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INTENSIVIST「特集:膠原病・血管炎」Editorial


巻頭言 『Critical Care Rheumatology – 慢性炎症性疾患の緊急病態を撃つ』

膠原病・血管炎は「慢性・多臓器・自己免疫性(あるいは自己炎症性)疾患」と換言できる。関節リウマチなど一部の疾患を除いては稀な症候群であり、自己抗体で診断し、診断の如何によらず治療はステロイドである、というのが膠原病・血管炎の旧来のイメージではないだろうか。

1994年に、サイトカインの1つ、TNF-αを特異的に抑制するモノクローナル抗体が開発され、その抗体を点滴静注することによって関節リウマチがドラマチックに改善したことが「現代リウマチ学の幕開け」と言える(1)。これは1948 年 9 月 21 日メイヨ―・クリニックで関節リウマチの29 歳女性に対し、生合成に成功したばかりのコルチゾンを筋肉注射したことが、近代リウマチ学の幕開けとなった、ということにも比肩されるべき出来事である。
コルチゾン投与を受けた最初の患者は、ステロイド(糖質コルチコイド)の副作用による最初の犠牲者でもあり、(アスピリンと併用した)ステロイドの大量使用による消化性潰瘍の穿孔で死亡した。TNF-αを阻害するモノクローナル抗体は、当初数多くの副作用が報告された(現在「ほとんど懸念されることのない」副作用として、サイトメガロウイルス網膜炎(2)、蚊に媒介されるBrachiola algerae感染症(3)などがある)が、副作用対策・適応患者の選択などの使用法が洗練されるにつれて、想像よりも安全に使用できることがわかってきた。同時に、ステロイドの臨床使用も、70年の蓄積を経て、より洗練されたものに変わってきつつある。
そして、TNF-α以外にも、個々のサイトカインをターゲットにしたモノクローナル抗体(抗IL-6受容体抗体)・B細胞表面マーカーをターゲットにしたモノクローナル抗体(抗CD20抗体:”B-cell depletion”)・細胞間の共刺激シグナルをターゲットにした薬剤(CTLA4-Ig)・サイトカインのシグナル伝達の共通経路(hub)をターゲットにした薬剤(JAK阻害薬)など、膠原病・血管炎の新規治療薬は枚挙に暇がない(19章を参照)。

膠原病・血管炎(またはその疑い)の患者が集中治療を要するのはどのような場合だろうか。以下のいずれかのシチュエーションが考えられる。
1. 既に診断のついた膠原病・血管炎患者に重篤な臓器障害が生じた場合
2. 診断が未確定の重篤な臓器障害の患者について、膠原病・血管炎が鑑別診断に挙がる場合
ステロイド・免疫抑制剤・生物学的製剤(をはじめとした分子標的治療薬)の進歩にも関わらず、膠原病・血管炎の治療は依然として感染症との戦いである。膠原病・血管炎における日和見感染症については良質なスタディが少ない。これは膠原病・血管炎の各々が希少である上に臨床経過が多岐にわたるため、治療薬(と、その総和としての免疫抑制の程度)がバラバラであることが一因である。膠原病・血管炎における感染症については21章をご参照いただきたい。
本特集では、個々の臓器(中枢神経・循環器・呼吸器・腎臓・末梢循環)が膠原病・血管炎によってどのように障害されるかという側面と、特定の膠原病・血管炎(関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・炎症性筋疾患・全身性強皮症・大型血管炎・中/小型血管炎)がどのようなパターンで臓器障害を起こしうるか、という側面の双方から総説した。膠原病・血管炎自体は希少であることは間違いない(少なくともcommon diseaseではない)が、診断することも、診断を除外することも困難である。自己抗体検査は有力な手掛かりを与えてくれるが、自己抗体の陽性を確認する猶予なく臓器障害が進行する一群の疾患がある。劇症型抗リン脂質抗体症候群(14章)・抗MDA-5抗体陽性の皮膚筋炎に合併する急速進行性間質性肺炎(15章)などがその例である。また、自己抗体が陽性とならない膠原病・血管炎によって重篤な臓器障害が生じることがある。巨細胞性動脈炎(17章)・結節性多発動脈炎(18章)などである。膠原病・血管炎の診断プロセス総論(2章)、診断に関わるジレンマ(コラム:診断閾値と治療閾値)、検査結果や病理所見の解釈(コラム:検査、病理)についても実戦的な観点からの解説を得ることができた。
いずれも力作で、集中治療医やリウマチ・膠原病の専門医のみならず総合内科医にとっても長期の参照に足る圧倒的な質・量の特集となった。

膠原病・血管炎が「慢性疾患」であるとしても、その発症・悪化が急性かつ劇症ということは十分にあり得る。リウマチ・膠原病専門医は、免疫システムの障害に対してより特異的に介入(interventional immunology)すべきであるし、集中治療医は炎症による重篤な臓器障害を最小限のダメージで切り抜ける技法に長けている。双方の協力は患者の生命と生活を救う結果となるだろう。「自己抗体検査を出し、ステロイド点滴して寝かせておくだけ」から何歩も先に踏み出すための共通言語として、本特集が活かされることを祈念してやまない。

1. Elliott M., Maini R., Feldmann M, Kalden J., Antoni C, Smolen J., Leeb B, Breedveld F., Macfarlane J., Bijl J., Woody J. Randomised double-blind comparison of chimeric monoclonal antibody to tumour necrosis factor α (cA2) versus placebo in rheumatoid arthritis. Lancet. 1994;344(8930):1105–1110. PMID: 7934491 

2. Haerter G, Manfras BJ, de Jong-Hesse Y, Wilts H, Mertens T, Kern P, Schmitt M. Cytomegalovirus retinitis in a patient treated with anti-tumor necrosis factor alpha antibody therapy for rheumatoid arthritis. Clin Infect Dis Official Publ Infect Dis Soc Am. 2004;39(9):e88-94. PMID: 15494900 

3. Coyle CM, Weiss LM, Rhodes LV, Cali A, Takvorian PM, Brown DF, Visvesvara GS, Xiao L, Naktin J, Young E, Gareca M, Colasante G, Wittner M. Fatal Myositis Due to the Microsporidian Brachiola algerae, a Mosquito Pathogen. The New England Journal of Medicine. 2004;351(1):42–47. PMID: 15229306 


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