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【毎日短編台本-4月4日】 言えない言葉はただの葉 (2人劇)


基本情報

タイトル-言えない言葉はただの葉
作-臼井智希
ジャンル-現代劇、会話劇
目安時間-5分
登場人物
白咲ゆめ-病床の少女。
黒木まい-ゆめの幼馴染。読書が趣味。


本編

病室。ベッドに白崎が横たわっている。白咲は本を読んでいる。病室には窓があり、外には木が生えている。窓は開いている。
季節は冬。
しばらくしてノック音。

白咲 はーい
黒木 まいだけど
白咲 あ、開いてるよー

コートを着た黒木が病室の扉を開けて入ってくる。

黒木 寒っ!...ってなんであんた、窓開けてんの
白咲 えへへ
黒木 身体に障るよ。閉めて良い?
白咲 ...うん
黒木 なに、いや?なんか理由があって開けてるなら開けとくけど。
白咲 ...ね。
黒木 なに?
白咲 あたし、もう一年も、生きられないんだって
黒木 うん。聞いたよ。
白咲 50%って話だからわかんないんだけどさ。でも、来年の冬を感じられない可能性が半分。
黒木 うん
白咲 だから、最後になるかもしれない冬を、ちゃんと感じたいんだよね。
黒木 寒いの、好き?
白咲 嫌い。でも、嫌いなものでも最後一回なら大切な気がして
黒木 ...そ。なら開けとくよ
白咲 うん、ありがと。
黒木 そうだ。はい。

黒木、持ってきた鞄から本を取り出し、白咲のベッドの上に置く。

白咲 あ
黒木 うん、今日の分。
白咲 ありがとう。
黒木 昨日渡したのは
白咲 もう読み終わってる。
黒木 そ。

黒木、白咲の持っていた本を鞄にしまう。

白咲 ありがとね。
黒木 いいけど、楽しいの?これ。
白咲 うん。
黒木 ふーん。ま、私は本大好きだからいいけど。
白咲 もう私は一生分の、さらに、70分の1ぐらいしか生きられないけど、本を読めば何人もの人生のぶんを生きられる。終わりが見えてから、本が、物語が好きになった。
黒木 ......そのぶん、自分の人生が生きられなくなってる。
白咲 え?
黒木 他人の人生を、何人分も生きるけど、自分の、自分だけの人生が無くなってる......ごめん。
白咲 ううん。良いんだよ。私はこれで良いの。
黒木 ......ねえ
白咲 なに?
黒木 嫌だったら全然断ってくれて良いんだけど
白咲 なぁに?
黒木 本、書いてみない?物語。

しばらくの間。

白咲 どういうこと?
黒木 私、ゆめの書く話が読んでみたい。白咲ゆめの書く言葉が、書く物語が読んでみたい。
白咲 ...そうなの。どうして?
黒木 わかんない。けど。ゆめと話してると、なんか、自分が、自分がしょうがない気がして、ゆめが、凄く思えて。そんなゆめの言葉に、もっと触れたい。ずっと触れていたい。
白咲 ......そっか。
黒木 ゆめ?
白咲 嫌なわけじゃ無いの。嫌じゃ無い。書きたいなっと思えたし、まいになにか残せるなら、少しでも残していきたい気持ちはある。だから、書きたい。けど。
黒木 けど?
白咲 1人にして。

しばらくの間。

白咲 今、ダメなの。1人にして欲しい。考えさせて欲しい。1人で。
黒木 ...わかった。ごめんね。
白咲 ううん。ありがとう。

黒木、カバンを持って出て行こうとする。黒木が部屋の扉を開ける直前。

白咲 漫画で見たことある?
黒木 え?
白咲 あの木の葉が落ちる時、私の命も...みたいなの。
黒木 あぁ...それが?
白咲 死が見えて揺らいだ人間には、ただの葉っぱにさえ全てを思い入れてしまうのね。......じゃあ、また明日。
黒木 また、明日。

黒木、病室を出る。
黒木と白咲、それぞれの空間。

2人 バレちゃいけない。伝えちゃいけない。言葉にしてはいけない。あぁ、でも、羨ましい。妬ましい。恨めしい。この感情は、恨み。私はあなたを恨んでる。
黒木 死ぬ。死が目の前にあってなおあの冷静。慈愛。慈悲。無欠。私はどこまで矮小なんだろう。私はどこまでしょうもない人間なんだろう。なぜあの子はありがとうと言い続けられるのだろう。命がある私を、恨んでくれればいいのに。
白咲 死ぬ。死が目の前にあって、心は散り散り。身体は動かせない。欠陥品でしかない。人を想えない。感謝してるフリ、愛してるフリ、誠実なフリ、達観してるフリ。そうでなければ見捨てられる。そうでなければ殺される。それがただ一つ、私が病気とできる戦い。命が恨めしい。バレないように。バレないように。全てを恨む。せめて綺麗な外套を。
2人 言えない。こんな恨み。言えない。言葉にできない。ただ落ちるのを待つひとつの葉っぱ。

終幕。


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