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【怪談】祖父の家には、何故かずっと戸が開けっ放しの物置がありました

「祖父の家には、何故かずっと戸が開けっ放しの物置がありました」

 三木さんはクーラーの効いた喫茶店でそう語り出した。

 三木さんは毎年お盆になると、母方の祖父の家にお泊りに行っていた。
 ちょうどその年は祖母の三回忌で、三木さんと歳の近い従兄弟たちも家に集まる機会があったのだという。
 家は田舎の平屋で、使っていない部屋がいくつもあったそうだ。
 三木さんはそこで従兄弟たちと走り回ったりかくれんぼするのが好きだった。

 ある日従兄弟たちと遊んでいる時、とある部屋が妙に気になったのだという。その部屋は便所の隣にある物置で、掃除道具や使わなくなった机などが詰め込まれていた。
 妙なのは、物置として使われている部屋なのに扉が常に開けっ放しだったことだ。普通物置の中身というものは雑多に様々なものが詰め込まれていて、あまり見栄えがいいものではない。
 従兄弟たちと物置の中の物を物色しながら遊んでいると、部屋の隅に日本人形が座っているのを見つけた。
「おばあちゃんと同じ髪型だ」
三木さんはとっさにそう思ったのだという。三木さんの祖母はその人形と同じように首のあたりで切り揃えたおかっぱ頭をしていたそうだ。
 しかし似ているといっても髪型だけで、目鼻立ちや表情は面影すらなかった。薄ら笑いを浮かべた顔が何とも不気味で、部屋中の物をあらかた物色し終わった後でも、誰もその人形に触ろうとしなかった。

 その夜、三木は親戚たちと遅くまでトランプに興じていた。
 宴もたけなわとなった頃、三木さんは尿意を催した。
 怖いので誰かついてきてほしいと頼んでも、大人たちは笑ってばかりで誰も立ちあがろうとしない。仕方ないので一歳上の従兄と一緒に便所に向かうことになった。

「おばあちゃんだったら、こんな時は絶対についてきてくれたのに」
 そう三木さんは思ったそうだ。

 廊下の角を曲がって便所の扉が見えた時、従兄が「おいっ……!」と小さく呼びかけてきた。
「何?」
 そう三木さんが聞き返すと、従兄が震える指で物置を指差した。

 物置の扉が閉まっている。
 いや、閉まりかけているが、少しだけ開いている。
 その少しだけ開いた隙間から、何かが覗いていた。

「人形だ……」
 従兄が震える声で呟くと、次の瞬間三木さん達ふたりは大人たちのいる部屋へ駆け出した。

「でも、私見たんです」

 三木さんは、その話の最後に付け足すように言った。

「あれは人形の顔なんかじゃなかった。おばあちゃんの顔だったんです」

※本作は竹書房怪談マンスリーコンテスト 2023年3月度募集(お題「人形」)の応募作に一部修正を加えたものです。

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