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夢想 - 審問官はかく語りき -

「ごめんなさい」と、ある者が言った。

「何を謝っているの?」

「はい、分かりました、とは言えません」

「あなたの犯したことは、とても大きなこと」

「けれども、あなたはこうして、不自由なく」
「五体満足で、今も平穏に生き永らえていて」

「あなたが怖れるようなことは、何ひとつないはずです」

「そこに、何の不満があるというのでしょう?」


「別の言い方をしましょう」

「あなたには、私に許しを乞う必要なんて、一切ない」
「そのまま、ただ暮らしていく選択も、あなたはできる」

「もう一度ききましょう」

「あなたは、いったい、私に、何を謝って、何を許してほしいの?」

「偽りの楽園を離れ」

「扉の向こうに封じられた罪を見やり」

「なお生きる意志があなたにあるとでも?」

「そう、でしたら、こちらへどうぞ」


消える罪も、許される罪も、ありはしない。
夥しい悲しみの山が、そこには、ただ、ただあるだけだ。

「あなたが、人々に希望をもたらす、また一人の人であらんことを」

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