親分とミーコ
亡くなった猫に思いを馳せていたら、空から突然毛玉が降ってきた。
「うわぁー!!…何?ん?…」
私にぶつかって転がった毛玉をよく見ると、
「…お、親分⁈」
2日前に亡くなった飼い猫だった。
「うるせぇなぁ、お前が引っ張るから落っこっちまったじゃねぇか!どうしてくれんだよミーコ⁈」
「親分がしゃべった。」
「当たり前だろう?俺はもう猫じゃねぇんだから。」
「え?猫じゃん。何?私がおかしくなったの?あぁ、もういいや!そんな事はどうでもいい!親分!」
私は力いっぱい親分を抱きしめた。18年間一緒にいた家族。大好きな親分。
「あー、分かった分かった。好きなだけやれよ。」
親分は呆れたように言うと、なすがままで私の気がすむのを待った。
ひとしきり触って少し落ち着いた私は、
「そういえば、なんで空から降ってきたの?」
と膝の上の親分に聞いた。すると親分は撫でられながら目を細めて言った。
「お前が引っ張るから落っこちたんだよ。」
「私引っ張ってないよ?それに、落っこちたってどこから?」
「虹の橋。お前が行くなって思うから、引っ張られて落ちたんだ。もう、勘弁してくれよミーコ。」
「え?…じゃあ、親分はもう天国に行けないの?私のせいで?やだ!どうしよう⁈ 親分!どうしたらいいの⁈」
取り乱す私に親分は落ち着いた声で言った。
「まぁ、落ち着けミーコ。すぐパニックになるのはお前の悪い癖だぞ?ちゃんと帰る方法はあるから安心しろ。」
「分かった。ごめんね親分。死んでまで迷惑かけちゃって。私ちゃんと協力するから!もう絶対引っ張らないようにするから!帰る方法教えて!」
「分かった。じゃあまずお前のしたい事をしろ。」
「私のしたい事?なんで?親分のしたい事じゃなくて?」
「俺は未練なんかねぇからしたい事もねぇ、そもそも引っ張ったのはミーコだろう?だからお前が俺にしたかった事をするんだよ。分かったか?」
「あぁ、なるほどそういう事か!って未練ないってすごいな親分。…分かった、やりたかった事ね!よし!やってやろうじゃないの!」
それから私は、美味しいご飯をたくさん食べさせてあげたり、
「うまっ!何だこれ?ミーコうまいぞ!」
可愛い洋服を着せてあげたり、
「俺、写真には映らないからな?目に焼き付けて早く脱がせろミーコ。」
私の好きな場所へ一緒に行ったり、
「すごいいい景色だよ親分!見て見て!」
「…あぁ、分かったから早く帰ってあのうまい飯を食わせろ。」
ご飯以外はずっとくっついて過ごす。
「親分フワフワであったかい!」
「触りすぎだぞミーコ、毛が抜けるだろうが。」
「いいじゃん!いいじゃん!触り納めなんだから!あー、気持ちいい!…明日は何しようかな…?」
夢のような日々を過ごしていた。
7日目の夜、いつものようにベッドへ入って眠りについた私は、眩しさに目を開けた。すると光の中に親分がいた。
「悪りぃなミーコ。お迎えが来ちまった。」
「うそ!やだよ!まだ私やりたい事あるよ⁈ 」
「あぁ、ごめんなミーコ。あれは俺の嘘なんだ。」
「嘘?って何?」
「お前が引っ張って落ちたんじゃない。俺がお前に会いたくて、自分から落っこちたんだ。でもカッコ悪りぃから嘘ついたんだ。ゴメンな。」
「…何それ、全然カッコ悪くなんか無いよ!嬉しいよ!もっと早く言ってよ親分!」
「お前となずっと居たかったんだけどな、頑張っても猫と人間じゃ無理があるよな、18年が限界だった。でも、俺のわがままを神様が聞いてくれてな、ちょいと戻してくれたんだ。おまけに話も出来るなんてな、本当に幸せだったよミーコ。ありがとな。」
「親分!…行くの?」
「あぁ、虹の橋を渡りに行く。もう降ってこねぇから安心しろ。」
「…降ってきてもいいよ。今度はちゃんとキャッチするから!」
「アハハ、お前運動ダメだもんな?まぁ、またどっかで会うかもしれないしな、その時までちょいとお別れだ。またな、ミーコ。」
「…うん、またね親分。…来てくれてありがとう!」
親分は眩しい光の中に消えていった。私は姿が見えなくなっても、泣きながら手を振り続けた。
朝になってベッドから起きると、親分の抜け毛が少し布団に残っていた。
「…夢じゃなかった。」
窓を開けて見上げた空には、見た事もないような大きな虹がかかっていた。
「いってらっしゃい親分。またね。」
私は笑顔で手を振った。
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