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【毎日短編台本-3月21日】 アノニマス


基本情報

タイトル-アノニマス
作-臼井智希
ジャンル-社会、現代劇
目安時間-5分


本編

都会の雑踏。行き交う人々と、ネオンの明かり。
その中、真っ黒なワンピースを着て座り込んでいる女性。誰も女性を気に留めない。
女性の手元にはスマートフォンがある。
スマートフォンの画面の光が女性の顔を照らす。

人々「試験落ちた我が国死ね」
人々「なんかあの俳優、最近デブってない?」
人々「え、あいつ不倫してたの?最低。人間のクズじゃん」
人々「パパ活するやつなんか脳みそ終わってる」
人々「あのグループ、可愛いのセンターの子だけじゃん」
人々「あのハゲ、国民の気持ちとかなんも興味ないのです。所詮売国奴なのです。」
人々「文章が読めない人に足りていないのは読解力ではなく想像力。想像力の足りない人はなにやってもどうせだめ」
人々「上司死ね」
人々「電車また遅れてんだけど。時間通りに走らないなら金返せよ、マジ真面目に働け」
人々「親は躾のために必要があれば殴る必要もあると思う。最近の子供はわがままで道理を知らない」
人々「最近入った新人の女の子。絶対飲み会来ないんだけど。最近の子はお高く止まって、結果損してるってわかんないかなぁ」
人々「無能は首括ったほうがいい」
人々「会社にスーツ以外でくるやつなんなの?制服ないからってなんでもいいと思ってんのかな、常識ない」
人々「安楽死を認めれば死は義務になります。」
人々「売り上げこそが人の価値だと俺は思ってる。」
人々「努力しろ。全ては環境のおかげ。才能のおかげ。努力しても無駄。努力しろ。頑張ることのできない人もいるんです。頑張れない人なんていない。自分が恵まれてることを自覚して。努力するな。努力しろ」
女性「正論だと思っているのだろう」

女性はスマートフォンの画面を消し立ち上がる。

女性「正論かはしらない。そもそも正とはなにかもわからない。ただ本人の中では正論であろう。だから誰かにとっては正論だろう。」

女性は走り回り、暴れ回り、踊り回り、苦しみながら話し続ける。

女性「だが。正論が良かろうか。正しいことは良いことか。匿名ども。お前たちは匿名の盾に庇われ、正しき理論を、間違い、隙のない理屈を振りかざす。良しがあろうか。匿名の盾に重ねて、正しさの盾まで構えて、そんなに傷つくことを恐れて他者を傷つける。抜き身の刀を持ち、全身甲冑を着込んで歩く。他者を勝手に裁定し、斬る。その裁定が正確であることに良しがあろうか。価値はあろう。ただしいのだから。だが、その価値を、私は嫌う。あぁわかったぞ。つまり私は価値が嫌いなのだ。好き嫌いで良い。感情でよい。正しき価値などいらない。正しき正論の価値が振り翳されれば、偽りもまた正論ぶることばかり上達する。穢らわしい。私によるな。この液晶はいつも正論と、正論面した偽りばかりを映し出す。もうこりごりだ。正論はいつも何かを讃えるふりをしてなにかを貶める。その流れで安堵を得るのも気味が悪い。私が欲しているのは執念だ。思いだけだ。個人だけだ。感性だけだ。感情だけだ。正論なんてほしくない。そんなもの、改めて見る意味もない。個人として気高く荘厳でありたい。私の聖典は私だけで結構だ。正義如きが邪魔をするな。私の花道に立ち塞がるな。

だが見てしまう。観測してしまう。不要な匿名を。消したい匿名を。消えろ!!!!!

恨むぞ」

女性はスマートフォンの画面をつけてまた座り込む。
人々の雑踏は何も変わることはない。
終幕。


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