これさえあれば…。
もはや完全犯罪といってもいい。

これから起きるであろう僕の蛮行を察知してか、パトカーのサイレンが会場に近づいてくる。

両親よ、僕は四十にしてついに、欲しかったものに出会えた。
生み育ててくれたことを感謝している。
恩を仇で返すような親不孝息子で申し訳ない。

妻と娘よ、すまない。
いつかきっと迎えに行く。
あの装置を使って。
それまで待っていてくれ。









結局娘を道連れに。

意を決してドアを開いてみたが、向こうに広がる景色は、周囲と何ら変わりない土手であった。


あまり信じたくない話ではあるが、2023年現在、世間に流通している「どこにでも行けそうな雰囲気を醸し出しているドア」は9割以上が偽物という噂もある。


ドアを見守っているスタッフに訊ねると、「隣町の建具たてぐ屋さんがノリで作ったので展示している」とのこと。
さすが建具店の仕事、見事な仕上がりだが、たまたまピンク色をした単体のドアが、たまたま野外に置いてあっただけのこと。
たまたま、どこでも行けそうな佇まいで。
「ご存知!〇〇えもんの」とか「〇〇でもドア」などとは一言たりとも書いていないので、著〇権侵害でどこかから怒られることもなさそうだ。

恐らく僕と同じような犯行計画を笑顔の下に隠した親子連れやカップルが10組ほど列を作っていたので、建具屋さんもニヤニヤと遠くから眺めていたことだろう。


写真撮影を終え駐車場に戻る道すがら、先ほどの置き引き犯が会場スタッフから警官に引き渡される場面に出くわした。
ちょっと前に聞こえたサイレンの音はこれだったのか。

他人の物を盗むようなことは絶対にあってはならない。
どうか、罪を償って真っ当に生きてくれ。


というわけで、僕の花見記事は以上。
ちゃんとした大人が書いた花見記事は、僕の行った大河原町の隣、柴田町の夜桜をレポートしているぺれぴちさんの記事で読んでください。
素敵な写真満載です。
※無断リンクすみません


綺麗でした





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?