【怪談】喪中の知らせ
関根さんには、学生時代から付き合いのある加藤さんという友人がいた。
以前は毎年年末になると飲みに行って近況を報告しあったが、ここ十年ほどはなかなかそういった機会が取れず、没交渉であったそうだ。
それでも毎年年賀状だけは送り合うようにしていた。
ある年、加藤さんから喪中の知らせがきた。
ご家族が亡くなった、という内容だったが誰が亡くなったのかは明記されていなかった。
うっかりにしてはうっかりし過ぎている。亡くなったのは誰なのかとわざわざ聞くのもはばかられるので、心に引っかかるものはあったが何も聞かず、年明けに寒中見舞いを送ることにした。
翌年も加藤さんから喪中ハガキがきた。
昨年と同じように亡くなった家族の名前は書かれていなかった。
流石に腹が立って一言言ってやろうとメールしたが返事はなかったという。
3年目、またもや同じように喪中ハガキが届いた。
そんな嘘をついてまで年賀状のやり取りをしたくないのなら、そう言えばいいではないか。関根さんは居ても立ってもいられなくなり、ハガキを手に加藤さんの自宅へ赴いた。
呼び鈴を鳴らすと「はーい」と若い女性が出てきた。
加藤の娘さんか、最後に会ったのは彼女が中学生の頃だろうか。関根さんがそう感慨にふけりながら名を名乗ると、彼女も思い出したように「お久しぶりです」と挨拶した。
「加藤さん、毎年寒中見舞いをありがとうございます。父も喜んでいると思います」
「そりゃ良かった。その件であいつに文句の一つでも言ってやろうと思ってね」
「ありがとうございます。是非会ってやってください」
家に通された関根さんを待っていたのは、意識のないまま寝たきりになった加藤さんだった。
「えっ……。だって、そんなまさか……」
絶句した関根さんを見て、娘さんも「もしかしてご存じなかったんですか?」と驚いていた。
娘さんが言うには、もう3年も前からこんな状態だそうだ。
ではハガキは娘さんが……と問うと、喪中ハガキなどここ数年出していないらしい。
そんなはずはない。そう言って持ってきたハガキを見せると「確かにこれは父の字です」と、そう言っていた。
加藤さんは数日後に息を引き取った。まるで関根さんが会いに来てくれるのを待っていたかのようなタイミングだった。
その年の暮れ、娘さんの字で喪中ハガキが届いた。今度は嘘ではなかったそうだ。
※本作は竹書房怪談マンスリーコンテスト 2022年11月度募集(お題「嘘」)に応募したものです。
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