裏ホームルーム
15年程前、埼玉県のA子さんが体験した話だ。
A子さんの通う中学校には、生徒の誰かが立ち上げた「裏ホームルーム」というインターネット掲示板があった。
裏ホームルームは匿名で誰でもメッセージを書き込めるサイトで、いわゆるスレッド型BBSというやつだった。
匿名という性質上、先生や特定の生徒に対する悪口や愚痴で溢れてはいたが、一方で普段関わりのない生徒同士の交流の場でもあった。
Aさんには当時仲良くしている男子生徒がいた。
クラスで隣の席に座っている生徒で、名前をE君という。
そこまで目立つタイプではないが、好きなバンドの話で意気投合して以来、何かとよく話すようになった。
ある日、A子さんは些細な行き違いでそのE君と大喧嘩してしまったそうだ。
その日の深夜、怒りが冷めやらぬ彼女は裏ホームルームに「ムカつく奴を呪う方法募集」と書き込んだ。
するとその直後、返信があった。
「ムカつく人間の机をチョークで真っ赤に塗ってやると、そいつに不幸が訪れる」という内容だ。
A子さんはあまりの返信の速さに若干気味が悪いと思いつつ、礼を言ってパソコンを閉じた。
翌朝、A子さんはいつもより早く登校した。
教えてもらった呪いを実行するつもりはなかったが、その気になればいつでも呪えるという思いから、何だかE君より優位に立っている気がしていた。
教室のドアを開けて自分の席へ向かおうとして、A子さんは愕然とした。
彼女の隣の席、つまりE君の席がチョークで真っ赤に塗られていたのだ。
あの書き込みを読んだ誰かの悪戯なのか? 自分とE君が喧嘩しているのを知っている誰かが自分を陥れようとしているのか? あるいはE君を恨んでいる他の誰かの仕業なのか?
A子さんにはどれも心当たりがなかった。
とはいえ、これを誰かに見られたら状況的に疑われるのは間違いなくA子さんである。
A子さんは慌てて、雑巾でE君の机のチョークを拭き取った。
その後E君に不幸があったかというと、特にそういうことは起こらなかった。
しかしA子さんはE君と何となく気まずくなってしまい、卒業する頃にはすっかり疎遠になってしまったそうだ。
「人を呪う方法を募集するっていう、その行為自体があまり良くないですよね」
この話をしてくれた後、A子さんはそう言い残した。
※本作は竹書房怪談マンスリーコンテスト 2021年3月度募集(お題「呪い・呪術」)に応募したものです。
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