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ETF投資入門 カン・チュンド

まったく新しいタイプの銘柄

ETFとは投資信託の一種であり、その中身はファンドそのものです。
「投資信託が一つの銘柄として株式市場に上場したもの」。
それがETFです。
ETFの正式名称は「Exchange Traded Fund」。
直訳すると、「取引所で取引されるファンド」という意味です。
つまり、「ETF=上場した投資信託」という理解で間違いありません。
実は、ETFはただの上場投資信託ではなく、「インデックス・ファンド」が株式市場に上場したものです。
正確に言えば、ETF=上場インデックス・ファンド となります。

ETFの歴史

今日のような投資信託の姿になったのは1924年にアメリカで設定された「マサチューセッツ・インベスターズ・トラスト」が最初と言われています。

通常の投資信託ではなく、市場の平均値を構成する銘柄を株式市場に上場させる。
すると、それは個別株と同じように売買され、売り買いの機会が増えることになります。
いつでも機動的に売買できることこそ、ETFの根底に流れる原理なのです。

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維持コストが低くなる理由

ETFも非上場投資信託も「ファンド」であることには変わりません。
ファンドはまとまった数の銘柄を、運用の専門家である「運用会社」にしてもらうため、継続的なコストが発生します。
それではなぜ、ETFは非上場投資信託に比べて、この維持コストが低くなるのでしょうか。
非上場投資信託では、ファンドの運用に3つの会社が関係しています。
「運用会社」はファンドの運用そのものをつかさどります。
「販売会社」はファンドを販売している銀行や証券会社のことです。
「受託会社」はファンド資産を一手に管理する信託銀行のことです。
ETFの場合、販売会社ははじめから存在しません。
なぜなら、ETFは株式市場に上場する「ひとつの銘柄」であるからです。
(証券会社は仲介会社であり、販売会社ではない)
つまり、信託報酬に関して販売会社の取り分が最初から存在しないのです。
したがって、ETFはそれだけで維持コストが低くなります。

インデックス運用のロマン

インデックス・ファンドとアクティブ・ファンドの違いは、「市場平均」で良しとするか、あるいは「市場平均以上」を望むかという哲学の違いです。
アクティブ・ファンドは、運用会社が自ら銘柄を選んで売買を行い、市場平均以上の収益を目指します。
そこには、人間の目利き力を信じる「ロマン」があります。
インデックス・ファンドは、市場全体の成長を獲得できれば良いという「達観」した考え方です。
アクティブ・ファンドは市場平均を上回る収益を求めるため、しばしば銘柄の入れ替えを行います。
結果として、インデックス・ファンドに比べて売買手数料が多くかかります。
また、市場にまだ知られていない企業を発掘するため、銘柄の調査・分析にも時間を費やします。
その結果、人件費などのコストも増加します。
実際は市場平均をコンスタントに上回る成績を上げるアクティブ・ファンドは少数派です。
市場を出し抜くことが一時的にできたとしても、市場平均を上回り続けるのは至難の業だからです。

投資家のジレンマ

アクティブ・ファンドが市場平均を上回るリターンを求めて売買を行えば行うほど、結果としてファンドは効率的な市場の形成に寄与することになります。
つまり、多くのプレーヤーが市場で切磋琢磨すればするほど、市場平均を出し抜くことが難しくなるのです。
これが「投資家のジレンマ」と呼ばれる現象です。

債券をETFにするメリット

「EYFは株式に投資を行うツール」と思われる人が多いのではないでしょうか。
ある資産が複数売買され、価格が形成されれば、そこにはマーケットが成立します。
マーケットが成り立てば、市場の平均を示す「指数」が組成できますから、ETFを作ることが可能になります。
「市場平均」が存在するところに宿るツールなのです。
日本の投資家にはこれまで、海外債券の選択肢が限られていました。
例えば、米ドル建て債券の代表格はアメリカ国債ですが、大手証券会社を除きアメリカ国債の供給はごく限られています。
しかし、ETFというツールを用いれば、数多のアメリカ国債、アメリカ社債に投資を行うことが可能になります。

市場リスク

ETFに対する誤解の一つに「ETFを保有すればリスクが小さくなる」というものがあります。
確かに、一つの会社を選ぶ個別株式の投資に比べれば、市場全体に投資を行うETFの方が、価格変動の振れ幅は小さくなります。
しかし、ETFは市場全体に投資をい行うツールですから、市場そのものが変動するリスク=市場リスクは負い続けるわけです。
例えば、グローバル金融危機に見舞われた2008年の1年間で、先進国の株式市場はおよそ40%、新興国の株式市場はおよそ50%も下落しています。

上場廃止リスク

ETF投資を行う上で、最大のリスクがこの「上場廃止リスク」です。
ETFの「上場廃止」とは、ETFの運用を繰り上げて終了させるという意味です。
これは非上場投資信託の「繰り上げ償還」のイメージです。
ETFでは、万一上場廃止になっても、ETF保有者の資産がゼロになってしまうわけではありません。
ETFは売買高が伸び悩み、売り気配と買い気配のスプレッドが開いたままで、純資産も目減りする状況が続いています。
ETF運用会社にとって、このようなETFを運用するメリットはあまりありません。
運用会社も事業会社であるため、採算が取れないと判断したETFについては、「上場廃止」という決断を下す場合があります。
ETFの上場廃止が決まると、一定の猶予期間があり、「上場廃止」とともにETFが保有するすべての資産は売却されます。
そして、ETF保有者には現金の形で資産が償還されます。
実査にETFの上場廃止は起こっています。
2010年2月には野村アセットマネジメントが運用する3本の通貨連動型ETFが上場廃止となりました。
純資産が目減りし、投資対象(この場合、通貨価値との連動を約した有価証券)への投資を続けることが困難になったことが上場廃止の理由とされています。

トラッキングエラー・リスク

「銘柄の売買を行わないETFは日経平均株価という「指数」とのズレが生じにくくなる」と述べましたが、それでも指数とのズレがゼロになるわけではありません。
そもそも指数とは理論上のリターンのことです。
それに対して、ETFは利潤を求めて提供される金融商品です。
商品には人が介し、かつコストがかかります。
従って、指数とETFの間に「差異」が生じるのは避けられません。
ETFの値動きと、指数の動きの乖離のことを「トラッキングエラー」と呼びます。
ETFが運用を行う目的は対象とする「指数」と同じ値動きをすることですが、仮に市場平均とETFの値動きが離れてしまえば、それはインデックス運用と呼べなくなってしまいます。

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