【歌舞伎のはなし】「UniqloUのTシャツの裏」はよくわかりません。

今回はジャンル分け(結局全然網羅できなかった)とオモコロチャンネルの拾い食い歌舞伎についてです。拾い食い歌舞伎やっと話せる。嬉しい。


連載が続きものであるのを利用した、「前回のはなしを一度読んで来なさいシステム」をここで導入。

『歌舞伎十八番』だけ振り返ってきてください。


ジャンル

市川團十郎家が勇ましい系をやっている、と前回はだいぶ濁して書いたが、これは荒事というジャンルになる。やたら力の強い男が悪人を倒す、みたいなイメージ。これの反対が和事。おっとりとした美しい男性像。女形の役者が演じることもある。

歌舞伎十八番にも含まれる『助六由縁江戸桜』は、花川戸助六実は曽我五郎(弟)が荒事、白酒売新兵衛実は曽我十郎(兄)が和事にあたる、お得な演目となっている。助六寿司の語源になったやつ。総角(あげまき)という遊女が助六の恋人であり、いなり寿司(油揚げ)と巻き寿司で総角ですね!とのこと。流石に有名作なので、色々と話題に挙げられがち。


「花川戸助六実は曽我五郎」という役名の書き方をしたが、こういうのが結構ある。何か目的のある人物が、実際の名前や立場を隠して別人として世間に顔を出している状態。これを身を”やつす”ことからやつし事と言う。

みすぼらしくする、姿を変えるという意味の「やつす」が名詞化した語。「和事」の一種で、これを得意とする俳優を「やつし方」という。

インターネットに簡潔で良い文章があったので引っ張ってきました。コトバンクより。


あとは、世話物時代物の分け方もある。先ほどは男性役の分類だったが、これは作品の分類方法。世話物は、『曽根崎心中』『心中天網島』など農民や町人が中心の世界。時代物は、忠臣蔵……えーと、『仮名手本忠臣蔵』や『伽羅先代萩』など武士の世界の話です。

簡単に言えば、世話物は昼ドラ、時代物は時代劇。大好き!五つ子は世話物、鎌倉殿の十三人は時代物。大好き!五つ子が昼ドラの代表例だと思ってるのって何歳くらいの人たちなんだろう。というか昼ドラだっけ?昼顔とかにしといたほうがいい?


松羽目物というのもある。まつばめもの。能の演目を歌舞伎に引用したもの。能舞台のようなセットを使う。能の舞台には松の絵が背景としてあって、そこから名前がついた。『勧進帳』がこれです。

盗人を主人公とした白浪物は、私の大好物です。何度も話題に挙げている「三人吉三」や「知らざあ言って聞かせやしょう」の台詞が有名な、通称「白浪五人男(弁天小僧)」など。


ジャンルの分け方がバラバラすぎて、キリがないのでこの辺で諦めます。何かの演目を紹介する時が来たら、その時に色々コメント入れていく方式にしよう。



拾い食い歌舞伎解説

オモコロチャンネルの【拾い食い歌舞伎】同僚が考えた無責任なアイデア全部やります回をまずはご覧ください。

急いでる人用メモ
3:00〜 拾い食い歌舞伎タイトルコール
3:58〜 山口さん舞台に登場
5:23〜 拾い食い歌舞伎実演 山口さん
7:17〜 拾い食い歌舞伎実演 恐山さん


まず、演者が髪の長いかつらを被っているのだが、これは恐らく『連獅子』を意識しているのだと思う。赤いカツラと白いカツラの人がいて、長い長い毛をグルングルンと振り回すアレだ。松羽目物です。


「UniqloUのTシャツの裏」の前に、山口さん登場のところで恐山さんが「待ってました!」と声をかける。この観客から演者に言う掛け声のことを、大向う(おおむこう)と言う。「成田屋!」「中村屋!」とかいうアレ。観客がこんなはっきりと声を出していい舞台ってすごいよね。民衆の文化って感じがして好きです。ただ、知らずに聞くと本当にびっくりする。結構デカめのシャウト。

「UniqloUのTシャツの裏」はよくわかりません。


拍子木だが、これは歌舞伎では「(き)」と呼ばれる。これとは別に、足音や見得をする場面などではツケが用いられる。板を床に引いて、木の棒を両手に持ちバタバタと打つのがツケ。なんと舞台上の見える場所で行われる。効果音なのに。


5:23〜食べ始め、「こんなに早いと思わなかった」と後ろで言っているが、これはむしろ早いほうが勢いが出て歌舞伎感がある気がする。山口さんが合ってる。

恐らく歌舞伎のイメージとして、「殺陣がめっちゃ遅い」があるのだと思う。まあ殺陣はめっちゃ遅い、アレは画だから。舞踊は動きの美しさを魅せるものだが、殺陣は画としての美しさ、かっこよさを魅せるものである。見得も同様、画なのである。

歌舞伎にも早い動きはある。役者の動きや舞台の仕掛けで観客を驚かす芸を「外連(ケレン)」と言う。宙吊り、早変わりなど。『義経千本桜』の狐を見てもらえれば、大体の雰囲気がわかるはず。それか『東海道四谷怪談』のお岩さんか。


見得だが、ほとんど声を出さなくても良いのでは?と思った。動画では拾い食いをして「ヤア!」と言うのを繰り返している。歌舞伎感を出すのであれば、拾い食いの後は黙って見得をして、次のカンカンカンの音の間は、体勢を切り替える動きをしてカカンの音とともに再び見得をする、というのが良さそう。

この動画を見れば、役者がほとんど声を出していないのが分かるだろう。見得の場面で声を出しているのは、どちらかというと観客の方である。


見得を良くするのであれば、彼らは腕や手がよろしくない。力がみなぎる様子が伝わってこない。顔に意識がいきすぎていて、全身の力が抜けている。可能であれば片方寄り目の表情を作り、四肢までグッと力を入れるように意識すると、よりそれっぽさが出るのではなかろうか。


7:44〜恐山さんが「こんな所にポップコーンが一粒二粒」「こいつは春から縁起がええわい」「キジも鳴かずば撃たれまいに」「パソコン」と台詞を言う。

「こんな所にポップコーンが一粒二粒」これはどちらかというと狂言味が強いなと思ったが、まあ歌舞伎でもこういう説明台詞は普通にある。

「こいつは春から縁起がええわい」ありがとうございます、三人吉三の名台詞です。「月も朧に白魚の篝も霞む春の空」から始まる長台詞で、作者・河竹黙阿弥の特徴である七五調の台詞回しが美しい。七五調の台詞は発するのが難しいらしい。

「キジも鳴かずば撃たれまいに」これは勉強不足でしたが、『浮世柄比翼稲妻』という演目の「鈴ヶ森」の場面に出てくる台詞で「雉も啼かずば撃たれまいに」が入っているそうだ。恐山さん知識の幅すごすぎないか……

そのあとの「パソコン」はよくわかりません。


拾い食いと歌舞伎を結びつける発想がまずよく分からないが、そこそこ合ってる部分があったので興味深かった。

ちなみに、仮装やジョーク、歌舞伎等の物真似などをする演芸のことを「(にわか)」と言う。福岡のにわか煎餅はこれのことで、俄で使うお面を煎餅状にしたもの。

拾い食い歌舞伎も俄と言って良いんじゃないかなと思った。


次回更新 8/15 :歌舞伎のはなしの続きをする予定
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。

めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。